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#05

「――で、あるからして――」


 古典の授業終了まで五分前。私は、窓の外を眺め、というかボーッと見ていた。

 あれから七峰君は、学校内で会うと笑顔で手を振ってきた。私は「こっち見るな」という気持ちを込めて顔を背ける。でも、七峰君は気にしていないようだった。


「――えー、ではー、今日中にノート提出ー。係の人は……遊佐ー」


 ノート提出か。ま、私はちゃんと写してるから問題ないけど。


「…―遊佐ー、遊佐ー―…」

「伊織っ」

「っ!」


 斜め前の席の子に名前を呼ばれ、初めて先生に名前を呼ばれていた事に気づく。


「遊佐、大丈夫か?ボーッとして」

「あ、はい。大丈夫です」


 ボーッとなんて、していない。ただ――“遊佐“という名字に反応できなかったんだ。

 ここでチャイムが鳴り、先生が教室を出るのと同時に席を立つ。そして、教卓の上にノートを出すように呼びかけた。




 ノートを提出し、職員室から教室に帰る途中。教室目前のところで誰かに呼び止められた。


「あっ、いおりん!」


 ……七峰君だ。七峰君は、友達と思われる男子と一緒に来た。


「……何?」

「地理の教科書貸して!」

「カノジョから借りればいいじゃん」

「B組、今日地理ないんだって~」


 えー……。そう思っていると、隣にいた七峰君のお友達が口を開いた。名前は――碧波君。


「……あ、遊佐さん、なかったら全然大丈夫だから。あっても貸したくなければ貸さなくて大丈夫だから。翼を一人で廊下に立たせとくから」

「そうだね。七峰君の為にも」


 ブラックスマイルで碧波君が言う。私もそれに賛成した。勿論ブラックスマイルで。


「ちょっ……二人とも酷くない!?酷くない!?」


 偽涙目で言う七峰君が可笑しくて思わず笑う。そんな七峰君を、碧波君が「静かにしろ」と制した。七峰君は、渋々降参する。


「あははっ……。はい、貸したげる」


「しょうがないから」と地理の教科書を貸す。七峰君は「サンキュ!」と笑顔を見せてA組に帰っていった。


*


「ありがとな!貸してくれて」


 地理の授業が終わり、次の体育の授業の為に校庭へ移動するついでと言っちゃなんだけど、いおりんに教科書を返しに行った。

 いおりんは、何も言わずに教科書を受け取る。ホントは表情豊かなのに、何でいつも無表情なのかなー。

 俺はそんないおりんに「次体育だから行くね」と告げ、C組の教室を離れた。


「お前、最近あの人と仲良いな」


 校庭に行く途中、隣を歩いていた碧波新(あおなみあらた)が俺に言う。新も無表情で、これまた意外と頭がいい。でも何考えてるかよくわからないクールな奴だ。


「いおりん?あの子、おもしれーんだよ」

「へー……」


 新は、俺のことをジーッと見る。何見てるんだ?

 すると、新は俺から視線を外し、口を開いた。


「……わかってると思うけど、お前には白石さんが―…」

「わかってる」


 俺は新の言葉を遮った。


「……わかってるよ。俺は未里一筋だし。いおりんのことは、好きにならない」


 隣から、「赤くなんなよ」という声が聞こえた気がした。

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