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第3話 ②

仮面の男が現れてから数日経ったある日烈は獅子神に呼ばれてEBに来ていた。


先日の仮面の男の件で獅子神も忙しく動き回っていたせいで、頼み事を言えず終いのまま今を迎えている。


烈は白いドームの中にある長官室に呼ばれ、そのドアをノックした。


「どうぞ」と呼ばれ緊張しながらドアを開けると中では流石は長官室と言うべき威厳のある内装にお客をもてなす椅子と机、


部屋の奥に構える体育館にある演台のような重厚な作りの机を使って仕事をしている獅子神はさしずめ校長先生に見えた。


「あの……」と小さく言った生徒烈に獅子神校長が顔を上げると、その難しい顔を笑顔に変え近づいてきた。


「やぁ赤兎君!先日は朝だったのにありがとう、助かったよ」


またも握手を求められそれに答えるとまた強い力で握り返されてしまった。


「さぁさぁ座りたまえ!私も昨日からずっと1人でここにいたから退屈だったんだ!」


パンパンと客人用の椅子を叩きそこに座るように促した獅子神も向かいの椅子にボフンと背もたれに体を預け1つ息をつく。


「何か飲み物はいるかい?」


座ると同時に尋ねられたが烈は丁寧に断った。


「そうか…」と少し残念そうに言った獅子神は首を回し、肩を回し、腰を回転させた。


時々にポキポキと小気味良い音を響かせ体をほぐす獅子神は一通りだらけた後、緊張しながら待っていた烈に話しかけた。


「さて……今日君を呼んだのはあることを頼みたかったからなんだ」


見計らったようなタイミングでドアがノックされ獅子神が答えると、秘書であろう眼鏡を掛けた女性が入ってきた。


その手には大事そうに小さなクッションを持っていて緑の珠であるガイアが鎮座している。


「おはよう烈」


明るい声に顔がほころぶ烈の前にガイアが置かれると、女性は獅子神の机にある資料を受け取りお辞儀をして出ていった。


「ガイアなんだがこのままでもいいんだが新しい体を探そうと思ってね」


「俺がエレメンタルコネクトしちゃいけないんですか?」


「それでもいいんだが1つ問題があってね」


獅子神はガイアにバトンを渡した。


「精神が混同してしまうかもしれないんだ。その証拠に最初にエレメンタルコネクトした時に恐らく私の記憶が見えたはずだ」


最初にエレメンタルコネクトをした時……恐らくあの男性の出てきた夢なのかと思った烈にガイアは続けた。


「やはり1つの体に2つの魂を入れてはいけない。君の為にも家族の為にも。そこで私は自分の体を探そうと思う。手伝ってくれないか?」


「別に良いけどよ、体ってもしや人間じゃねぇよな……」


烈は少し恐ろしい事を考えてしまった。


「私は元はロボットだぞ、機械の体に決まっているだろう!」


「よかった……。で、どんなのにするんだ?」


「車輌だ!!」


耳を疑いきょとん(・・・・)として、もう一度聞き直す。


「だから、車輌だ烈!変形してロボットになるぞ!」


…………………………


「ガイア、機械の体である以上必ず守らなければならないことがある。それはなんだと思う?」


結城はガイアに尋ねる。


「水に触れてはいけないとか、高いところから落ちないとかですか?」


「違う!!」


首を傾げるガイアに結城は胸を張って否定した。


「それはな、カッコよくなければならないのだ!!!」


ポカーンと口を開けたガイアの顎を上げた結城は雄弁に話し出した。


「カッコいい=正義の味方だ!父さんの信念でもある!子供の頃、いや今もか?父さんが見たロボットはみんなカッコよくて強くて正義の味方だった。ガイアにもそうであって欲しいと父さんは思っている。息子よ、父さんの信念を受け継いでくれ!」


「は、はい!でも博士、カッコいいの基準がわかりません」


そう言うガイアに結城は部屋の奥から巨大な段ボールいっぱいのDVDを持ってきた。


「これは……?」


「これは父さんの宝物だ!もちろんお前の次にな!今日一日これを見てカッコいいとはどう言うことか教えてあげよう!さぁどれから見る?!」


ガイアは段ボールをガサゴソと探りだし一枚のDVDを取り出した。


「博士、コレがいいです」


その瞬間結城の表情が固まり無言でそれを奪い去り何事もなかったようにまた同じ質問をした。


「でも博士、今取ったやつは……」


「こ、これはだな……、実は秘宝中の秘宝でガイアにはまだ早いかなと思ったんだ!そう!そうなんだ!」


「でもそのパッケージには女性が写っていました。僕が考えるにそれには博士の信念が詰まっているように感じました!だから是非!!」


「だ、ダメだ!!これを見れば別の信念が明るみになってしまう!!」


結城がDVDを奪いとろうとするガイアを防ぎつつ隙を見て逃げ出すと、研究所での壮絶な鬼ごっこ始まった。


「待ってください博士!それが見たいです!」


「ダメだ!!お前にはまだ早い!!」


結局ガイアは見せてもらえずそのDVDは以後2度と姿を見せることはなかった……。


………………………


「という事で頼んだよ。何かあったらすぐ呼んでくれたまえ」


獅子神の携帯番号を聞き長官室から出た烈は右手に乗せたガイアとともにドームのエレベーターに乗り地下の技術開発課に向かった。


技術開発課とは烈の父のである健太郎が働く場所である。


灰色の島から現れたものに対するありとあらゆるものを作っており、最近は何やら奥の方でバーナーや電動機械の音が昼夜問わず響いていた。


「父さーーん!」


ドームの外周と同じ大きさの開発課はとても広かった。


大きなクレーンにベルトコンベアー、コンテナが立ち並ぶそこはハリウッド映画で悪役が根城にしている埠頭の倉庫のようだった。


働いているのは作業服か白衣を着た研究員、その中で密かに目的にしていた女性を烈は探したがパッと見では探せなかった。


烈の叫びがだだっ広い空間に響くが返事はない。


仕方なく鉄骨につけられていた電話機をとると男性の声が聞こえた。


烈が父の所在を聞くと「あぁ、課長ならあそこにいるから少し待ってくれるかい?」と答えてくれまたコール音が流れた。


「もしもぉーーし……赤兎ですけどぉ。ふぁあ……」


眠そうに欠伸をした健太郎の声にこちらまで眠そうになる。


「父さん……」


「れ、烈かい!?ど、どうしたんだい!?」


一気に目が覚めた健太郎に今回の話をした。


「なるほど……新しい体ね。だとしたら先ずはこのEB内で探すといいよ。ここも色々あるからね」


「わかったよ、ありがとう父さん」


電話を切るとまたエレベーターに乗ってドームの外へと繰り出した。


地下の空は雲が流れとても良い天気だった。


「そういえばなんで空が見えるんだろう……?」


ポツリと言った一言は答えのないまま過ぎ去ると思ったが……


「それはですね、シート状の液晶テレビを天井に張って外の景色を映し出しているんですよ!すごいでしょ!」


後ろからの突然の声に驚いた烈が後ろを向くとEBでぶつかったあの女性が胸を張って自信満々に答えていた。


「やぁ小林さんこんにちは」


そう挨拶したのはガイアだった。


「あれ、ガイアさんこんにちは!あ、あの時ぶつかった学生さん!あの時はごめんなさい!ではあなたがパートナーさんなんですか?」


小林と呼ばれた女性が烈の手の中にいたガイアを見て烈に尋ね、烈は自己紹介をした。


「私はEBの技術開発課の小林沙耶です!よろしくお願いします!」


勢いよくお辞儀をすると背中のリュックから盛大に荷物が散乱してしまった。


「はわわわわ!!!すいません!」


すぐに集め始めたのを烈は手伝った。紙類が多いが筆記用具や鏡、少しのメイク道具はかわいいもので統一されており、烈にとっては新鮮なものばかりだ。


「ありがとうございました!私いつもドジしちゃって困ってるんです」


集め終わった荷物をパンダのリュックに詰め込み背負った沙耶は苦笑いを浮かべながら言った。


「それにしても赤兎君、赤兎?どこかで聞いたような……」


「えっと、俺の父さんがお世話になってます!」


「へっ!もしかして課長の息子さん?似てる……」


顔を近づけまじまじと見る沙耶にドキドキしながら必死に烈は目を逸らす。


「あ、ごめんなさい!で、今日はどうしたの?」


「私の体を探そうと思ってね、探検してたんだ!」


烈の代わりにガイアが答えると沙耶は羨ましそうな顔をした。


「えぇ……いいなぁ。私も時間があれば……時間?」


時計を見ると沙耶の顔はみるみる歪んでいく。


「あぁーーーー!!!そうだったぁー!私急いでるんだったぁ!!」


そのまま走っていった沙耶は最後に振り返り笑顔を見せた。


「また来てねぇ!私は技術開発課にいるからぁ!」


大きく手を振る沙耶に烈も大きく手を振り返した。


小さくなる沙耶の背中を見ていた烈はふと地面に落ちている白いハンカチに気づいた。


拾い上げて見るとSAYAと刺繍のしてあるパンダのワッペンがついたもので、落としたのは言わずもがな先程話していた女性だ。


「誰かに渡しておくか?」


「いや、洗濯して返すよ」


「そうか……。さぁ、行こうか!」


この時ガイアは烈の気持ちに気付いていたがそれを口に出すことはなかった。


冷やかすのは自分らしくないし、烈の気持ちが本当なんだなと思ったからだ。


それから少し歩き、獅子神に教えてもらった車輌倉庫にやって来た烈たちはずらりと並ぶ車から新しい体を探した。


「これはどうだガイア?」


烈が指差したのは自衛隊などで使う高機動車、黒い車体に大きなタイヤ、荷台には10人は乗れそうな車だ。


「………烈、1つ聞くがこれはカッコいいか?」


「カッコよくないな」


「そうだろう!これはカッコよくない!!あのライトを見たか?真ん丸だ!そして無駄に大きいタイヤ!そしてあの荷台!地球を守る者に荷台があっていいか?いやよくない!」


雄弁に喋るガイアにいつものような落ち着きはなく、その喋り方は妥協を許さなかった。


「もしこれにしたなら君を毎日学校に送迎してあげよう!『ブルンブルン、あー烈君あんな車に乗ってんの?ダッサーイ!』とでも言われるがいいさ!!」


「ごめんごめん!真剣に考えるよ。じゃあ戦車は!」


その瞬間ガイアのないはずの米神がピキリと音を立てた。


「センシャだと……バカヤロー!!」


突然の叫びに驚いた烈はガイアを落としそうになった。


「ば、バカはないだろ!!」


「いいや!君はこの間の話を聞いていたのか?!私は兵器じゃないんだ!」


すぐに思い出した烈はごめんと反省しながら謝った。


「んっ!わかってもらえれば結構!!それに見たまえあの形を!まずあのキャタピラ、キュラキュラとのろまに動く!そしてあの砲身、細っ長い弾がポンポン飛ぶだけだぞ?!そしてあのボディ!!変形したときにどんなゴツい体ができるか……想像するだけでも気分が落ちる……」


気持ち珠の色がくすんだように見えたが気を取り直して倉庫を見て周った。


先日乗ったワンボックスカー……却下。


軽四自動車……ノー。


ブルドーザー、ショベルカー……ゴツすぎる。


トラクター……まあ論外だろう。


「ガイア、このスポーツカーはどうだ?!」


そこに置いてあったのは職員の誰かが乗っているのであろう赤いスポーツカーだった。


正面に回ると唸るようにガイアが考え、烈もその様子を半分空腹な気持ちで見守っていた。しかし……


「ダメだ烈、やはりこれではない」


「なにがいけないんだ?カッコいいし、スマートだし、いいんじゃないか?」


烈もこうなったらとことん付き合ってやる気持ちで言った。


「いいんだが何となく若い感じがする。もっと大人の感じが似合ってると思うんだ。色もできたら緑色がいいんだ、緑は私のイメージカラーなんだ!」


確かに言われてみればあの龍のパワードスーツも緑だったと思い出した烈は、そういえばとある場所を同時に思い出していた。

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