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第5話 ②  

その日の夕方のニュースは突如現れたゴミの巨人の話題でもちきりだった。あるところでは宇宙人の襲来と、またあるところでは新手のテロだというものもあったがそれを一蹴したのが獅子神だった。


テレビのチャンネルは全て獅子神の記者会見を映し、たくさんのマイクとカメラに囲まれた壮年の男性の言葉を待っていた。


「まず、今回現れた怪物について我々が言えるのは“人類の敵”だということです。先日起きた商店街での通り魔事件、博物館での破壊行為についてもその怪物のものであります」


そう始めた獅子神にたくさんのフラッシュが焚かれる。


「我々はある人物からこの話を聞いてあの存在を知りました。話によるとそれは地球が生まれた頃から存在し、復活する機会を伺っていたようなのです。彼らの名前はレガシー、それ以外の事はまだ調査中です」


『すいません。レガシーとは英語で遺産という意味ですが何か特別な意味があるのでしょうか?』


一人の記者が問いかけると録音機を持った手が一斉に向けられた。


「詳しい事はまだ不明です。しかし我々に危害を加えようとしているのは確かです!」


力強い答えに一斉にフラッシュが焚かれる。


『そもそもあなた方は何者なんです?』


「我々EBアースベースはレガシーに対処すべく秘密裏に結成した組織です。今まではこの人工島の地下で活動をしてきましたがこの会見を機に警察、自衛隊と協力してこの問題に対応していこうと思っています!」


『今回現れたあの緑のロボットについては?!』


一番の疑問が投げ掛けられ会場の空気が一気に引き締まる。突然現れたのはパワードだけではない。ガイアにしても人々にとっては怪しい存在だったのだ。


しかし獅子神の顔には笑顔が見られ、いい質問だと言わんばかりに堂々と話始めた。


「彼はガイア、詳しくは言えませんが協力者であり、感情を持ったロボットなのです」


ざわざわと会場がどよめくのも仕方ない。片言の機械音を喋り、やっと人間の言葉を理解して返事をするというくらいのロボットが今の最先端なのだ。


それにあんなに機敏に動き、ましてや合体するなどと現実離れしたロボットに記者達は不安を隠しきれない。


『……本当に味方なのですね?』


「もちろんです!もし不安なのであればイベントを開きそこで彼と直接話をしても構いません!もう一度言います。彼は我々の味方なのです!!」


一斉にフラッシュが焚かれ、獅子神の顔が眩しく光る。


「皆さん、安心してください!またレガシーが来ようとも我々が全力をもって対処していく所存であります。皆さんができることは落ち着いて我々の指示にしたがっていただき、怪我をしないことです。どうかよろしくお願い致します」


チャンネルを変えるとそこには総理大臣の姿があった。汗をこれでもか!と言うほどかき、記者の質問にもオドオドと答えるばかりだった。


------------


夕暮れ、町の被害は最小限に抑えられたがそれでも今回の被害が甚大だった。廃棄物処理場はほぼ壊滅、瓦礫が飛散し沿岸のビルのガラスはバラバラに砕けていた。


そこに佇む一体のロボット、エレメンタルガイアは剣を地面に突き立てじっと空を見ていた。


バチン!バチバチ!!バンッ!!!


突然肩から火花が上がり爆発する。それに続くように体中から煙が立ち上ぼりとうとう膝から崩れ落ちてしまう。


「ガイア!!」


「だ、大丈夫だ……。しかし、無理をしすぎたようだ……」


それからすぐに搬送用のトラックが駆け付け荷台に横たわったガイアを烈はじっと見ていた。


「大丈夫だよ。烈、今日は帰りなさい」


健太郎が肩を抱きながら言うが、心配そうにガイアを見つめている。もう少し何かできなかったのか?そんな気持ちにさせる戦いだった。


「烈?」


「んっ?!……ごめん」


「ガイアの事は父さんに任せてくれ」


「わかった……」


時々後ろを振り返りながら帰っていく烈をガイアも横目で見ながら見送った。今回は激しい戦いだった。烈だけは守れたが危ない目にあわせたのも事実で、健太郎のにどう言えばいいのかわからない気持ちになる。


「健太郎……」


「かっこよかったぞガイア!!」


心配を他所に目を輝かせて健太郎が言う。


「いい合体だった!!シュミレーション通り!感動した!それにガイアソード!大きくなるんだね!言ってよ!!」


「健太郎……すまなかった……」


あまりにも温度差がある二人に周りの人もどっちに合わせればいいのかわからずにいた。


「なにがだい?」


「烈を危ない目に合わせてしまって、それにせっかく作ったグランライノをこんなにボロボロにしてしまって……」


「そんなことかい……」


仰々しいため息をついた健太郎は腰に手を当ててガイアを見上げた。


「危険なのは承知の上!烈だってわかってる。子供じゃないんだから!それにロボットが戦うと壊れるのも当たり前!こんな事言うのもなんだけど、壊れないヒーローは魔王と同じ!ボロボロの体なのは他に被害が少ない証!だからそんな暗い顔しない!!」


「だが……」


「だがもヘチマもない!!さぁ帰るよ!みんな撤収ぅーー!!」


有無を言わさない言葉に黙ることしかできなかったガイアはトラックに縛り付けられ暗くなっていく空を見ていた。


--------------------------------


太陽系


太陽を中心に数々の星が同じ時間を共有している広大な宇宙のほんの一単位。


第一惑星“水星”は太陽に一番近く、名前に似合わずとても熱い星だ。生物が絶対住めないその環境に空気はなく音も響かないそこに一つの音が鳴った。


プルルル・・・プルルル・・・。


電話のコール音のような音が20回ほど鳴った。


「もしもーーし!」


出たのは子供のようなハキハキとした口調とあどけなさが残る元気のいい少年のような声。


『元気かい”ヘルメス”?』


「あ!兄さん久しぶりー。元気だよーー」


アースの問いかけに兄さんと言った声の正体は二番目の兄弟”ヘルメス”だった。水星の神ヘルメスは情報を司り、最初は兄弟の連絡係として博士を手伝っていた。そして水星に来てからは日々迷惑なラジオを配信し兄弟を困らせている。最近は話し尽くしたという事もあって三十年に一回と言う超不定期更新の配信になっている。


ところで話は逸れるが結城博士は始め名前をメルクリウスとしようか迷ったことがあったが噛みそうなのでやめたという秘密がある。


『今大丈夫かい?』


「もちろん!」


それからアースはここ最近地球に起こった事を話始めた。最近と言っても獅子神と出会った頃からであるのでざっと50年くらいであろうか。


ヘルメスは時には驚き、時には楽しそうに、そして羨ましそうに話を聞いていた。


「そっか……目覚めちゃったんだね。……そっか。」


昔の記憶を噛み締めるようにヘルメスはどこか不安そうに言う。


『それで、こっちに来てくれないかい?助けてほしいんだ』


「それは大丈夫だよ!」


よかったとヘルメスは内心思う。またこの兄は一人で背負い込むのかと思い、無理やりにでも行ってやろうかと考えていたが一先ず安心した。


『そっちは大丈夫かい?』


「人の心配しないの!もう子供じゃないんだから!……何歳だっけ?まあいいや!すぐ行くから」


『できればみんなにも言ってほしいんだけどいいかい?』


おっ!珍しい、と思うヘルメスであったがそれほど事態は深刻なのだとすぐにわかる。


「わかったよ!じゃああの伝説のラジオ”銀河に届け!☆ヘルメス放送局☆”の臨時放送だぁーーー!!」


『……私はいいよ?』


「何を言っているの兄さん、強制配信だよ?」


真空の宇宙空間に疾走するようなアップテンポの音楽が流れ始める。オープニングはいつもこの曲と決めているのだ。


息を大きく息を吸い兄弟たちへチャンネルを合わせる。


『うぉっ!なんだぁ!!』『『はぁっ!!周期早くない?!』』『音量を小さくして……』


ほかの兄弟達も久しぶりにやってきたこの放送に一切嬉しがることもせずため息をついた。


ヘイヘイヘイヘイヘーーーーーーーーイ!!!これを聞いてる兄弟達ぃ!!こんにちわぁーーーーーーー!!


んんーーー??元気がないぞ?!こんにちわぁーーーーーー!!!


当り前のように返事はなかったがこれも慣れたものだ。最初は怒鳴り声や恥ずかしそうな小さな返事が返ってきたが今はもうない。


さぁさぁ!!始まりましたヘルメス放送局。今回は臨時放送だよぉ!皆さんいかがお過ごしでしょうかぁ!僕はねぇ、最近魚の飼ってるんだけどちょっと水槽が小さくなってきてそろそろ変え時かなぁ?って思ってます。


いつのも雑談話から始まるヘルメス放送局。特にこれと言ったコーナーもなく時間も決まっていなく話すだけ話して勝手に終わるというのがいつもの放送だった。


今日は地球にお住いの長男ガイア兄さんからお手紙をいただいたよ!!


突然兄の名前が出たことに呆れ顔で聞いていた兄弟たちの顔が真剣に変わる。


えっと……あの島がついに動き出してしまった。私一人の力では無理かもしれない。弟たちよ、どうか!どうか!助けてくれ!お前たちの強く、熱い力が必要なんだ!っだってぇーーーーーー!!!


弟たちは慌ただしく用意をし始めた。実際に兄がそう言ったかは定かではないがあの島と聞いて黙っては置けない。その音を聞きながらヘルメスは続ける。


とりあえず僕が先に行くからみんなは後から来てね!じゃっ今日の放送はお終い!!次の更新はみんなが集まってきた時だよ!じゃっ!see you again!!


いつものお別れの挨拶をしたヘルメスは光の玉になって水星を飛びたった。


「電気よし、ガスよし、餌やりは自動だし、あれもオッケ。後は地球で体を見つけるだけ!じゃっ久しぶりの地球にレッツゴォーーーーーー!!!」


------------------------


壮絶な戦いから一週間後、技術開発課のガイア専用ハンガーではようやくエレメンタルガイアからガイア本体を分離する作業が行われていた。


パワードの攻撃によって胴体部の分離アタッチメントが完全に歪みベコベコに凹んだ胴体部を開発課総手で分解しながら慎重に作業を進めていた。


指揮をとっていた健太郎も腕を組み、難しい顔をしてその光景を見つめていると、ようやくガイアの本体が見え始めた。


「すまない。ありがとうみんな」


車形態の彼はクレーンにゆっくりと吊られ、すぐ横に下ろされると整備班が一斉に近づく。


グランライノよりは酷くなかったが細かな傷がたくさん入り、所々が凹んでしまっていた。


ゆっくりと健太郎はガイアに近づきその傷を心配そうに見つめている。


「健太郎すまない、壊してしまった」


「もういいって!それより痛いところはないかい?」


「だ、大丈夫だ」


一瞬心配してくれる健太郎の姿が博士に見えてしまった。どうしたのだろう……?それだけ追い込まれていたのかもしれないということなのか。


「よし!じゃあ僕はグランライノを手伝うからみんなをこき使ってあげてね!」


笑顔で走っていく健太郎の背中にまた博士の姿を重ねてしまった。ダメだ、始まったばかりだ。と自分に言い聞かせる。


「ガイアさん?」


突然整備班の一人に話しかけられ何か感づかれてしまったかと一瞬ドキッとしてしまった。


「な、なんですか?」


「中を見たいのでドアなど開けてもいいでしょうか?」


自分の思い違いに少し恥ずかしくなりながら了承すると全てのドアが開かれた。すると向こうの方から腕いっぱいに何かを持った女性がこちらに向かってきているのが見えたのだが……

健太郎はグランライノの修理を手伝っていた。やはり酷い、強度的には地球上で最強と思っていたのだがそれすらも簡単に傷をつけられてしまった。


「傷をつけた物体が残ってないかい?!」


「待ってください……ありました!」


作業員が持ってきた破片を見ると黒く尖った金属のようなものがプラスチックにコーティングされていた。


「なんだこれは?」


「わかりません。金属のようですが探知機にかかりませんし、見てください。プラスチックが侵食されています」


プラスチックを割ると黒い物体が根を張るように隅々にまで侵食していた。


「なんなんだこれは……」


硬く金属のような光沢があるが金属ではない。しかし形を変えやすい。


この物体は前世の武器で名前をハード・ナノカーボン・フィッティング、通称HNCFという。流体のカーボンを物体に塗り込むことでそれと融合し、磨き上げることでどんなものでも鋭い凶器に変えてしまう。


最後には人体に塗り込むことで誰でもロボットのような鋼鉄の体が手に入るということで戦場に投入された危険物質である。


「これがあのパワードだけ使えるならいいんだが、そうもいかないよね……とりあえずアースに聞いてみよう」


黒い物体をポケットに入れようとした時、向こうの方から腕いっぱいに何かを持った女性がこちらに向かってきているのが見えた。


「皆さ-----ん!!休憩にしましょーーー!!」


元気よく走ってくる沙耶の腕にはいっぱいの缶コーヒー。そして足下には多くの道具が散らばっている。


「小林君、走ると危ないよー!」


「大丈夫ですよ課長!私だってやるときにわぁあああああ!!!」


案の定つまづいて転んだ沙耶の腕にはいっぱいの缶コーヒー……


痛っ!!


ガラガラ!!ドォーーン!!


パリ-----ン!


ブシャ!バシャ!ジジジジ……ボォーーーン!!


一つ目の音から説明しよう。沙耶の腕から勢いよく扇状に投げ出されたコーヒーが人に当った音。


それにびっくりした人が工具を投げ飛ばすと高く積んであった機材の山に直撃し雪崩が起きた音。


ガイアの窓ガラスが粉々にくだけ散る音。


そして、飛んでくる缶コーヒーに健太郎が咄嗟に黒い物体を持っていた手を伸ばすとスチールを容易に切り裂き、中身を盛大にぶちまけ、びしょびしょになる健太郎とその後ろにある配線剥き出しのグランライノの体。


グランライノから火花があがり黒い煙とともに爆発した音。


すぐに消火器を持った人達が集まり健太郎ごと白い煙に覆われた。


騒然とする現場にこけた沙耶は「いたたっ!」と立ち上がりパッと見たその光景に絶句していた。


白い煙の中から現れた健太郎は体中を白い粉に纏い、白黒の煙を纏う直前の姿のまま固まっていた。


「す、すいません!!!」


急いで駆け寄る沙耶は体を直角にして頭を下げた。


「小林君?」


彼女からは見えないが声色は柔らかいもので、実際顔も笑顔だった。米神には一本の筋が入っていたが……。


「すいません!!」


「危ないよって言ったよね?」


「はい!すいません!」


「じゃあなんで走ったのかな?」


「すいません!」


すいませんしか言えなかった沙耶の頭の上に缶コーヒーが置かれた。


「落としたら本気で怒るよ?そのまま反省してなさい!」


「は、はいぃい!」


言いながらもすでに落としそうになる沙耶に健太郎の鋭い視線が刺さる。


「……よし、じゃあ他のみんなは休憩に入ってくれ!班長達はちょっと集合ね」


休憩に入っていく作業員達が離れると現場は静かになり、人の気配も全くなくなってしまった。


「小林さん?」


「ガ、ガイアさん!?さっきはすいません!」


先程ガラスが割れたガイアだが破片は既にきれいに掃除されていた。


「別に痛くはなかったから大丈夫ですよ。それよりもう誰もいませんよ?頭のそれ、取ってもいいんじゃ?」


「ダメです!」


なぜそこで意地を張ってしまうのか……そう思うガイアに沙耶は続けた。


「ガイアさん、私ってダメな女ですよね……」


今度はいきなり暗くなってしまった。そういえば時々隅の方で落ち込んでいる沙耶を見かけるがガイアは話しかけられずにいた。


博士の助手に一人だけ女性がいたが、その女性も他の研究員とあまり変わらなかった為、いまいち女性の気持ちがわかっていないガイアはこんな時どうすればいいのかわかっていなかった。


「そ、そんなことないと思いますよ!」


とりあえず否定して次の言葉を待つ。


「ホントですかぁ……私いっつも失敗してますし……、ドジだし、根暗だし、ブスだし、三つ編みだし、眼鏡だし……」


さらに暗くなる沙耶は頭にコーヒーを乗せたまま膝を抱えて座る。最後の方は関係ないと思うが……


「し、しかし!この技術開発課には小林さんのような明るい女性が必要だと思いますよ!」


「本当ですか!?」


今度の本当は元気があった。しかしその反動で缶コーヒーが落ちてしまい、カランと誰もいない場所に音が響いた。


即座に拾い上げてまた頭の上に乗せた沙耶は慌てて周囲を確認し、誰もいないことを確認するとホッと息をついた。


「何してるんですか、小林さん……?」


「ふわぁあああ!!」


後ろから突然投げ掛けられた言葉に思わず体が倒れてしまった沙耶を支えるように烈が手を引いた。


「せ、赤兎君?!」


「だ、大丈夫ですか小林さん?あっ!すいません!」


咄嗟に手を離すと両者とも少し恥ずかしそうモジモジと体を揺らした。


「えっとねっ……そう!バランス感覚を鍛えてたの!知らない?!最近流行りなんだよ!!」


先に口を開いた沙耶の無理すぎる言い訳に烈もなんとも言えない返事をするとさらに恥ずかしくなった。沙耶は缶コーヒーを開けるとグビッと煽り、烈にその真っ赤な顔を寄せた。


「ここで見たことを絶対に口外しないこと!!わかった?!」


あまりにも近い距離に頷くことも出来ず鼓動だけが早くなっていく。ほのかに香る甘い匂い、彼女の目に映る顔はなんともだらしない。


「わ、わかりました……!」


「うん、よろしい!」


やっとでた言葉に沙耶も安心し残りのコーヒーを飲む。


「それで、今日はなんで来たのかな?」


「あ、えっとガイアのお見舞いというかその……色々と」


「ありがとう烈」


二人のやり取りを黙って眺めていたガイアがやっと口を開いた。どうもむず痒い感じがする……。


「そ、それで小林さん!これなんですけど!」


ポケットから出したハンカチを見て一瞬不思議に思った沙耶だが、パンダを見てパァッと顔を明るくした。


「これっ!!どこにあったの?!」


「この間会ったとき落としてたのを拾ったんですが、その後渡す機会がなくて……」


「ありがとぉーー!!!」


ハンカチを持った手をぎゅっと握られ、体が大きく弾む。


「これ大切にしてたやつなの!無くした時はホント悲しくて、夢にまで出て来て。どこ探しても見つからなくて……!!もう諦めてたの……。でも探してて……」


いつの間にか目には涙が溜まりさらに手に力が入る。


「あの、一応洗濯もしておいたので……」


「ありがとぉおおお!!!」


手を離されたと思ったら次の瞬間には彼女にぎゅっと抱き締められていた。髪の色と同じくらいに赤面し、心臓が爆発するのではないかというくらい高鳴り、体が鉄のように硬直していた。


「あ、あのっ!!小林さん?!」


「ありがとぉおおお!!!」


少年にとって色んな意味で予想外だった。本当ならお礼をいってもらって少し仲がよくなればいいかな、なんて思っていたのがそれすらも容易に飛び越えてしまった。


拾っておいてよかった……。少年の目には涙を流して喜ぶ女性の姿があった。

「あのハンカチ、誰にもらったんだっけ?」


「確か……ここに来たばかりの頃、後藤隊長に貰ったって言ってましたよ」


健太郎と作業員の人達が機材の陰からコソコソ様子を伺っていた。


「確か会えない娘さんの名前もサヤだったらしくて、その子の為に買ったらしいんですけど結局渡せずに歳も近かった小林さんにあげたって聞きました」


「そうか……。烈、頑張れ……」


息子の心配をする父の姿がそこにはあった。

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