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#09

 時はあっという間に過ぎて、夏休みが終わりもう9月。私は、夏休み前と変わらず登校していた。

 夏休み中はいろいろあったな。急にお父さんが帰ってきたと思えば、また叩かれるし。叩かれたと思えば、コップを投げつけられるし。外へ逃げようと思えば、偶然七峰君と遭遇するし。遭遇したと思えば、また叩かれて気を失うし。起きたら病院だし。七峰君がいるし。もう……散々だった。でも……。あの時の七峰君、ちょっとかっこよかったかも、なんて。まぁ、顔は整ってるからね。

 でも、七峰君にお父さんの事知られてしまった。隠したかった。あの時会いたくなかったのに。タイミング悪すぎ。

 我がC組のクラスへ向かう途中、キャッキャ話している女子達の会話が耳に入ってきた。


「ねね、私、夏休み中七峰君に会えたの!」

「えっ、いいなぁ! 私、七峰君家の近くら辺うろうろしてたけど、1回も会えなかったよーっ」

「私なんか会話できたよ!」


 ……朝から元気ですなぁ。七峰君なんかと会えたのが、そんなに嬉しいのか。私も会ったし話したけど、全く嬉しくない。できれば会いたくなかった。ってゆーか、七峰君家の近くうろうろって……ヘンタイか。

 そんな事を思っていると、とっくにC組に着いていた。教室に入ろうとすると、背後から聞き慣れた声がした。


「いおりんおはよ!」


 七峰君だ。この人も、相変わらず元気溌剌。


「おはよ」


 そう返すと、七峰君はなぜか近づいてきた。何だろう……と身構えていると、こそっと私に耳打ちしてきた。


「この前のは、大丈夫?」


 この前――あの日の事だろう。

 七峰君は更に、「元気になった?」と訊ねてきた。


「うん。元気になった」

「そっか。よかった」


 そう言って七峰君は笑顔を見せた。そこらの女子達が見たらすぐさま虜になってしまうような、キラッキラな笑顔を。残念ながら、私は虜にならない。

 すると、七峰君は「じゃあね」と手を振ってこの場を立ち去ろうとした。そんな七峰君を私は呼び止めた。七峰君は振り返る。


「……あ、ありがとうございました」


 あの日助けてくれたお礼を言わなきゃ、って思った私は顔を背けながら言う。七峰君は、「何で敬語なんだよー」と笑いながら去ってった。

 七峰君の会話を終えて、教室内に向き直る。すると、私と七峰君の会話を聞いていたクラスの女子達が一斉に話しかけてきた。


「ねねっ。七峰君と遊佐さんって、どういう関係なの!?」

「……べつに。赤の他人ですが」

「ナイショ話してなかった!?」

「あー、してたけど」


 この答えが悪かったのか、彼女達は更に私を質問攻めにしてきた。私は教室の外へ出される。荷物置きたいんですけど。


「正直、七峰君のこと好きでしょー?」

「……好きじゃないよ」

「嘘っ! あんなに話して優しくしてもらって、好きにならない人なんていないよー」


「私は例外なの」と言い返そうとした時。私の言葉を誰かが遮った。


「そういう人も、いるんじゃない?」


 私を質問攻めにしてた彼女達は、一斉に声のした方向に顔を向ける。私も見たかったけど、彼女達が邪魔で見えなかった。

 乱入してきた人は、更に続ける。


「現に、この私がそうだし」


 そう言って、カメラか何かのシャッター音が聞こえた。え、写真撮った?

 立ち竦んでいると、私を囲っていた彼女達は飽きた、つまらないと言った表情で去ってった。これで私はフリーになった。とりあえず荷物置かせて。


「大丈夫? 伊織ちゃん」


 その人は私にそう言う。何で私の名前知ってるんだろう。「うん……」と頷きながらその人の顔を見る


「……雪?」


 その人は、同じ中学校だった蒼井雪(あおいゆき)だった。雪は、「お久しぶり」と片手をあげる。今の今まで雪が同じ高校だったなんて、知らなかった。

 雪とは中学2年生の時以来話していなかった。ちょうど3年になる時のクラス替えで離れてしまったからだ。


「同じ高校だったんだね。何組?」

「A組。七峰君と一緒だよ」


 雪が私にとっては余計な情報まで言ってくるので、私は「へー、そうなんだ」と適当に返した。その返事に反応した雪は目を光らせた。


「あははっ、今のすっごい適当。どうでもいいって思ったでしょ?」

「……うん、まぁ。正直」

「伊織ちゃんって、ホントに七峰君が嫌いなんだね」


 嫌いってゆーか、好きじゃないだけなんだけど。


「……雪も、七峰君のこと好きじゃないんだよね?」

「うん。普通に話すけど、べつに好きじゃないよ」


 雪は「他の子とは違うから」と付け足した。さっき女子達に言ってた事は本当だったんだ。

 私はさっきの会話を思いだし、「あっ、そういえば」と話を切り出した。


「雪、さっき写真撮った?」


 そう聞くと、雪は「うん」と頷いて首から下げていたスマートフォンをちらつかせた。


「なんか、修羅場っぽかったから」

「……そっか」


 修羅場……だったのかな。

 ってゆーか、雪って不思議だな。スマートフォンを首から下げるなんて。写真撮るの、好きなのかな。そういえば、中学の頃から不思議ちゃんだった気がする。

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