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第9話 ③

「面!面!面!」


武道場に響く気合いの入った打ち込みは蝉も負けじと鳴くほどだ。


暑いのに面までつけて練習すると顔に大粒汗が流れる。地区大会も近く、個々の気合いは見てとれるほどだ。


ビィーーーーー!!


電子時計のアラームが鳴る。五分間の打ち込みが終わりみんなが面を取っていくと汗びっしょりの顔は皆一様に笑顔だった。


しかし、刀耶だけは浮かない顔をしていた。


練習がキツいとか暑いとかそんな理由ではない。どうも音に敏感になっているようだった。


EBで聞いた非常事態を知らせるアラーム。突然鳴った音に驚いてすぐに行動できなかった。みんなはすぐに動けたのに動けなかったのはまだ自分の中に恐怖があったからではないか、そう思わずにはいられない。


突然訪れる危険にどうすれば慣れるのだろうか……


刀耶の頭の中ではそう思っていた。


そんなものは慣れるものではない……


答えるとすればそれだけなのだが、刀耶はまだそれを誰にも話せてはいない。


その後もどうも集中できずにいると元春から声をかけられた。


「どうした刀耶、調子が悪いのか?水は飲んでいるか?」


「あ、うん!大丈夫だよ」


「そうか……悩みか?」


ぐいぐいと聞いてくる元春に悪意はなく本当に心配しているようだった。


「そういうのを放っておけない質でな!よかったら話してみろ!」


「あ、うん……。元春はさ、恐いものってある?」


「ない!!」


一瞬でぶったぎられ刀耶は目を丸くした。悩みを聞いてやろうと言っておきながら、共感も何もなしに根底から否定されるとは……。悩みとは一体……。


「恐いというのは自分に自信がないからだと俺は思う。だから俺は恐いものはない!自信があるからだ!刀耶が恐いと思うものは知らず知らず自信を失っているのだと俺は思う」


その後に出たのはまともなアドバイスだった。ちゃんと真を射ている正確な答えだ。まさにその通りだと刀耶も思った。


「自信を持つにはどうしたらいいのかな……」


「そうだな……例えば刀耶は剣道で俺に勝てるか?」


「えっ……。負けると思う」


「じゃあ自信がないんだな!じゃあ駄目だ!」


胸を張って答える元春に刀耶も段々肩が落ちる。


「でも……」


「自分がこうだと信じている意思が強ければ強いほど自信があるんじゃないか?俺以外に誰かいないかな……?烈は自信というより突っ走り過ぎなんだけどな!」


高笑いする元春がとても羨ましいと思った。こんなにも自信があって堂々と自分の意見を言える。自分にはできないと思った。


EBにそんな人はいないか……事情を話せる人で自信が満ち溢れている人……。


ん?……ヘルメス!そうヘルメスだ


思ってみればこんなにも近くに話せる者がいるではないか。


初めてヘルメスの声を聞いたとき、烈とは違う頼もしさを感じていた。軽い口調の奥には不思議な自信がいつも含まれている。


恐らく彼の自由さが自信に繋がっているのだろう。経験と信念、それがそれを支えている。刀耶はそう思った。


「ありがとう元春!ちょっと考えてみるよ」


「おう!」


刀耶は荷物をまとめ始めた。とにかくヘルメスに聞きたかったからだ。どうすれば自信がつくか。どうすれば恐くなくなるかを。




走る刀耶はいつの間にか商店街まで帰ってきていた。夏休みという事で人も多くそれほど早くは走れないが家に帰ってヘルメスと話したい気持ちが足をさらに速くさせる。


人混みを抜けるとそこには男性がポツンと立ち尽くしていた。気だるそうに空を眺め太陽の光を恨むように顔を歪める。


そこまで見れば夏の暑さに負けた一般人だが、そこからが違った。頬は痩け、身体が異常に細い。


何日も飲まず食わずで生活をしていたのか、はたまた病気なのか、虚ろな目をしてブツブツと何かを呟くその不審さに周りの目は関わりたくないという気持ちが勝ってしまっていた。


刀耶も周りと同じだ。いや、それ以上のものがあったため視界に男性が入らなかったのだ。


しかし男性は周りの目を否応なく引き付けた。


ギャアアアーーーーーーー!!!!


突然叫んだ男性に刀耶を除く人々が一瞬で恐怖に襲われた。そう、あの時と同じだったからだ。


刀耶が振り向くとそこには頭を抱え苦しむようの奇声をあげる男性がいた。周りは次々と男性から離れ、一瞬にして二人になってしまった。


なんだ……。


静まりかえった町に男性の奇声だけが響く。


ギャアアアアア!!!こ、こここ殺される!!


恐怖に震えうずくまる男性に刀刀耶は異常な雰囲気を感じ取ると、ふと男性がこちらを向いた。真っ黒な瞳がウロウロと宙を眺め、周りを必死に確認し始める。


刀耶は男性の方を向いたまま後退りした。まるで野生の獣から逃げるように。近づいてはならない、そう感が教えてくれている。


カラン……!


不意に足に当たった缶に刀耶は身の恐怖を教えられた気がした。警報のような体が一瞬で強ばるものではなくじわじわと追い詰められる感じ。一蹴った缶はカラカラと道の脇まで転がりコツンと段差で止まった。


男性と刀耶の視線がとうとう交わってしまった瞬間だった。


あ、あ、…………アァアアアアアア!!!!!


男性の体がぐにゅぐにゅと形を変え始める。体表が植物のように緑色に変化し始め手や足だったところは根を張るように枝分かれし地面を割った。


顔は花へと変化し、それが今まで人間であったことを忘れさせるくらいの植物へと姿を変えた。ドクドクと鼓動する体だけが唯一植物とは違い、その鼓動とともに地面から水分を吸いとり体を大きくさせていく。


この間の植物と同じだ。大きさは違えどレガシーの仕業であることは明白だった。人の三倍くらいになった植物はゆっくりと地面に張った根を引き抜くとその先を一人の少年へと向ける。


刀耶はそれをただ呆然と眺めることしかできなかった。


恐怖 を感じてしまったのだ。


自分に自信がない証拠、それが今自分の前に表れてしまった。これからパートナーに聞こうとしていたのに……。


根が刀耶に勢いよく迫る。距離にして百メートル、電柱ほどの太さの根が弾丸のように迫るなかで刀耶はパートナーの名を呼ぶことしかできなかった。


「ヘルメスっ!!!」


ズガァアアン!!


根が地面に突き刺さる。しかしその道筋に少年の体はない。刀耶の体は根が突き刺さったもう少し向こう、根は届いていなかったのだ。しかしなぜ届かなかったのか。それは根本を見ればわかる。


光の矢、植物の根本を地面に打ち付けるように刺さった光の矢は上空から放たれたものだった。その射線を刀耶が目で辿るとそこには弓を構えたパートナーの姿が見えた。


「ヘルメス!!」


「やぁ刀耶!丁度散歩に来てよかったよー。刀耶に怪我させちゃうところだったよー」


ヘルメスはニッコリと笑って額についた汗を拭う仕草をした。汗など流すはずはないが、自分の危機を察知してすぐに飛んできてくれたヘルメスに刀耶も笑顔になる。


「ヘルメス、話したいことがあるんだ!」


敵を目の前にして言う言葉ではないが、それ以外に出る言葉がなかった。ヘルメスは気持ちを知ってか知らずか笑顔のままこちらに向かって飛んでくる。


「オッケー!じゃあいくよ!」


「「エレメンタルコネクト!!」」


柔らかい薄青色の空間でヘルメスの刀耶の心が繋がり、刀耶が感じていた不安や悩みが徐々に溶け込んでいく。


「ヘルメスは恐いって思ったことはある?」


問いかけに答えるように目の前に映像が映し出された。


雨の森の中で何かが必死に歩いている。暗くて何も見えない中で近くの木を支えとしながら何かを探しているようだった。


「昔、兄弟が揃った頃に弟達を連れて博士に秘密で森の中を探検したんだ。すぐに帰れるし、ちょっと冒険してみたかったんだ」


映像が突然揺れ、上下がわからなくなるほどグルグルと回転して止まった。


「山の天気は変わりやすいって言うでしょ?そんなこと知らなくてさ、帰り道を歩いてたら足を滑らせちゃってね。知らないところに転がっちゃったんだ」


機械の手が火花を散らしていて画像も少し荒くなった。


「恐かったよ……。自信満々に弟達連れていって急に雨が降ってきて一気に不安になったんだ。焦って足滑らせて情っけない……この後ちょっと時間があるからちょっと早送りね」


映像が早回しで流れていく。雨は強くなって空には稲妻も見える。下の方を映すとバチバチとしている体が見えたのだが、その両拳は固く握られ、不思議と震えているように見えた。


急に映像が元の速さに戻ったと思ったら森の気を何かが照らしていた。その光がどんどんと近づいてきて、とうとう映像に光が射すと雨合羽の男性が眼鏡を濡らしてこちらに走ってきていた。


「この人が僕のお父さん、博士さ」


博士と呼ばれた男性は何かを必死に喋っていたがその表情はとても厳しく凄く怒っていた。拳骨で画面が揺れるが拳はすぐに開かれ画面をゆっくり揺らした。男性の顔に雨ではない滴がボロボロと流れている。


「怒られちゃったんだー。この博士も恐かった……。それから帰ってもう一回怒られて、兄さんにも怒られた。でもね……」


映像が揺れると今度は男性の後頭部を映した。おんぶされているのだろう。


「帰るとき言われたんだ『恐かっただろう?』ってね。その時刀耶の友達と同じように言われたよ。恐れっていうのは自信が無くなったときに表れる。今日みたいに一人でいて、何かの拍子に自信が折れたとき心は一気に恐怖に支配されてしまう。じゃあどうすればいいかって話なんだけど」


ヘルメスは息を吸うと自分にも言い聞かせるように言った。


「自分は一人じゃない!支えてもらってるから自信がつくんだ!って思うんだよ!刀耶もここにくる時、僕を頼っていたんでしょ?その時恐いと思った?」


刀耶は首を横に振った。確かに恐くなかった。話せばすぐに解決してまた頑張れると思ったからだ。


「この間の戦いの時、刀耶が緊張してたのはわかってたよ。また来たときにちょっと話そうかなって思ってたんだけど今になっちゃった!とにかく、僕もいるしみんなもいる。だからなんでも話していいんだよ!」


ありがとう。その言葉しか見つからなかった。やっぱり話せてよかった。


「じゃあトドメといこうかな刀耶!」


映像が途切れるとさっきまで自分を襲っていた植物が今はもうボロボロになっていた。ヘルメスは刀耶に話しながらも戦いその強さを存分に発揮していたのだ。


「僕も今は刀耶がいるから恐くないよ!」


「「ライ・アロー!!」」


今はもうヘルメスの腰に装着された琴が展開し腕に装着される。


「ありがとうヘルメス」


「真菜ちゃんとのことも話してね!」


「それは……」


「いくよ!!」


光の矢をつがえ、ゆっくりと弓を引き絞る。その手にこもった力は恐怖ではなく自信。二人分のの自信は矢を真っ直ぐに飛ばすだろう。これからもずっと……


「「オルフェウスシュート!!」」


琴の名手と言われ妻を取り戻すために冥界までいった者の名を借りた一撃が一直線に植物へと向かっていく。矢は空気を震わせる光の指、その軌跡は綺麗な音色となって空間を震わせる。植物は矢が自らの体に刺さるまで何もできなかった。その音色に体が動かず、受けても何もないと思えるほど穏やかな一撃だった。


植物は穏やかにその葉を枯らし根を縮めていく。ゆっくりと浄化されていき、人間の形へと戻っていく。男性の顔は穏やかな笑顔、体内に巣くっていたものは全て消え去った。


ヘルメスは弓を畳むとその弦を一つ弾き曲の終わりを告げた。


-------------------------------------


その日の夜、人口島の路地裏にはドラッグが大きくなった中毒者たちの塊を見てニヤニヤと口角を上げていた。


「一匹逃がしましたが、まあいいでしょう。それにしても二体目の機械人形……。こちらの力も戻ったことですし、何体になっても同じですがね!」


刀耶とヘルメスが中毒者を倒したのをドラッグは影からずっと見ていた。中毒者を連れ戻そうとしていたのだが思わぬ収穫が得られたことにドラッグは納得していた。


「後は私の力をスコ~シ加えれば……」


ドラッグが手を添えると塊はぐにゃりと胎動を始めドクドクと鼓動を始めた。


「いいですね~!!これで機械人形を~~!!ヒャッハーーーーーーハハハッハハハハハッハ!!!」


路地裏で不気味に叫ぶドラッグの姿は誰にも見えていない。もちろん鼓動を続ける塊もだ。夜の闇に紛れて動く過去の遺産は大きな災厄となってガイアたちに襲い掛かるのであった。



次回予告

ガイア:博士!次回予告ですって!

結城博士:・・・水の惑星、その星には正義の海賊がいた。

ガイア:博士、どうしたんですか?

結城博士:その海賊は宇宙を股にかけ、その星の繁栄だけを願っていた。しかし!そこに現れた宇宙を支配しようとする残虐な支配者。海賊はほかの星々と協力して支配者に挑む。その星の宝と言われる船に乗って!!

ガイア:聞いてます博士?

結城博士:おっと・・、ごめんなガイア。父さん新しいアニメの原作小説を書いていたんだ。

ガイア:見たいです!

結城博士:まだ途中までしかできてないからできたら一番に見せてあげるよ。

ガイア:ホントですか!嬉しいです。ではっ早く締めなければ!次回!!「激突!レガシー!!」そういえば博士、今週中に提出する論文は・・・?

結城博士:これだしちゃダメかな・・・?


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