第4話 創星合体!エレメンタルガイア ①
ガイア、合体します!!
5月に入り生活にゆとりが出来始めた頃、烈は1つの試練にぶつかっていた。
「中間試験かぁ……」
そう、学生の本分である学業。その成果を嫌でも発揮しなければいけない場所である。
烈が高校に入学し、一番苦労してきたのはテストだった。何故かと聞かれれば……勉強が出来なかったからだ。
体を動かす事に関しては人の3倍は動けそうな烈だが頭を動かすとなると3分の1になってしまう。
新学期が始まったばかりなのでテスト範囲は狭かったが、それさえも高き壁のように烈に立ちはだかるのであった。
「あーーー!!わかんねぇーー!!」
頭を抱えた烈が机に顔を伏せる。
「宿題をちゃんとしないからだよ。授業中も寝てばっかりだし、自業自得だよ」
刀耶は烈に頼まれ休み時間に勉強を見てやっていたのだが何せ進まない……。
「ここの点と直線が交わるから……ねっ」
「ねっ。じゃねぇよぉ……一から教えてくれぇ……」
1年の数学の復習をしていた烈だが、一番苦手な教科なのでさっぱり頭がついてこない。
刀耶は溜め息をつくと問題集を取りだし最初から説明を始めた。この時ばかりは刀耶も溜め息をつき、仕方のない友の為に頑張るのであった。
烈も勉強だけは頭が上がらず渋々問題を解き始めた。再試験、再々試験という無限地獄だけは絶対に回避しなければならなかった。
「あれー、珍しい!烈が勉強してる。こりゃ明日は槍が降るわね」
烈の後ろから活発そうな女子の声が聞こえた。
刀耶は少し赤面して顔を逸らしたが烈はその顔を見ると げぇ という顔をした
「なんだよ真菜……」
烈と刀耶の幼なじみの立花真菜はポニーテールを揺らしながら烈の机に手をつくと解いていた問題を見て鼻を鳴らした。。
「苦労してますねぇ」
ニヤニヤと烈を見ながら真菜は鉛筆を奪いサラサラと答えを書いて見せた。
「お前っ、邪魔すんじゃねぇよ!」
「このままだと日が暮れちゃうからねぇ、合ってるでしょ?」
刀耶は首を縦に振り、渾身のドヤ顔を烈に見せた。
「うるせー真菜!こっちは真剣にしてるんだ!」
烈が拳を向けた。男としては女子に手をあげるのは良くないが真菜の場合は別だった。
小さい頃から空手をしていた真菜にとってはパンチに入らない拳だったので、器用に避けると、手首を握りそのまま烈の後ろに周り肩を極めた。
「痛でででででてて!!!」
「か弱い女子に手をあげるなんてサイテー!」
そう言いながらもきっちりと反対の手も抑えている真菜である。
「このゴリラ女……痛でででででで!!」
怒りに顔を歪め、更に力を強める真菜だったが、やがて飽きたらしく手を離すと烈を無視し刀耶の隣の席の椅子を引き出し座った。
「刀耶君も大変だよね。こんな馬鹿に付き合わされて」
「そ、そんなことないよ。そうだ!立花さんは勉強大丈夫?もしわからない事があったら教えてあげるよ」
痛みに両肩を抱えていた烈を心配しつつ刀耶は勇気を振り絞って言ってみた。
「ありがとう刀耶君!ほら見た烈、刀耶君はこんなに優しいのにあんたはどうしてこんないい友達を困らせるのかな?」
真菜の笑顔を見れただけで刀耶は十分幸せだった。その横では唇を尖らせながら何か言いたげに不機嫌そうな顔をしていた。
「見てろよ……お前より点数取ってやるよ……」
「へー、ちびで脳みそも小さいあんたがあたしに勝てるの?その日の私は高熱なんでしょうね!」
「あぁん!!お前なんか竹刀がありゃ一発だ!」
「へぇ武器に頼るんだ!男って弱いのね!拳で来なさいよ!!」
立ち上がりにらみ合う二人に刀耶は慌てて仲裁に入った。こうやって立ってみると真菜はほんの少しだけ烈より大きく見える。止めに入る刀耶は真菜よりもう少し高い。
「だからお前は色気がねぇって言われるんだよ!スカートの下にズボンなんか履きやがって!ちっとは可愛げでも見せてみろ!」
「あんたになんか見せるもんですか、ちーび!」
「ゴリラゴリラゴリラゴリラ!!」
「チビチビチビチビチビチビ!!」
「もう止めてよ二人ともー!」
刀耶仲裁虚しくいがみ合う二人にクラス中の視線が集まるがタイミングよくチャイムがなった。
助かった…と刀耶が思う中、「「ふん!!」」と互いにそっぽを向いて自分の席に戻る二人を見て刀耶は少し羨ましいと思った。
次の時間は烈の嫌いな数学だった……。
その日の昼休み、烈と刀耶は学校の屋上で昼食を食べていた。
「それにしても真菜のやつ!自分が少し背が高いからって馬鹿にしやがって!刀耶もなんであんな女好きなんだ!」
「烈!!大きな声で言わないでよ。誰かに聞かれちゃうじゃないか!」
慌てて周りを見るが誰もこちらを見ておらず安心した刀耶は昼食のサンドイッチを食べた。
「そういえば烈、博物館の戦車が暴走したってニュース見た?」
「あ、あぁ…!」
まさかそこにいて戦車を破壊したとは絶対に言えない烈は何もなかったかのように言った。
「恐いよね……あんな重たい乗り物が暴走するなんて。怪我人だけで済んだのが奇跡みたいなものだよね……」
戦車を兵器ではなく重たい乗り物と言った刀耶の説明はこの世界において間違いではない。
アースによって争いが抑止された世界では多くの兵器は無用の長物になっていた。生きている人間全員がその使い方を知らず生き、そして只の物として認識し生きていく。
烈はある程度説明を受けたおかげで何となくはわかっていたがそれでもまだ信じられなかった。
「そういえば授業中に変な物を見たんだ!」
暗い話を区切るように刀耶がパァッと明るい顔で言った。
「黒い玉がね、湖に浮いてたんだ!」
それを聞いたとたん驚いた表情をした烈は「いつ見たんだ!」と血相を変えて聞いた。
「確か……あの通り魔事件があった日だよ」
それを聞き烈は少し安心した。
戦車を倒した後EBで見せてもらった画像では黒い玉が戦車の形に変化していた。恐らく商店街に現れたのもそうだったのだろうと説明してくれた。
なので刀耶が見たのは恐らく商店街に現れたものだと安心したのである。
「どうしたの烈?具合悪いの?」
人が考え込んでいたのに失礼なやつだとは思うが烈が暗い顔をするのは刀耶にとってあまりないことなので嫌味ではなく本当に心配しているのだった。
「ん?あぁ!なんでもねぇよ!そういえば刀耶、今日の放課後空いてるか?また勉強教えてくれ!」
「いいよ!今日は生徒会もないし」
「……ごめんな刀耶、任せちまって」
「……何か今日の烈はおかしい。変な物でも食べた?」
刀耶は笑いながらおでこに手を当て熱を比べる身振りをした。
「ば、バカやろー!人が謝ってるのにバカにしやがって!もう知らねぇ!」
「ハハハハ!!じゃあ放課後はフリーになったからまっすぐ家に帰ろうかな?」
すぐに烈が謝ったのは言うまでもない。
刀耶にとって烈はまっすぐな木のようだった。何があっても曲がることのない木。
自分もいつかそうなりたいと思っていた木が久し振りに変化したのを見て少しは心配したが、大半は気にしてはいなかった。
いつものようにまたまっすぐと伸びる木を支えていけたらなと思いながら刀耶はサンドイッチを食べるのだった。
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EB技術開発課
ガイアが新しい体を手に入れ、ようやく活動らしい活動が始まったここ技術開発課では慌ただしく作業が行われていた。
「ガイアさん、痛くないですか?」
「大丈夫です。普通の車と同じメンテナンスで問題ありません。人型はまた変形するのでその時に」
「ガイアさん、タイヤ空気圧大丈夫ですか?」
「もう少し入れてほしいです」
「ガイアさん、ガソリンでよかったですかね?」
「また人型になったときに飲むから置いておいてください」
なんだか変な問答が繰り広げられているが、ようは車のメンテナンスだ。ガイアという人格が入っているので気を遣いながらしているので人数も時間も余計に掛かってしまう。
「でも本当に車なんだねぇ……」
そう言うのは運転席に座っていた健太郎だった。確かに声がする以外は特に変わったところはなく、人型になったときシートやエンジンが何処に移動しているのかもさっぱりわからなかった。
「どうだ健太郎!カッコいいだろう?」
「そうだね~、確かにカッコいいんだよなぁ!」
中で興奮したように言う健太郎に子供のように自慢するガイアのリトラクタブのライトがパカパカと開閉する。
「烈はあまりロボット好きではないようだが健太郎は好きなのか?」
「私は好きだよ!!あの金属光沢!唸る鉄拳!飛び出すビーム!轟く必殺技!私は大好きだ!!」
同じ言葉を二度繰り返すほど健太郎は目を輝かせていた。
「健太郎はどこか博士に似ている気がするな!ではその片鱗をここで見せてあげよう。少し離れてくれ」
健太郎達が一斉に離れ、安全を確認するとガイアはエンジンをかけ目一杯吹かした。
「変形!!」
ガイアはサスペンションを最大限使って飛びあがり下面を露わにすると変形を始めた。
スラリとした脚がボンネットが捲りあがるように変形すると力強く伸び、リトラクタブルのライトが丁度膝のあたりで開いた。
力強く構えられた腕は後部のタイヤが内側に巻き込むように変形し、サイドペイントが肩や腕などにとてもいいアクセントになっている。
凛々しさの中に幼さが残る好青年を思わせる表情をしたエメラルドグリーンの瞳の頭が最後に現れると、髪を模した装飾が靡くように揺れ変形が完了した。
その場にいた人たちから驚嘆の声があがる。その中で一番興奮していたのは健太郎だった。
「す、すごい……なるほど!そうなっていたんだね!ほほぉ……」
珍しそうにぐるぐると周りを観察する健太郎に少し照れてしまう。
「それでなんだが健太郎、少し要望があるんだが……」
「なんだい?武器ならすぐ作ってあげるよ。なるほど……脚はこうやって……」
ガイアの脚をペタペタと触りながら答えてくれる。
頼むから上をまじまじと見ないでくれ……と思うガイアであった。
「いや、武器はガイアソードだけで十分なんだが……」
何か言いたげに健太郎を見ると手をポンと叩きニヤニヤしながら椅子に座った。
「わかる、わかるよガイア。少し不謹慎かもしれないが相手もこれから本気でくると思っているんだね」
「そうなんだ……あってはならない事なんだがそうなった場合、やはり準備は必要だと思ってね」
不安そうに言うと健太郎は微笑んでくれた。きっと心配ないよと言いたいのだろう。
「あまり暗い話をするのは私も好きじゃない。何があっても私達は君のサポートするのが仕事だ。……それで、何がいいのかな?」
椅子に座って頬杖をついている健太郎の目が真剣になる。
「私は言わばスタンダードタイプだ。だがスタンダードで終わる気はさらさらない!リーダーではなく頼れる兄としての合体を見せたい!」
そう、ガイアの求めた力とは合体である。先日現れた戦車、大きさはあまり変わらなかったがそれでも少し力不足を感じていた。
そこで合体という訳なのだが、合体と言えばサポートメカや同タイプのロボットとの合体が一般的で今回健太郎と以心伝心したのは前者のほうだった。
「小林くん!!」
待っていたかのように沙耶が現れ健太郎の後ろでわざとらしい敬礼をした。
「はい課長!!」
「私のデスクから例のトップシークレットを……」
「はい!!」
走ってどこかに行った沙耶を背中に感じ、健太郎は手を組み下を向くと表情が全く見えなくなった。
「今小林くんには極秘資料を持ってきてもらっている……。この情報を知っているのは私と長官と一部の研究員達だ」
黙って頷く。それを周りの研究員達も固唾を呑んで見守っている。
「実は合体に関してはある程度進めていてね……正直君がいいと言えばすぐにでも実戦に投入する予定だ……。しかし……」
そう区切った健太郎は言葉に詰まり深く考え込む仕草を見せた。
「どうしたんだ?まさか……、なにか開発中にあったのか……?!」
「………。それはな……」
言葉を続けようとした健太郎のもとに沙耶が帰って来た。
「課長、もって参りました!」
「ん、ご苦労。まぁまずは見てもらおう!これがトップシークレットだ!!」
受け取った封筒を開け、中に入っている紙を掴むと一気に引き抜いた。
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全員の頭の上に浮かび上がっただろうマークだが引き抜いた本人はそれでも真剣な顔を作っていた。
どうだ恐ろしいだろう、素晴らしいだろう、尊敬するだろう……そんな気持ちが顔全体に現れた健太郎はまだ気付かない。
「健太郎、それは……」
ようやく口を開いたガイアに不敵な笑みを放つ健太郎。
「そう!!これこそが私の全てを使って…………………ん?」
そういえば紙が少し小さいなと思う健太郎が紙を裏返すとそこに写っていたのは一人の女性だった。
その女性がEBの職員なのは服でわかった。次に怪我をした人を治療している事から衛生課の人だとわかる。最後にその女性は健太郎が一番よく知っている女性なのだとわかる。
その写真のアングルからして所謂盗撮……。だがこれをはたして盗撮というのか否か。
「あ、あれ………。小林くん、この封筒はどこから……?」
段々と顔が青くなる健太郎を他所に沙耶は笑顔で答えた。
「はい!机の引き出しの中にあるシークレット引き出しからです!」
説明しよう!シークレット引き出しとは普段は収容物で全く見えない底面に密かに鍵付きのスペースを作った所謂プライベート収納なのだ!
「鍵は……?」
「あれ、知らなかったんですか?ここにある机は全て同じ型で中の鍵も全て統一されているんですよ?」
「机の上に封筒があったはずだが……」
今度はみるみる赤くなっていく健太郎の顔を沙耶は心配そうに見つめている。
「えっと、あぁ!ありましたね!でも、トップシークレットって言ってたので違うと思って……」
「………もうお嫁に行けない!!!」
突如顔を押さえ封筒を大事そうに抱えた健太郎が走っていってしまった。
その頬から涙が流れているのを横目に見つつ、少しでもそっと
しておこうとしたガイアは自分のメンテナンスを続けさせた。
研究員達も言わなくてもわかると言わんばかりに気持ちを切り替え作業に打ち込んだ。
それから数日の間にあったことを話そう。
まずガイアと合体する車輛が技術開発課の奥のほうから運ばれてきた。ガイアよりもずっと大きな車体、厚い装甲。アースによって好みは把握していたのでだいぶ完成されていて、ガイアにとっても納得のいくものだった。
次に細かなフォルム調整だ。あのパーツが大きすぎるとか小さいとか、重いとか軽いとか……。ガイアと健太郎が言い争いが絶えず機械班は寝られない日が続いた。
最後にシュミレーションだ。合体した際きちんと稼働するか、そして一番大切なこと。
カッコいいかどうか!!
今度はガイアと健太郎がタッグを組んで機械班と理想と現実について言い争うことになった。
この3段階の合間合間に「健太郎が美穂に怒られる」ことがあったが、それについてはあの写真が原因である。
ともあれ完成したこの車、使用するのがこんなにも早くなるとは誰も思っていなかっただろう……。
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テストも明日というところまで近づいた日の放課後、高校の図書室では多くの学生が試験勉強に励んでいた。
初日は国語 数学 英語、二日目は社会 理科。一般的な試験だ。
視線をあげるものはなく、ただひたすらに鉛筆を走らせていた学生の中に見覚えのある赤の髪と青い髪、今日はポニーテールもいた。
「ここがこうだろ……で、こうして……」
二次関数のグラフに補助線を引きながらブツブツと問題を解いている烈の隣で刀耶はノートを見ながら復習していた。
「……刀耶君、ここどうだったっけ?」
その横で同じく勉強していた真菜は英語の問題がわからないらしくコソコソと聞いてきた。
なぜこの三人が並んで勉強しているのかというと……
「刀耶!今日は追い込みだ!ギリギリまで教えてくれ!」
昼休みに言われ勿論と了解した刀耶だったが、
「刀耶君、今日暇?教えて欲しいところがあるんだけど……」
教室に帰った時に真菜にも言われてしまった。刀耶にしてみれば願ってもなかったお願いだったが、
「一足遅かったな真菜ぁ!刀耶は俺と勉強するんだ!」
「はぁ!?あんたなんか勉強してもしなくても一緒でしょ!?去ったらあたしとやった方がいいわよ!」
「うるせぇ!お前こそ赤点とってピーピー泣いてろ!」
「なんですってぇ!!」
「なんだよぉ!!」
二人の視線が刀耶を挟んでバチバチと激しくぶつかり合う。
「いや、三人でしようよ……」
という訳で並んで勉強している訳だが、刀耶にしてみれば真菜が横に座っているだけでもドキドキしているのに、さらに体を寄せてくる真菜に刀耶は正直勉強になっていなかった。
「ここはこの指示語がここを示してるからこの後の文章を訳せばいいんだよ」
答えを教えて上げると なるほど…… と納得し体を離した。
こうやって三人でなにかするのは久しぶりだなと刀耶は思った。小さい頃は三人でよく遊びにいったりしていて、その頃比べても空気感は全然変わっていないように見えた。がしかしそれは少し違った。
小さい頃から烈が突っ走っては真菜と喧嘩をし、それを刀耶が仲裁に入って結局三人で遊ぶということを毎日のようにしていた。
だが思春期になっても変わらず喧嘩を続ける烈とは対称的に彼女に好意を持ってしまったが為に呼び方さえ変わってしまった刀耶は段々と距離を置くようになってしまっていた。
僕が変わってしまったんだな……
確かに人との接し方も少し変わってきたのかもしれないと思っていた。
また戻れるのだろうか、いや進むことはできるのだろうか……
そんな事を思いつつ勉強を続けていた三人が気づいた頃には図書室も人がまばらになっていた。
「そろそろ帰るかー」
そう切り出したのは烈だった。苦手な数学ばかり勉強したのかと思いきや机の上には3教科全ての問題集があり、本人もそれは勉強した感をにじみ出していた。
「そうだね、立花さんは?」
「ん?あたしも大丈夫だよ。今日はありがとね!」
「ううん、僕も勉強できたしよかったよ。暗くなってきたし帰り送るよ……」
ふと出た言葉に刀耶は自分で驚いた。確かに中学生の頃は普通に言えていた言葉だが好意を持って初めて言った言葉だった。
真菜を見ると同じく少し驚いた顔をしていた。
「真菜を襲ったやつは逆に病院送りだよ」
ふいに横から頬杖をつきながら烈が覗き込んできた。
「たぶんプロレスラーが襲ってきても負けないと思うぜ!ハハハハ」
それを聞いているとふと前方から禍々しい怒りのオーラが漂い始めていた。見ると真菜は肩を震わせ指の関節を鳴らし、その鋭い目で獲物を狙っていた。
止めようとしたがもう遅い。
素早く烈の後ろをとった真菜はいつぞやと同じく腕を後ろに回し烈の顔を机へと押し付けた。
「痛ででででで!!!」
「あんたってやつは……」
思い切り締め上げる真菜に烈の苦痛が響く。
「立花さん、ここではねっ!止めておこう?」
「……せっかく刀耶君が昔みたいに話してくれたのに!!」
小さく言った言葉は誰の耳にも聞こえなかったが真菜の目は少し潤んでいた。
「帰る!」
乱暴に荷物をまとめその場を後にする真菜に刀耶は呆気にとられて何も言えなかった。
「痛ててて……なんだあいつ?」
「烈、明日謝った方がいいよ」
「なんで?」
「わからないけどそんな気がする」
そう言うと少し苛立ちを感じながら刀耶は荷物をまとめ始めた。それを見て烈も荷物をまとめ図書室を後にしようとすると外から黄色い声が聞こえてきた。
なんだ?とその様子を伺っていると扉が開き翔と眼鏡の副会長が入ってきた。
「翔さん!」「兄貴!」
「ここにいると聞いたんでね、ちょっと話があるんだがいいかい?」
外では遅くまで残っていた女子達が騒いでいる。勿論副会長ではなく会長の翔にだ。
文武両道、更にはイケメンときた翔の人気は高く、隣の女子高ではファンクラブができるほどだ。
そんな図書室を後にし向かったのは烈には懐かしい生徒会室。
「で、話ってなんだよ兄貴」
「赤兎君、君はここに来なくなってどれくらいになる?」
そう聞いたのは眼鏡の副会長だった。
「えっと……選挙してからだから半年くらい?」
この学校では生徒会の選挙が九月にあり、任期はそこから一年間となっている。翔は一年の頃から生徒会に呼ばれやっていないことはないくらい学校の為に働いてきた。
「君には責任感というものがないのかい?!せっかく会長が用意してくれたイスを無駄にして!」
その言葉に烈は眉間にシワを寄せ眼鏡の副会長を睨むと、ビクビクと翔の後ろに隠れた。
「俺には向いてなかったんだよ……わかるだろ兄貴?」
「……あぁわかるよ、僕は心配しすぎたのかもしれないね。烈が入学してきて少し元気がないように見えたから誘ってみたんだ。ごめんよ烈」
頭を下げる翔に烈は首を横に振る。
「でも最近烈が変わってきたような感じがするよ。何があったか教えてくれるかい?」
「まだ秘密だ!言えるときがきたら言うよ」
明るく答える烈にとても嬉しそうに翔は頷いた。
「じゃあ後任は蒼井君にするから」
「おう、いいぜ!」
突然呼ばれた刀耶は何か言おうとしたがその前に翔が喋ってしまった。
「じゃあ決定だ!明日からよろしく頼むよ蒼井君」
「任せたぜ刀耶!」
刀耶は知っていた。この兄弟は有無を言わせず突っ走り巻き込んでくると、しかし今まで嫌だと思った事は一度もなかった。それだけ頼りにしてもらえているのだと思ったからだ。
赤兎兄弟にしてもそうだ。小さい頃からもう一人の兄弟のように接してきた刀耶はいい意味で頼れる兄、悪い意味で巻き込みやすい弟というなんとも都合のいい存在であったが、彼ら自身、刀耶を本当に信頼していた。
「……わかりました」
いつものように巻き込まれると兄弟は同じ顔で笑い、巻き込みやすい弟とさらに絆を深めるのであった。