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第4話 ② 

灰色の島 ロストアイランド


「アダム、ちょっといいですか?」


薄暗い空間にひょろ高い影が動いていた。


「大丈夫だよドラッグ」


ドラッグと呼ばれたひょろ高い影は乱雑に置かれた椅子のようなものに座った。


「パワードは?」


「もう少し楽しむそうだよ」


「いいんですか?」


「もちろん」


「勝てますかね?」


「さぁ?」


短い言葉で交わされる会話はテンポよく空間に反響する。


「……負けた場合は次は私が行っても?」


「もちろんだよドラッグ」


その瞬間、全身が全身が凍りつくような意識に襲われ、ドラッグはその威圧感に全身から汗が吹き出すのがわかった。


最後の言葉はまるで脅迫するような、お前だったら大丈夫なのか?鋭利な刃物を喉元に突きつけるような言葉を……


優しく……。アダムは優しく放った。


「すいません……」


「いいんだよドラッグ」


その声に先程のような威圧感がないことに安心したドラッグは服をゴソゴソと漁り、取り出した煙草に火をつけた。自分の手がまだ少し震えているのがわかる。煙を吐くと何とも言えない高揚感に包まれ先ほどの恐怖が吹き飛んだ。


その頃パワードはというと……


「マダマダ足りねぇナァ……」


集まったゴミの少なさに酷く落胆していた。


「ナんでこんナにゴミガ少ねぇんだ!」


人工島の沿岸にある廃棄物処理場には確かにゴミは集められていたが、その量は前世の三分の一という少なさに抑えられていた。


理由としては生ゴミは腐葉土に、電球電池の類はすべてバッテリー式に、家電でさえリサイクルできるようになった後世では本当に使えなくなったものだけが集められ火力発電の燃料に形を変えていた。


「マァいい……。後ハ現地調達ダ」


黒いオーラが拳に纏いそれがゴミへと叩きつけられるとゴミは一つにまとまり始めやがて大きな玉になった。


「ん?」


ふとパワードが空を見上げると機械の目を凝らし何かを探し始めた。キュイーンとピントを合わせた目がやがて一つの衛星を捉えるとその顔を怒りに歪めた。


「マダアっタのカ!しつこいヤろうダ!ちっ、狙えねぇ。マアいい、どうくるカ見ててヤるよ!!」


腕を組み仁王立ちしたパワードは衛星をじっと見つめ、その姿をアースベースの職員全員に晒した。


「サァ来い機械人形!!俺タちの恨み、味アワせてヤる!!」


------------------------------------


烈にとって一つの試練(中間テスト)が終わった。


「………………」


いつもの元気はどこへやら、机に突っ伏し誰からの言葉にも反応しなかった烈に近づく女子がいた。


「あっれーー!?どうしたんですか烈くーーん。もしかしてあーーんなに勉強したのにボロボロだったんですかぁ?」


烈の頭を小突きながら余裕の表情を見せた真菜だがいつものように反論がない。


「あれ……烈? まさかホントに? ・・・・ご、ごめんね」


それに対しても返事はなかった。段々と真菜の顔がやってしまったという顔に変わる。


「立花さん、たぶん寝てるよ。起こさないであげて」


後ろからかけられた声に振り向くとそこには息子を見つめる母のような刀耶が立っていた。


「一緒に自己採点してみたら思った以上に出来てたんだよ。さっきなんか先生が来て烈に『今回の問題そんなに簡単だったか?』って言ってたんだよ。笑っちゃった」


思い出して笑った刀耶は烈の横の席に座った。


「そういえば立花さんはどうだった?」


「私もだいぶできたよ!刀耶君が勉強見てくれたからだね!」


笑顔で言った彼女に刀耶は照れた様子で頭をかく。


「それでなんだけど刀耶君、お礼に今度どっかに行かない?」


えっ! と間抜けな声を出した刀耶に向かって彼女はまた言う。


「だぁかぁら、今度どっかに行かないかって!」


夢ではないことを確認したがそれでも胸の変わらずに高鳴っていた。どう返せばいいのか……それが問題だった。


「なに、あたしと行くのがそんなに嫌?!」


考えるより先に彼女が不機嫌な顔を近づけきた。目を合わせられずにいたが首を盛大に横に振ると彼女は可愛らしく笑い顔を離した。


「よし決定!また連絡するからアドレスちょうだい!」


半ば強引にアドレスを交換したが、よくよく考えると刀耶にとっては信じられないくらい嬉しいことだった。


彼女は嬉しそうに鼻歌を歌いながら登録すると烈の頭をパチンと叩き自分の席へと戻っていった。


その衝撃に目を覚まさない烈も烈であったが、未だに現実が信じられない刀耶が携帯の画面を見ると早速メールが一通きていた。


『どこ行く?また考えておいてね!』


彼女が手を振っている。振り返すと彼女は携帯を指差していた。どうやら返事を返せと言っているらしい。


刀耶は少し考え文章を打ち込んだ。


『わかりました』


送信すると彼女は携帯を操作し文面を見ると吹き出すように笑った。


少し固かったようだが刀耶は幸せだった。


今隣の席で幸せそうに寝ている友よりもずっとずっと幸せだと思った。


----------------------------------------------


EBの人工衛星は恐ろしい姿を捉えていた。半身を機械に包まれた四肢の大きな男だ。


腕を組みこちらをじっと睨む男からは怒りと余裕が感じられモニターでそれを見ていたEB職員でさえ恐怖を感じられるほどだ。


「アース……あれは……」


「わかりません。しかし今までとは様子が変です。それにあの球体は……」


大男の横にはゴミを巻き込んだであろう球体がドクドクと鼓動を打っていた。


「住人の避難が最優先だ!総理に連絡を!後藤君に機動部隊出動を要請!!赤兎烈君にスクランブル!!」


「はい!!」


EB全体に非常事態を伝えるアラームが鳴り響くと技術開発課にいた健太郎とガイアにも緊張が走る。


「健太郎!」


「烈の学校に連絡するからガイアは学校に行ってくれ!」


「わかった 変形チェインジ!!」


車になったガイアはタイヤを空転させながら外へと繋がる搬入口に飛び込んだ。


---------------------------------


廃棄物処理場に後藤達EB機動隊員が到着したころには周りは人ひとり歩かない閑静な風景になっていた。


「さすが長官だ、いくぞお前ら!」


檄を飛ばした後藤に隊員が応えるとゲートをくぐり奥へと進みだした。


「隊長……今更ですけど怖くないんですか?」


隊員の一人が言った。当然である。争いが無くなった後世においてこんな重装備で銃までもってどこにいくのかと言われるだろう。


「怖いさ……。わけのわからないものを相手にするんだからな!でもな、ガイアと赤兎君という頼もしい味方がいてくれるんだ。それを支えるのが俺たちの仕事だ」


後藤を見るとほかの隊員たちよりは小さいが震えていた。話しかけた隊員はその背中を見て少し不安になったが逆に少し安心した。


「だからお前らに言っておくぞ、俺たちは勇者じゃない!一人でやってやろうと思うな!みんなで勇者が安心して戦える場所を作るんだ!」


その言葉に隊員たちの顔が変わった。フルフェイスのヘルメットで見えないが、その奥に佇む目にはそれぞれの火が灯っていた。


警戒しながら進み衛星で映し出された場所に近づいてきた。後藤は手信号で辺りを警戒するように言った。隊員たちが散らばると自分は数人の隊員とともに前へ進み少し開けた場所に着いた。


そこにあの大男が立っていた。空を見つめ腕を組んでいた大男に銃口を向け近づいていく。近くで見るとその大きさに驚かされる。


自分の胴体ほどありそうな太い腕、その二倍はありそうな脚、機械が埋め込まれた体は呼吸とともに上下しそれが生物なのだと否応なく主張してくる。そしてその横の大きな球体。気持ち悪く鼓動を繰り返し中から何か生まれ出てきそうな悪い予感が頭を過った。


後藤は隊員をそこで止めると一人でその大男にさらに近づいていった。


周りを見ると警戒に行っていた隊員たちがこちらを見ていた。どうやらほかには何もなかったらしい。


後藤は高鳴る鼓動と震える体を必死に抑え近づいていく。銃は持っているが果たしてダメージを与えられるのか?防具はつけているが守ってくれるのだろうか?


そんなマイナスのイメージしか浮かばない。


大丈夫だと自分に言い聞かせ射程距離まで近づくと一度深呼吸をして腹に力を入れた。


「動くな!!」


思っている以上に大きな声は出たがそんなことは気にしてはいられない。今は相手が何をしてきてもいいように、目を瞑るな!体を動かせ!銃を下すな!


後藤の言葉に大男はゆっくりと振り向くと半分機械の顔を器用に動かし笑顔を作った。


「ヤっときタカ、お前一人カ?一人ダっタラ褒めてヤるガ……。違うカ」


後藤は驚いた。人の言葉を話している……それに周りの隊員たちにも気づいている。


「俺に小細工は不要ダ!撃つナラ撃て!その代り後は知ラねぇぞ」


殺気を含んだその言葉に腰が抜けそうになる。それでもなんとか踏み止まった後藤はふと銃を下した。


「話を聞かせてくれないか、お前たちは一体何なんだ?」


自分でも驚くほど落ち着いてその大男に話していた。しかしここでやられるくらいなら少しでも相手の情報を集めたいと咄嗟に思いついたのだ。


大男は驚き、さらに口角をあげ不気味に笑った。


「話ダと?ナめてるのカ?」


「なめてなどいない!ただお前たちの正体が聞きたかっただけだ!」


大男はガッハッハと笑った。手を叩き拍手をしているのだろうがその一拍子一つがまるで爆発のような衝撃を放っており地面が震えた。


「ハッハッハ!!面白い!!お前面白いナ!よし、特別に教えてやろう!俺はパワード!前世の人間の意思でアり、機械人形によって抹殺サれようとしている存在ダ!」


地面にドシンと座った大男はじっと後藤を見つめながら言った。


「俺タち七人は機械人形に復讐するタめに復活し、この星をもとに戻すタめに戦っている」


七人?その言葉に後藤は疑問を感じた。


「以前現れたやつのことか?!」


「ハ?!アいつラハ俺タちカラ溢れたヤつダ。言ワバ出来損ナいダ!」


「では……お前のような奴らがもう六体いるのか……」


「正解ダ!ついでの名前を教えてヤろう。”レガシー”だ!!どうダ?恐怖で足ガ震えるダろう?絶望しカ見えてこナいダろう!!」


パワードは大きく手を広げ不気味に笑った。


「知ラナいダろう、前世のことハ?楽しいぜぇ……。血と硝煙の香りってヤつダ!!


後藤は震えた。あんな恐ろしいものが後六体もいるなんて思ってもいなかったからだ。それに元の世界に戻す……。血と硝煙?あまりにも現実離れした匂いを全く想像できなかったが口ぶりからしてきっと酷い世界なのだろう。


「私達とガイアがいる限りそんなことは絶対に許さない!!」


銃を構えるとパワードはため息をつきヨッコラショと立ち上がった。


「もういい……お喋りハお終いダ。先に死んでろ!!」


突如パワードは握りこんでいたバスケットボールほどのコンクリートを投げつけた。


咄嗟のことに何も反応できず自分に飛んでくる塊を見ることしかできなかった。


死んだ……。そう思った時横から大きな手が差し出されコンクリートから後藤を守った。差し出された方向を見るとそこには胸に緑の宝石を輝かせたロボットがこちらを優しく見つめていた。


「後藤隊長すまない、遅れてしまった」


「……いいんだガイア、助かったよ」


「俺もいるぜ!!」


「ありがとう赤兎君」


ヘルメットのおかげで見えてはいなかったが後藤の目には涙が流れていた。恐怖から解放され自分たちの勇者が助けに来てくれた安堵感から自然に流れ出ていた。


「下がっていてくれ、後は私が」


「わかった、負けるなよ!」


後藤は周りの隊員たちにその場から離れるように指示を送りその場を離れたが、撤退する後藤の目には自分を守ってくれたガイアの大きな背中が残像のようにずっと残っていた。



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