第5話 ③
そんなこんなで作業が再開されると烈も作業服を着込み部品を運んだり、磨いたりと手伝いを始めた。
「烈君だったか?部活はなにやってるんだ?」
「剣道やってます!」
30代くらいのがっしりとした男性に聞かれ、磨いた部品を渡しながら答えた。
「へぇ!課長は運動からっきしなのにやるねぇ!」
今度は細身の人に言われ、その場に笑いが起こった。
「課長!今度剣道してみては?」
「勘弁してくれよぉ……歳なんだから……」
肩を叩きながら健太郎が答えると、また笑いが起こった。
「えっ?!でも奥さんおな……」「シッ!!!」
突然遮られた言葉に烈は不思議そうに父を見つめた。
「母さんがなに?」
「い、いやー……。なんでもないぞ!なんでも!」
「どこか悪いとか?」
「えっと……うーーーん……」
ウゥーーーーーーーン!!!
健太郎のうなり声ではなく非常用の警報が開発課全体に鳴り響き、一斉に動き出した作業員達は自分の持ち場に戻っていく。
「烈!こっちに!」
さっきまで優しい顔をしていた健太郎も真剣な表情になり烈を呼んだ。
未だガイアは修理中、グランライノに至っては動くことすら出来ない状況にみんなの不安が一気に高まる。
が……
通常ならガイアが発進するまで鳴り響くはずの警報が途中で止まってしまった。突然止んだ音に緊張が少し収まると全体放送を知らせる鐘がなった。
「みなさんお騒がせしてすいません。今の警報は間違いです。繰り返します。ただいまの警報は間違いです」
アースの声に一同がホッと胸を撫で下ろした。
「たった今宇宙からこちらに接近してくるものがありまして、それに反応してしまったようです。手の空いている方は外に出ていただいていいですか?できれば技術開発課の皆さんは全員お願いします。後ガイアと赤兎烈君もお願いします」
研究開発室にいたガイアや烈たちは疑問に思いながらも屋外に出ていくと、他のEB職員の姿もあった。その中には獅子神もいて、普段は屋内にいるアースも一緒に何かが来るのをじっと待っていた。
「どうしたんだアース、何を待っているんだ?」
ガイアの問いかけに集まっていた人達の視線がガイアに集まり、みんなの顔が明るくなると拍手が起こり始めた。
もちろん先日現れたパワードを見事倒したことによる拍手だ。
「すごかったぞ!」
「これからも頼むぞー!」
「かっこよかったよー!」
称賛の言葉にガイアは驚き、照れながら拍手をしてくれる人たちに頭を下げるしかできなかった。
「ガイア、体はもういいのかね?」
「少し動きづらいですが開発課の人達がいるので問題ありません」
そうかそうかと笑顔で首を縦に降った烈の方へも歩いてきた。
「赤兎君、ありがとう。よく頑張ったね!」
「いえっ!ガイアが守ってくれたので安心でした」
獅子神がまた笑顔で首を振るとその場が少し騒がしくなった。
「実はこのEBに新しい仲間が来てくれるんだ!ガイア、君の弟さんだよ」
上を向くと昼間だというのに光る、いや燃えている物体が地上に向かって落ちてきていた。
「誰なんだアース?」
「すぐわかりますよ」
炎が消えただの光の玉になった物体はフワフワ何かを探すようにフワフワと漂っていた。
「ヘルメス、こっちだよ!」
呼びかけが通じたの玉はピクッと跳ねそのままさらに近づいて消えてしまった。
ポコンッ!
液晶画面から生まれるように飛び出した光の玉はまっすぐにこちらに向かってゆっくり近づいて来ていたが、自分と同じものを見つけてスピードをあげた。
「ガイア兄さああああああん!」
とても若い声だった。子供のようにちょこちょこ動く光の玉は小さく、アースと比べるとバスケットボールと野球ボールくらいの違いがある。野球ボールは落ち着きなく動き次第にアースの周りを公転をし始める。
「久しぶりぃいい兄さん!!何年ぶりだっけ?!こんなに丸くなっちゃって・・・って僕もか!!ハハハ。地球はどう?発展してる?水星はね、やっと変な魚みたいなのが生活できるようになったんだよ。これを育てるの苦労してね!!で、山の陰で育ててるんだよ!そうそう山と言えばいい金属見つけたんだ!たぶんゲルマニウム系の金属で原子番号三百くらいかな?!どんなコリでも一網打尽、溶かすように物体を変化させられるんだ!」
終わらないマシンガントークとはこの事をいうのだろう……
「そういえば最近ね!太陽の黒点の面積が大きくなってきてね!ちょっと寿命が見えてきたようだよ!まぁでもあと一億年は大丈夫だけどね!それでねさっきの話に戻るんだけどクレーターの陰で育てる魚!顔が面白いの!超ブッサイク!今度見せてあげるよ!でね、やっぱり水星暑いの!もう熱さとの闘い!!油断してるとすぐ茹で上がっちゃうの!でねっ!でねっ!」
久しぶりの兄弟の対面なのだがそろそろ全員の首が疲れて来てしまった。しかし獅子神だけはニコニコとその様子を子供のような笑顔で見守っていた。
「ヘルメスだったか……。ヘルメス、そろそろみんなに挨拶したらどうだ?」
最初に話しかけたのはガイアだった。ピタッと野球ボールが止まりガイアに近づくとアースとガイアの間を忙しなく行き来する。
「あれ、兄さんが二人?どういうこと???」
「ヘルメス、私は今アースと名乗っています。そして彼がガイア。私の分身なので一応は私ですよ」
アースが話すとヘルメスは手を打つように跳ねてくるくると回り始めた。
「ふーん……。オッケー!じゃあアース兄さんとガイア兄さんだね!やったぁ兄さんが増えたぞ!」
よくわからないが光の玉は納得したようだった。
「では改めまして、僕の名前はヘルメス。博士の作った6体のロボットのうち2番目に作られたロボットさ!好きな燃料は水素。嫌いなのは重油。空が好きだよ!」
ヘルメスは楽しそうにピョンピョン跳ねながら自己紹介をするとその場にいた職員は肯定ではない首の縦振りをしながら聞いていた。
「はじめましてヘルメス君。私はここの責任者で獅子神という者だ。君のお兄さんに助けてもらっている。それで君がここに来たということは私たちに力を貸してくれるということでよかったのかい?」
獅子神が代表して挨拶するとヘルメスはフワフワと近づいてきた。
「もちろん!僕の故郷だからね!アース兄さんの最初の友達でしょ?話は聞いてるよ!よろしくね!」
獅子神の手に乗っかったヘルメスは握手をするように手を包み、獅子神はその暖かさにアースと同じものを感じ取っていた。子供のような印象なのにアースのようにしっかりとした暖かさを感じた。
「それで、君が烈君だね!よっろしくぅ!」
烈も手を出すと同じように包んだ。
「ふんふん……なるほどぉ。生命線が長いけど頭脳線が少し短いね。努力家だねぇ!」
「ちょっ、くすぐったいって!それに頭は悪くないからな!」
手をまさぐり倒したヘルメスはフワリと宙に浮くと烈の頭の上に乗った。
「じゃあ本題ね!僕もここで一緒に戦う以上、体が必要なんだけど僕の体にぴったりなものはあるかい?」
烈は考え、一つの答えを出した。
「またあそこに行ってみるか!」
ガイアの体を見つけた博物館に行くことを提案するとヘルメスも楽しみでしょうがない様子で「いくいく!!」と承諾した。
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灰色の島ロストアイランドの地下では7つあった影が6つになっていた。
「アイツハシンダカ?」
話しているのか発しているのかわからない声がする。
「油断するなって言ったのにね!」
子供の声が笑って続けた。
「不幸ね。私の方が・・・」
「骨じゃなくて肉は拾ってやろうと思ったのに」
女性の声と太った声は我関せずといった感じに話に加わった。
「みんな、パワードはまだ死んでないよ。まだ核が残ってる。ドラッグ、鼻の利くシモベを貸してくれるかい?」
四体の少し驚いた顔を見たアダムは向かいに座るひょろ長い影に向かって話しかけた。
「しょうがないですね~仲間を助ける為です。人肌脱ぎましょう。それでアダム、次は私が行っても?」
煙草のほのかな灯りに照らされる口許は不気味に口角をあげていた。
「もちろん大丈夫だよ。いっておいで、パワードを忘れないようにね」
「大丈夫ですよ~。先に迎えに行ってそこから考えます~。では皆さん、いってきます」
ドラッグは机に煙草を擦り付けると吸い殻を残したまま立ち上がり闇の中へと消えていった。
その夜、灰色の島ではある生物が生まれていた。鼻を地面に近づけ匂いを嗅ぐ仕草はまるで犬のようだったがそれも上半身だけだ。
下半身には魚のような鰭があり所謂半魚犬の姿をしていた。広い大地と言えどその鼻は僅かに残るパワードの匂いを簡単に見つけ出してしまった。
ハッハッと呼吸を整えた半魚犬は一つ遠吠えをすると下半身を引こずりながら海へと飛び込んでいった。
「さて~私も準備をしますか~」
そこには全身黒の服を着たひょろ長い男が立っていた。トレンチコートにスラックス、唾の広い帽子から見えた顔にはモノクルとくわえた煙草が見えた。名をドラッグ、レガシーの内の一人である。
煙草を海に捨てたドラッグがゆっくりと歩き出すと大地がうねり、地面に飲み込まれるように姿を消していった。
次回予告
ヘルメス:というわけでボク参上!
アース:久しぶりだねヘルメス。
ヘルメス:そうだよ!でも兄さん2人だとややこしいね。
ガイア:そんな事はないぞ!これがホントの兄さん(2さん)だ!
ヘルメス:なるほど!!頭いいね兄さん!
アース:少し違うと思います・・・。
ガイア:次回!「自由な弟」
ヘルメス:和尚が2人で・・・