第5話 水星から来た弟 ①
第4話 水星から来た弟
前回のあらすじ
春の恒例行事「中間テスト」に烈が苦しむ中、ガイアこれからの戦いの為に新たなるサポートメカ“グランライノ”を健太郎とともに開発する。
しかし人工島の廃棄物処理場に突如“パワード”が現れ、向かった後藤達に襲ってきた。
それを間一髪助け出したガイアに怒るパワードは体にゴミを纏い巨大化しさらにガイアに向けて襲いかかってきた。
反撃しようとするガイアに聞こえるクラクションの音が響く!
そう、そのダンプこそがグランライノ!鋼の機獣!
そしてガイアと烈の気持ちが一つになった時、彼らは新たな力を手にするのであった。
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「「創星合体!!エレメンタルガイアー!!」」
大地に立った姿は地球を守る守護神。
二本の逞しい肩の角は天を突くように伸び、胸では雄々しいサイが眼前の相手を睨みつけていた。
大地を踏み締める脚も、強固な拳を作る腕も問題なく動いてくれた。ガイアは携わってくれた全ての人に一先ず感謝した。
それにしてもいい出来だ。結城博士が見たら卒倒するか抱きつくか叫ぶか拳を小脇にグッと握ったに違いない。
パワードはその様子をじっと見ていた。無理もない、今まで殴り付けていた相手がダンプトラックと合体してしまったのだ。言葉はすでに話せなかったがよく考えた結果、その巨体を敵として再認識し拳を振り上げ襲いかかってきた。
グォーーーーーー!!
地面をも砕くパワードの一撃がエレメンタルガイアの頭部を襲うがまるで風が目に入るのを防ぐかのように軽く左手を上げた。
普通ならガイアの腕が砕け頭部が吹き飛んでいた一撃だがそうはいかなかった。軽々と一撃を受け止め、それでもなお押し込んでくる力を肘を曲げたまま拳を受け止めていた。
そのまま掌を握り混むとコンクリートの拳であろうといとも容易く砕いてしまった。その光景に声も上げず悲鳴もなかったパワードは不思議そうに拳を見るとゴミの顔を怪しく歪めた。
おもしろい、とでも言いたい顔だった。
今度は左拳を振り上げサイの頭へと振り下ろす。
「そこは私の魂だ、触らないでもらおう」
ガイアは拳を合わせるように迎え撃つと相手の拳を砕き腕を割り、肩口に至るまで自分の拳を貫いた。
さすがにパワードも耐えきれず後退りしたが、今度は右脚を上げガイアの魂目掛け打ち込んできた。
ここでガイアは始めて防御姿勢をとった。迫りくる右脚を正面から受け止めるように腕を交差させたが、顔はじっとパワードの方を向いていた。
防御ではない……攻撃だ!
力強く踏み込んだガイアはパワードの懐に飛び込む。その懐に肩を押し付けるように、そしてその肩には……。
ドスンという鈍い音とともにパワードの体に肩の角が突き刺さった。これにはたまらずパワードも苦痛の声を上げ、必死に引き剥がそうとするがさらに深く押し込まれさらに声が出てしまう。
ガラガラと崩れていくパワードの体にもう少しだと自分に言い聞かせガイアは両手でパワードの体を抱えた。
「うぉーーーー!!」
肩を引き抜くと暴れるパワードをもろともせず頭上へと担ぎ上げると少しでも町から遠ざけるべく廃棄物処理場の奥の方へと投げ飛ばした。
ゴミを撒き散らし、吹き飛ぶパワードの顔は……
笑っていた。
「すごいなガイア!」
「当たり前だ!みんなで作り上げたんだからな。烈、もう一息だ、力を貸してくれ!」
ガイアの前にはふらふらと立ち上がるパワードがいた。右腕には拳がなく、左は腕すらない。体の中心に風穴が開いたボロボロの体からは最初の勢いは全く感じられなかった。
しかし、その顔は笑っていた。不気味に、楽しそうに。
右腕を上げた。体が脈打つように震えると体の一部がボゴンと凹み、無くなったはずの右手が復元した。
今頃右手を直して何をするのか、ガイアは思わず身構えた。
答えはすぐに実践された。右手に黒いオーラを纏わせるとガイアの周りに散らばった体の一部を宙に浮かし始めた。
「しまった!」
気付いた時にはパワードは拳を握りそれに呼応するように浮いたゴミたちがガイア目掛けて襲いかかってきた。
炎を纏いながら迫りくるゴミたちは一つ一つは大したことはないがそれが止めどなく襲いくることでガイアの体に少しずつ傷をつけていった。
例えば腐った食べ物が詰まった冷蔵庫が、どろどろの溶剤で溶かされたタンスが、木材が何本も突き刺さったテレビが体を叩いていく。
防御を固めていたが遂には肩の角が折れるほどゴミの流星群は容赦なく体に打ち付けられた。
「大丈夫かガイア!!」
「大っ丈夫だ!しかしっこんなボロボロではなっ!カッコ悪いな、後で健太郎にっ、謝らなければ!」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ!」
強がりを見せていたが打ち付けるゴミが粉々になるか、パワードが直接飛び込んでくる以外、今の状況を打開できる方法はなかった。
「大丈夫だっ!君だけは守ってみせる!」
「それじゃあダメだろ!!」
『ガイア、聞こえるか!』
突然健太郎の通信が耳に届く。
「父さん、何かないのか?!このままじゃ!」
『ガイア……悪いがミサイルを一発積ませてもらったんだ。すまない……わかってくれ。ある場所はわかるな?』
「あぁ あまり使いたくなかったんだがな……ありがとう。烈!撃ったらガイアソードだ!!」
「おう!!決めてやろうぜ!」
パワードは何も知らず無我夢中でゴミをガイアに打ち付けていた。大分ダメージは受けてしまったが、こうして見れば弱いものだ。そろそろ自分で止めをさそうと考え、少し大きな塊を正面目掛けて飛ばした。
直撃した塊は弾け、その奥の敵のガードを弾き飛ばした……ように見えた。
「ライノミサイル!!」
サイの口が大きく開き、丸い頭をしたミサイルが一直線にパワードに向かって飛び出した。突然のことに防御が遅れ、ゴミの間をすり抜け頭部へと直撃したミサイルだったが大きな爆発はせず体を仰け反らせる程度の勢いだった。
「「ガイアソォーーード!!」」
本命はこれだ。大地を割り姿を見せた剣はガイアが最初に出した小さな剣ではない。光と共に目の高さまで聳える宝剣だ。
柄を握りその向こうに見える相手に向け視線を送るガイアはゆっくりと剣を構える。幅の広い鍔に丸い緑の宝石が輝き、そこから伸びる刀身はキラリとガイアの横顔を映している。
「「うぉーーーーーーーーーーーー!!!」」
踏み込んだガイアにパワードも応え拳を強く握った。
ガギィーーーン!!!
空気を響かせる音とともに剣と拳が火花を散らし両者の顔が近づく。不気味に笑うパワードに対しガイアの目は憂いに満ちていた。
パワードの攻撃からは憎しみしか感じられなかった。一撃一撃に前世の人の魂が宿り以前の地球の姿が鮮明に思い出された。
焼けていく自然、汚染される海、無残に散っていく命、最後に見たあの荒廃した大地を……。
絶対にあの時に戻してはいけない!!
ガイアはただそれだけを思っていた。自分、いや生きとし生けるものから全てを奪ったあの世界を二度と繰り返してはならないと!!
ガイアは剣に力を込める。しかし受けたダメージは意外に深く、体ごとぶつけてくるパワードに若干力負けしてしまう。
ギャハハハハハハハハ!!
背中のブースターに火を入れてもそれは変わらず、破壊の快感とあと少しの達成感にパワードは高らかに笑う。しかし……
「負けるんじゃねぇガイア!俺がいるだろ!!」
そう、ガイアには友がいた。危険を知っても自分に力を貸してくれた友が!
「……ありがとう烈!行くぞ!!」
「「うぉおおおおおおおお!!!!」」
パワードの額に自分の額を打ち付け体ごと押し返す。後ろに下がっていた体は徐々に前に進み、剣は拳を砕いていく。
?????!!!!!!
体を引こうとしても遅い、すでに剣はパワードの肘までめり込んでいる。
やっとパワードの顔に焦りが見える。目前のロボットの眼には自分をまっすぐに見つめ、自らの意思を貫く覚悟が剣とともに自分に襲い掛かってくる。
いや、話しかけてくれているのか……。大丈夫だ、と。心配するな、と。救ってやる、と!!
…………フザケルナ……。
肩口まで砕かれたパワードは体をひねり剣を躱し、自らの口を開き裂き鋭利な牙を出現させガイアの首元に襲い掛かる、が。
その牙は空を切った。横目にはゆっくりと剣を天に掲げる緑の巨人の姿があった。
「「ガァイア!!スラァーーーーーーーッシュ!!」」
刀身は頭部から入りその体を両断していく。それでもなおその頭部は敵に向かって牙を向いたが、縦に両断されたそれが噛みついたのは唯の空気だった。
胴体に刃が進むと黒いオーラが溢れ人の悲鳴のような声が耳をつんざいた。しかし剣はそれを優しく包み明るい光に変えながらさらに両断を続けていく。
くそぉガーーーー!!!!機械人形ぉーーーー!!!!
断末魔と言える声と共にパワードの体が真っ二つになり体は大半が光となって消えていった。
ゆっくりと姿勢を戻したガイアは剣を払い墓標のように地面に突き立て空を見た。