第4話 ③
龍神高校
昔ながらの両手バケツで廊下に立たされている一人の少年がいた。
「ふわあ……」
間抜けな欠伸が廊下に響く。テストも終わり集中力がマイナスに振り切れていた烈は眠い目を擦ることもせず、ただ突っ立っていた。
外を見るといい天気だった。春晴れの空には薄い雲が温かい風に流されて気持ちよさそうに青いお空を漂っていた。
「ふわぁ……」
そして欠伸をもう一つ。
そういえばガイアはどうしているだろうか?最近テストもあってEBに行けず沙耶のハンカチも未だ返せず終いな為、今日にでも行ってみようかなと思っていた。
「ふわ……」「烈!!!」
突然の叫びに欠伸が強制終了され持っていたバケツを落としそうになってしまった。
「ちょっガイア!まだ授業中だから静かにしてくれよ」
緑の装飾が綺麗な腕時計に口を近づけひそひそと喋る。
説明しよう!この腕時計はEBでもらったものでガイアと通信ができる優れものなのだ!
「す、すまない!いや違う!大変だ、奴らがまた現れたんだ!」
それを聞いて烈の眠気は吹き飛び一気に緊張感が押し寄せてきた。
「でも今授業中なんだ、どうすればいい?」
「健太郎が学校に手を回している!その内帰れと言われるだろう」
するとまっすぐ伸びた廊下のから慌ただしい靴音が聞こえてきた。
その音が直線で聞こえるようになるとそれが教頭先生なのがわかった。ただでさえ少ない頭髪を振り乱し汗を滴す顔は年のせいもあったがさらに老けて見えた。
「はっはっ…………」
烈の前に止まると膝に手を添え肩で息をし始めた。
「せ、赤兎君だね。た、大変だ!おじい様が危篤らしい!すぐに行ってあげなさい……」
下を向いたまま話す教頭を心配することなく走り出した烈は教頭が走ってきた距離を倍以上の速さで駆け抜けた。
「はっはっは……はしるな~……」
そう声を発したが力もなく、すでに姿もなかった少年に若さを感じざるを得ない教頭であった。
あっという間に校庭まで走った烈を迎えるようにエンジン音が聞こえ、勢いのままに一台の車が校庭に飛び込んできた。
綺麗な緑のペイントを施した車は土煙をあげながら烈へと向かってきた。咄嗟に避けようとした烈だったが車は手前でハンドルを切り半円を描くように校庭を滑り横向きのまま烈の真横へと綺麗に停車しドアを開いた。
「さぁ、早く乗るんだ!」
急いで乗り込みシートベルトを締めるとドアが閉まりアクセル全開で走り出した。
「ガイア、何があったんだ!?」
「現場は人工島の廃棄物処理場。衛星で不審な物体を確認して今後藤隊長がそれと会話をしている」
「会話?」
「あぁ。どうやら知識があるらしく名前も名乗ったらしい」
商店街や博物館に現れた奴等とは違う……。烈の心に不安がよぎる。
「以前の奴とは段違いだと思っていいらしい、アースも言っていた」
「勝てるのか?」
ぎゅっとシートベルトを握る手に力が入った。
「烈、一つ言っておく。私は勝とうとは思っていない。彼らを救う為に戦うんだ」
そう、ガイアは彼らを浄化するために戦っているのだ。勝ち負けではなくこの世界をよりよくしたいと思うその心を信じて。
「大丈夫だ!できるさ、私と君なら!」
「……そうだな!いくぜガイア!」
ガイアの真意を受け止めた烈はその決意を拳に込め前をしっかりと見つめた。
廃棄物処理場へと続く一本道をスピードを上げながら進むと爆発音のような音が何回も聞こえた。
「突っ込むぞ烈!!」
「おう!!」
ガイアは勢いをそのままに車道と歩道の間にある縁石に片輪を滑らせ自らのサスペンションを十分に使い空へと飛び立った。
「「エレメンタルコネクト!!」」
烈の体が緑の光に包み込まれていく。なんとも心地いい気持ちのまま光の空間へと誘われるとあらためて辺りを見渡した。
何もなくただフワフワと浮いている感覚だけがある空間に大きな姿鏡がある。そこには車の中から見ていた風景が広がっていたが今は回転していてどちらが上かも定かではない。
「変形!」
声が響くと外の風景が安定し始め小さく後藤隊長の姿が見えた。落ちていく中で後藤の前に四肢が巨大な大男がドシリと座り込んでいるのも見える。
あれが今回の敵……、そう思った烈の目の前で大男は立ち上がると握っていた塊を後藤に投げつけた。
「ガイア!」
「おう!!」
後藤の近くに着地したガイアは素早く手を伸ばし向かってきていた塊を掴みなんとか後藤を守ることができた。
「後藤隊長すまない、遅れてしまった」
「……いいんだガイア、助かったよ」
「俺もいるぜ!!」
「ありがとう赤兎君」
ヘルメットのおかげで見えなかったがすこし後藤の声が震えていた気がする。周りの隊員達を不安にさせまいと頑張っていたのだろう。
「下がっていてくれ、後は私が」
「わかった、負けるなよ!」
退がる後藤たちを守るように立ち上がるとパワードは俯いたまま肩を揺らし拳を強く握っていた。
「ふふふふふふ……」
機械音のような笑いが妙に耳に入る。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
まるでテレビの音量を間違えたように放たれた笑いに誰もが耳を覆い、地面に転がっていた小石も震えて割れるものもあった。
「会いタカっタぞ機械人形ぉ!!!」
喜びを爆発させ拳をガンガンと打ち付けるパワード。
「やっと……やっとだ………。お前をこの手で壊す日がぁ!!!」
「ッ!!」
その巨体からは想像もつかない速さで飛び出したパワードは巨大な右手を振りかぶり空気ごと叩きつけるような拳を放ってきた。なんとか両手で受け止めたがバチバチと音を立て今にも弾かれてしまいそうだ。
「機械人形ぉ!!弱いぞ!!弱い弱いヨワイ!!」
両拳を使った連撃がガイアを襲う。なんとか防いではいるが反撃できず……いや、しようとしなかった。
「どうしタ機械人形!俺を倒してみろ!俺たちはいらない存在ナのダろう?!」
「違うっ……!お前たちを救うんだっ……!」
「……ふざけるナぁ!!」
渾身の一撃が頬に直撃しガイアは跳ね飛ばされコンクリートの壁に打ち付けられた。
「ふざけるナよ機械人形……」
拳を強く握り俯き感情を押し殺すように震えるパワードは後ろで鼓動を続けていた球体に近づき手を添えた。
「ナラバ救ってみろ!!」
それが最後の言葉だった。球体はパワードを包むとドクンッ!!と強く鼓動すると膨らみ形を変えガイアよりも巨大に、強靭になった。
形は大きくなる前のパワードは同じだが素材が違った。今にも崩れそうな粗大ごみが異様な光沢で光り強固な体を形成していた。腕には砕いたであろうコンクリートが鎧のように張り付きその剛腕をさらに固くしていた。
グガァ!!!
もはや言葉を喋らないパワードの一撃がガイアを襲う。
「どうするんだよガイア!」
「……」
「ガイア!!」
パワードの一撃は大地を砕き破片さえも容赦なく襲い掛かりガイアの体を傷つける。
「お前言ったよな?!一緒ならできるって。なら、やらなきゃならないだろ!あいつらを救ってやれよ!」
その瞬間大型のトラックだろうか、そのクラクションがこちらに気付かせるように高らかに鳴り響いた。
『ガイア!待たせたね!!』
健太郎の通信が響く。
『大丈夫だよ。君は君の信念を貫くんだ。僕たちがサポートするから、君は全力で叶えるんだ!』
ふと博士の言葉が頭に過った。
ガイア、何があっても自分で決めたことを曲げてはいけないよ。それが正しいものならばきっとついてきてくれる人がくる筈だ。だから、一生懸命生きなさい……。
博士が昔言ってくれた言葉。忘れてはいなかったのに今まで全然出てこなかった……。そう、それを新しい友が思い出させてくれたんだ!
「ありがとう烈、健太郎!! うぉーーーーーーーーーー!!!!」
叫びと共に光が溢れだす体はより心に馴染み、襲いかかってくるコンクリートの拳も容易に受け流すことができた。
「いくぞ烈、合体だ!! 」
パワードの体に登り体ほどありそうな頭に蹴りを食らわせ宙へと舞ったガイアの中で烈は突然のことでわけがわかっていなかった。
「えっ?!何が何とどうやって?!」
「あれを見るんだ!」
指を指された場所を見ると一台のダンプトラックが轟音とともにこちらに向かってきていた。
「あれはグランライノ!私と健太郎の最高傑作だ!あれと合体する!」
大きなタイヤが前後に四つずつついた巨体は少々の段差なら崩して進めそうだ。ガイアが余裕で乗れる運転席に大きな丸いライト、荷台は高級一軒家が余裕で積めそうな広さがある。
その全てが緑を基調に塗装されており、大地の力強さと自然の大きさを表しているようだった。
その名はグランライノ!大地を駆ける鋼鉄の機獣!
「俺はどうすればいい?!」
「私と一緒に叫び力を貸してくれ!いくぞ!!」
頭に言葉が浮かび上がりそれを思い切り叫ぶ。
「「グランコンビネーション!!」」
ブパァーーーーーン!!
宙を舞うガイアの掛け声に応えるようにグランライノはクラクションを鳴らしスピードを上げた。
「変形!!」
ガイアは頭を収納し体を車へと変形させると重力に身を任せて落下していく。
「格納!!」
そのままグランライノの荷台に着地したガイアのタイヤは固定され、みるみるダンプの内部へと収納されていく。
「合体変形!!」
その言葉にライトが光ると車体の頭部が前へ倒れ始め収納されていた脚へと変形していく。巨体を支えるそれには膝に金の突起が天を突くように伸び、緑一色のカラーによく映えた。
猛スピードのまま脚を踏ん張ると膝が曲がりアスファルトを削りながら車体を前のめりに持ち上げていく。
やがて膝が曲がりきると車体は空を向き跳ね上がった。
荷台が縦に割れ、後ろに移動すると腕になるであろうパーツが現れた。甲冑のような肩にはそれぞれ一本ずつ角が生えており、準備ができると展開し二本の角を天に伸ばした。
腕にはなにかの蹄を思わせる銀の装飾、先端から伸びた手は力強い拳を作りその体側に揃えられた。
胸には二本の角を持つサイの頭が静かにその時を待っていた。
「目覚めろ!深緑の鎧!」
目が光り雄叫びを上げたサイを金の装飾が横から押さえ付けるように固定するとガイアの頭部が現れた。
荷台のハッチが開くとそこから一回り大きなフルフェイスの兜が現れた。サイの頭を模した頭部には横から二本、前から一本の角が天を向き後頭部には後ろ髪を思わせる毛束がさらさらと流れていた。
ガイアは両手で兜を装着すると頭部の大きさに合わせ引き締まり目が光ると凛々しい顔が完成した。
その姿は神の名を持ったロボットが星を救うためにたどり着いた答え。
一人で成した創星の力は今、多くの人のもと完成しようとしていた。
強靭な体はどんな痛みにも負けない為に!
天を突く角は自分の決意を貫く為に!
そしてその心は生きとし生けるもの全てを救う為に!
星を創った神の名は・・・
「「創星合体!!エレメンタルガイアー!!」」
次回予告
烈:え!?これで終わり?
ガイア:かっこいい合体シーンがあったじゃないか!
烈:これ勝つの?負けるの?
ガイア:それも次回のお楽しみだ!
???:兄さーん。来たよー。
ガイア:待て!お前まだ早いぞ!
???:えーー。まあいいじゃん。次兄さんボロボロで動けないんだしさ。
ガイア:言うんじゃない!たくっ。次回!「水星からきた弟」って・・・
???:次は僕が出まーす。