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第7話 ③ 

刀耶と真菜は一通り館内を見た後、外の様子が見えるガラス張りのカフェスペースで昼食を食べていた。十日前に聞いた声によると館長に話をしなければならなかったがそんな事はすっかり頭から消えていた。


「午後からはどうする?」


「ここを出て別のところに行ってもいいよ。どこか行きたいところはある?」


「うーーん。特にないなー」


最初の頃に比べて段々と慣れてきた……いや、小さい頃に戻ったように話せるようになった刀耶に真菜も笑顔で答えてくれる。


なにやら外では航空ショーが行われているようでさっきは大きな歓声が起こっていたのを中からでも確認できた。外に出れば大きなドーナツが見られたのだが、今は皿に乗っているドーナツの方が二人は嬉しかった。


「刀耶君」


「なに、真菜ちゃん?」


たこ焼以降こう呼ばないと目の前に自慢の拳がちらつくようになったのだがすでに慣れたものだ。


「えっと……またこうやって出掛けない?」


刀耶にとっては願ってもないお願いなのだが上目遣いで聞いてくる彼女の破壊力は抜群で、リラックスしていた体が一瞬で強ばってしまう。答えは「はい」しかないのだが彼女のかわいい姿をまだ見ていたい欲求に襲われる。


「今度はお礼とかそんなの関係なしに……。だめ?」


顔が赤くなっているのがその熱さからわかる。首をブンブンと縦に振ると彼女の顔はパァっと明るくなった。


「やった!じゃあメール交換しよ!また連絡するから」


なんだか彼女が自分のしたいことを全部してくれているような気がしたが、刀耶はそんなことを考える余裕もなく自分の携帯を出した。


「これでおっけーかな?うん!じゃああたしの登録しといてね!」


嬉しそうに携帯をしまう真菜に対してじっと自分の携帯を見つめた刀耶は大事に大事に情報を登録して鞄にしまった。


「じゃあそろそろいこっか!」


そう立ち上がった時だった。なにやら外が騒がしい。


小さな悲鳴が聞こえたと思ったら何かが崩れるような音も聞こえてくる。


ウゥーーーーーーー!!!!!


館内に突然響き渡る警報に全員が驚いた。多くの人がすぐには対応できずその場で呆然としていたが外を見てやっと事の非常さに気付いた。


そこには今まさに博物館くらい大きくなっていく黒い塊が周りの店を潰しながら不気味に蠢いていくのが見えた。


「なんだあれ……」


段々と周りにもその異様さが伝わりガタガタとざわめきと共にその場を後にしていく。


「刀耶君……」


「逃げよう!」


二人が席を立ちその場を離れようとしたまさにその時、一際大きなガラスが遠くで割れた。


それが混乱の引き金を引いた。


一斉に走り出す人たちが雪崩のようにその場から離れようとする。怒りや恐怖を表に出しながら一心不乱に逃げる人達の中に刀耶達はいなかった。


「と、刀耶君……!」


「大丈夫だよ!さっ 背中に!」


その場に座り込む真菜は体験したことがない恐怖に腰を抜かしてしまい、逃げるのが遅れてしまった。


「ごめん、なさい……」


「大丈夫だって真菜ちゃん。行くよ!」


おんぶしながら非常口の看板を頼りにゆっくりと歩き出す刀耶。


非日常だ……。


とうとう自分にもそれが訪れてしまったのだと思うと体が震えてしまう。


しかし、ふと背中でむせび泣く声が聞こえた。


「刀耶君……」


顔は見えないが必死に手で涙を拭いながら泣くのを我慢している真菜の姿が想像できた。自分だって恐いのに彼女が恐くない筈がない。いつもは強気な彼女も今や普通の女の子だ。


彼女の震えも自分に伝わって来てしまう。しかしそれが恐怖を倍増させはしなかった。


彼女を守りたい!その気持ちが自分を強くしている。背中で泣いている女の子は自分の好きな人だ!そう思うと体に力が沸いてくる。彼女が泣いている姿は絶対に見たくない!そう思うと心が強く鼓動を刻む。


『ボクのパートナー!早く来て!』


するとあの十日前に聞いた声が自分を必死に呼んでいる。


『博物館に来ているなら外に出て!僕は今空を飛んでる青い機体だ!僕を見つけたら手を挙げて僕を呼ぶんだ!ボクの名前はヘルメス!』


その言葉に刀耶は腹を括った。


「刀耶…君……?」


「真菜ちゃん、恐い思いさせちゃってごめんね。実は今日ここに来たいって言ったのは誰かに呼ばれたからなんだ。その声によると僕はヒーローになれるらしいんだけどそんなのどうでもよかった。でもこんなことになって今わかった、真菜ちゃんを守りたいと思ったんだ!だから……僕についてきてくれないか!?」


その言葉に真菜は涙を拭うとぎゅっと刀耶の体を抱き締めた。


「うん!行って刀耶君!!」


彼女の思いを受けとり刀耶は今も蠢く物体に向けて走り出した。



「ヘルメス!」


「ちょっと待って!来そうな気がするんだ!」


蠢く黒い塊を監視しながら避難誘導するガイアはすでにロボットの状態へと変形していた。


『来そうっていつくるんだよ?!』


ガイアの中で烈も周りを見渡す。


「来そうったら来そうなの!兄さん達は時間稼いでて!」


無茶な指示を受けたガイアに突然鞭のような攻撃が襲う。何とか躱したが勢いは地面にぶつかり無惨に抉られてしまった。


「健太郎!グランライノは?!」


『人が多くて到着できそうにない!』


その間にも新たな攻撃がガイアを襲うが鞭のような攻撃は実は足からの攻撃であると変化し終わった黒い塊からわかった。


「蛸か……」


巨大な蛸は八本の足をくねらせゆっくりとガイアに近づいてくる。


「まだ避難は終わらないのか……」


今もガイアの横では多くの人が係員の指示に従って外へと避難を続けている。親子連れが多いがお年寄りも多く見え、若い人が必死に手を貸している。


その中の一人に少年がいた。同じくらいの歳の少女を背負い一緒になって避難をしていたのだが目線は上をしきりに気にしていた。


「!! ヘルメスっ、彼だ!!」


ガイアが上に向かって叫ぶと少年もそれに気付き避難する列から抜け出した。


「と、刀耶!?」


「よっしゃあああ!!」


驚く烈だが言葉を続けるより先に頭上からの声に遮られてしまった。



『来てくれたんだね!』


「君がヘルメス?!」


少年は必死に空に向かって叫び、自分の頭上から降ってくる青い飛行機をじっと見つめていた。


『そうさ!僕こそが空のヒーローさっ!それで君の名前は?』


「刀耶……蒼井刀耶!!」


自分の新たなる一歩はとてつもなく大きな一歩だと少年は思ったが恐らく大丈夫だと不思議と思えた。


『君も英雄になりたいかい?』


「僕は……彼女を守りたい!」


そう、今まさに背中に掴まって背中を押してくれた彼女の為に決意したのだ。


『いいねー気に入った!!君は僕のパートナーにふさわしい!』


「僕は何をすればいい?」


自分に出来ることならなんでもしたい。彼女を守るために。


『じゃあまずは僕と一緒に戦って欲しい。君の心の力を貸して!!』


段々と二人の距離は縮まる。それでもヘルメスは勢いを弱めようとしない。


『いくよ!!』


少年が空に思いきり手を伸ばすとそこに吸い込まれるように青い機体が合わさる。少年とヘルメスの心が合わさる!


『「エレメンタルコネクト!!」』

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