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第7話 飛び立て!大空の戦士 ①

ガンバって追加追加・・・

7月。期末テストをなんとかクリアした学生を祝うかのように暑さは次第に増し、蝉が一生懸命ミンミンと鳴き初めていた。


町には次々と休みになった学生で溢れ、人口がいつもより増えた気がする。


龍神高校でも終業式が行われており、烈を含め浮足立った全生徒は校長の話を最後の試練だと言い聞かせていたが、そういう時に限って饒舌に喋る校長の話はいつも以上に長かった。


「くれぐれも思慮ある行動をしてください」


その言葉が注意ではなく夏休みが始まる合図だと感じる学生は多いだろう。実際そわそわしている赤い髪の学生が一人。少年は次に話す兄の言葉などまるで聞く気もなく”夏休みに何をするか”それだけを考えていた。



終業式を終え、教室に戻ってきた刀耶の横に烈が座り話始めた。笑顔に溢れ、体が待ちきれないと小刻みに動く。


「やっと夏休みだな!」


「楽しみだね!今年は何するの?」


「俺はやっぱり稽古だな、大会もあるし!その合間に海行って山行って、それで1日中寝る!」


そんな友を見てがっくりと肩を落とす。


「遊んでばかりじゃ駄目だよ……。宿題もしなきゃ去年みたいに徹夜になるよ?」


ギクリとした友に去年の事を思い出すと今でも溜め息がでる。一年の夏休み、烈は夏休みの学生がしたいこと全てを実行すべく毎日を過ごしていた。


海に行ったと思えば山に行き、部活に行ったかと思えば遊びに行き、スイカを食べたかと思えばバーベキューをしに行った。


そのせいで夏休みが終わる一週間前に泣きついてきたのがいい思いでである。その時は心を鬼にして突き離そうとしたが「後生だから!」と絶望した顔が今でも忘れられない。


「後生って前いってたよね?」


「くっ!!……でもよー。夏休みってのはやっぱり普段できないことをやりたくなるんだよなー」


「烈はやりすぎなの。今年は絶対手伝わないからね!」


と言いつつ烈が泣きついてくるのは中学生の時からである。


「そういえば夏休み 大会があるんでしょ。部のみんなはどうなの?」


「3年の坂木先輩はこれで引退だしやる気になってて俺たちも盛り上げたいと思って必死に練習してるよ。それでなんだけど……」


烈が何か言おうとした時、廊下から声が投げ掛けられた。


「烈――!部活に行こうぞ!!」


教室に入ってきたのは双子だった。こちらに近づいてくる姿は一見判別がつかず鏡に写った人間が歩いているように見える。


「おっ良いところに!元春、隆景!ちょっとこいよ」


不思議そうに近づいてきた双子を改めて見て改めて似ているな思った。暗緑色の髪を短く切り、キリっとした目鼻立ちは睨まれていなくても身がすくみそうになる。


「どうした烈?」


口を開いたのは右の少年だった。左は同じく不思議そうな顔をしていたが首を縦に振るだけだった。


「まぁまぁ。さぁ刀耶、どっちが隆景だ!」


いきなりの質問に双子と刀耶は少し驚いたが、確か烈から特徴は以前聞いていたな……と思い答えた。


「えっと、左かな?」


「……どこでわかった?!」


正解だったのか双子は顔を見合わせ、四つの鋭い目は見つめてくる。


この双子、黄瀬川きせがわ兄弟は高校でも名の知れた双子だった。ただ単にそっくりな双子だからではなく、その家があの黄瀬川グループであったからだ。獅子神ほどではないが日本を代表する会社であり、知らない人はいないほどの企業である。


なんでもスポーツの器具を扱う企業らしくその中で小さい頃に剣道をしてからというものメキメキと実力を付け、敵なしと言われるほどになった。一番下にもう一人弟がいるのだが二人とは年が離れているらしい。



少し話が逸れてしまったが双子はその理由を早く知りたいようだ。


「えっと・・・隆景君はちょっと髪の色が暗くて左の目元にホクロがあるよね。それでお兄さんの元春君は逆に髪の色が明るくて左の目元にホクロがある。・・・合ってるかな?」


正直烈の受け売りだが今日見て確信が持てた。よく見ると所々違い、雰囲気に至ってはまるで太陽と月のように違った。


「この龍神高校に“2本の矢あり”と言われたこの黄瀬川兄弟を見破るとは……」


兄である黄瀬川元春が驚くと、弟である隆景の顔も同じ顔をして頷く。


「さすが刀耶!でだ、話がある」


「何?」


「部活入らねぇか?」


「えっ?」


烈の提案にすぐ首を振れなかった。確かに自分は剣道をやってるがやめた理由も烈は知っているはずだ。それなのになぜ自分に声をかけるのかわからなかった。


「どうして……」


「また一緒に剣道したいなと思ったんだ……。いやっ本当にしたくないならいいんだけどよ。友達が多いとできるかなって思ってよ……」


確かに今は両親も剣道については言わなくなった。そもそもやること自体は好きだし、道具も綺麗に整備はしている。ただ始めることで両親からまた言われるのを恐れていた。自分はただ剣道をしたいだけなのに……。


「ちょっと考えていいかな?」


「お、おぅ!」


烈には悪いが今はそう答えるしかなかった。


「いつでも声かけてくれよ!元春と隆景もいるから!」


「えっ、でも……」


「さすが蒼井道場だ!人を見る目があると言うことか……」


双子を見るとさきほどの驚きの表情から納得の表情へと進化していた。


「これからよろしく頼む!俺は黄瀬川元春!こっちは隆景だ!」


不意に差し出された手に何事かと中途半端に手を出すと、すかさず握られてしまった。


「えっ?何これ??」


「烈は俺達を友達にしようとしているんではないか?急で中途半端だが!」


烈を見ると納得したようでしていない、ちゃんとできているようでできていない。そんな顔をしていた。


「うるせぇ!慣れないことしたんだから当たり前だろ!」


友の気持ちにとても嬉しくなった。烈が友達で本当によかったと思った。しかし次の言葉でその気持ちが一気に冷める事になる。


「“影の生徒会長”の傘下に俺達も入ったわけだなっ隆景よ。」


「影の生徒会長?」


一瞬おかしな名前で呼ばれた気がしてオウム返ししてしまった


「そうか、本人は知らん事だったな!そう!この学校を裏から支配するのが蒼井刀耶その人だと。なんせ烈の兄である生徒会長を調略し、上級生を味方につけた。それに最近は空手部の彼女を作り次期生徒会長は絶対だと何やら噂になっているぞ!」


まさか自分がそんな風に呼ばれていたなんて……だからなんだが同級生との距離が離れていると思った。


「烈・・・。知ってたの?」


烈はニコニコしながら首を縦に振った。それを見た刀耶は頭に手を当て机に伏せた。


「いつから・・・?」


落ち込んだ刀耶が独り言のように聞いた。


「そうだなー。1年の秋くらいかな?お前が兄貴の手伝いを始めたころだったと思うぜ」


烈が思い出すように刀耶の質問に答えた。


「だからか・・・。どうもみんなとの距離が遠いと思った」


刀耶は机に伏せたままさらに体を机に預けた。


「はははは!影の生徒会長も大変だな!おっ烈、部活に行かねば!」


「やべっ!じゃあな刀耶!部活の事、考えてくれよな!」


三人が走り去る姿を苦笑いで送るしかなかった刀耶が周りを見ると、さっきの話のせいか周りの目が余計気になって、チラチラ見られている気がする。


「はぁ……」


考えても仕方ないと帰る準備をしていると耳にザラザラとした感触を感じた。


(・・・えるー・・・)


「ん?」


誰かが遠くで何か言っているのか?窓の外を見ても特に運動部はいないし誰かが待ち合わせしている感じもない。


「気にしすぎかな……」


(誰かきこえますかー)


今度はもう少しはっきり聞こえたがなんだか不思議な聞こえ方だ。耳に入る聞こえ方ではなかった。


(これが聞こえる君はヒーローになれるよ!なんてね。兄さんがやってみろって言ったからやってみたけど聞こえないでしょ。え、何?続けろって?もーーー。しつこい男は嫌われるんだよ兄さん。・・・わかったよ。これが聞こえた人は10日後東京都の運行技術博物館に来てそこにいる館長さんにこのことを話してみてねー)


そこで声が聞こえなくなった。とても元気な声に怪しさなんて全く感じないほど溌剌はつらつとした声だった。


「ヒーロー……」


最近話題になっているEBのニュースを思い出した。


最近会った商店街の通り魔事件、博物館での戦車事件、そして町にも多大な被害をもたらした大型ロボット騒動、普通に過ごしていれば起きそうにないことが起きている。


そんな事を言ってはいるが実際には通り魔も戦車も、そして町を壊したロボットさえも見えず、ただあったことをニュースで知るばかりだ。日常が非日常に変わってはいたがその非日常も日常に変わりつつある。


それもあのEBという機関が必死で戦ってくれているからだろう。でももしこんな事件が自分の身の回りで起きたら、自分や家族、友達が巻き込まれたら・・・。自分は何ができるだろう。


声は自分だけに聞こえたのか……。誰かがやってくれるのか?でも部活ですらすぐに決められない自分にそんな事ができるのか?そもそもあの声は本当の事を言っているのか?


「今日は帰ろう……」


家に帰ると母親が門の前で出迎えてくれた。


「おかえりなさい」


「ただいま…おじいちゃんいる?」


「道場にいると思うわよ」


素っ気ない会話でもなにか言い出したいことを我慢している母親の姿があり、刀耶はそれが嫌だった。何かあれば言ってくれればいいのに、やはり最後は道場の話になるので話し出せないのがバレバレだった。


「……ありがとう」


刀耶の家は昔ながらの武家屋敷のような作りであったが、広い敷地に洋風の家と和風の家が並んでいる不思議な作りだった。実際に刀耶が住んでいるのは洋風の家で祖父は和風の家に住んでいた。


和風の家の横にある道場を覗くとそこには座禅を組んでいる祖父”源四郎”の姿があった。


「おかえり」


「ただいま……」


ゆっくりと道場に入ると懐かしい木の匂いがした。ここに入らなくなって何年だろうと考える。


「どうした、何かあったのか?」


源四郎の前に座るといつもの優しい祖父の目で見つめられた。稽古中はそれは恐く猛禽を思わせる鋭い目が刺さるようだ。


「少し相談があるんだけど……」


「なんじゃ、じじぃに答えられるなら答えるぞ?」


「また剣道をしようと思うんだ……」


その瞬間源四郎の目が一気に恐くなった。


たえにまた言われたか?!」


「ち、違うんだ!」


たえは刀耶の母で源四郎の娘だ。蒼井家は代々の剣術道場だったが源四郎の代で男が生まれず、その為娘の妙には婿をもらうようにと必用に言ってきた。


そのような厳しい条件もあって心配もしていたのだが、そのうち刀耶の父親と出会い、条件も承諾してもらい結婚することとなった。


刀耶の父は真面目で道場の件についてもわからないながらも必死に努力し、働きながらも源四郎に徐々に認められ幸せな日常を過ごし、その結果刀耶も生まれた。しかし……


刀耶が小学校の頃、いつものように見送った父親は帰ってこなかった。なんでも会社に行く途中に交通事故にあったらしい。幸せな日常がその日からバラバラに砕け散ったのだ。


あまりの悲しみに家に籠るようになった妙はぽっかりと空いた心を涙で埋めようと一日中部屋で泣いていた。さすがに源四郎も何も言えず、刀耶の面倒も見ながら過ごしているうちに ふと 妙が道場に来た時があった。


その時からだ、刀耶に必用に道場を継ぐようにいい始めたのは。


「妙はお前に父親を重ねておる。いない悲しみをお前に擦り付けているんだ……」


当然刀耶もそれはわかっていた。何かをしていても二言目に出てくるのは「お父さんだったら……」だった。


「無理をしなくていいんだぞ?」


「本当に違うんだおじいちゃん。実は烈に部活に誘われて…」


今日あった事を源四郎に話すと恐かった目元がまた優しいものに戻った。


「それで、またやりたいなと思ったんだ……」


笑顔で頷いた源四郎は立ち上がり出口に向かって歩きだした。


「刀耶」


「はい……」


「自分がしたいのであればすればいい。妙には儂がきつく言っておくから大丈夫じゃ。好きに生きろ、自分の人生なんじゃから!」


そう言って道場を後にすると一人になった刀耶は壁に掛かっていた竹刀を取りだし素振りをし始めた。久しぶりに握る竹刀に体はあまりついてきていない。


「鈍ってるな……」


自分の中の問題が一つ解決したような気がする。まだまだ問題はあるけど一個ずつ解決していけばいいと思う刀耶の剣は徐々に昔へと戻っていくのであった。



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