#04
翌日の放課後。私は、いつもどおり一人で教室を出た。今日は、七峰君は来ない。まぁ、毎日来られても困るからいいんだけど。
一人で昨日と同じ電車に乗る。今日も人が多いので、昨日と同じ場所に立った。……七峰君がいないと静かだな。
電車が私が降りる駅に停車し、電車を降りる。ふと、視線を泳がせると、昨日やっていたシュークリームのお店は、今日はやっていないようだった。
昨日と同じバス停へ向かう。昨日はシュークリームを買わなかったせいか、列に並んでる人は少なかった。並んでスマートフォンを弄っていると、バスが来た。乗車して、後ろの方の席に座る。バスがバス停に停まってる間、またスマートフォンを弄っていると、キャッキャしながら一組のカップルが乗車してきた。その人達をジッと見ると――男性のほうは、あの七峰君だった。思わず鞄で顔を隠す。でも、七峰君はカノジョと思われる人との会話に集中しているようだった。私に気づいていない。気づかれたら絶対声をかけられる。そう思い、ひっそりと二人を観察する事にした。あの女性、どっかで見たような……。あ、思い出した。確か、隣のクラスの白石未里さん……?白石さんは確かに可愛いと思うし、七峰君のカノジョにはピッタリだろう。ここで、観察に飽きたので止める事にした。
『次ー。□□前ー、□□前でございます。お降りのお客様は、お手元のボタンを――』
ピンポン、とボタンを押す音がした。しばらくして、バスが停まる。どうやら降りるのは、白石さんのようだ。その時の、二人の会話が聞こえてきた。
「――ホントにいいって。大丈夫だから」
「いや、送ってく。一人にすると危ないだろ?」
何の揉め事だろうか。私が思うに、七峰君が白石さんを家まで送ってくかどうするかっていう揉め事?七峰君、送りたまえ。そして、さっさとこのバスから降りたまえ。
そう念じていると、二人はバスを降りた。よし。これで警戒する必要がなくなった。
……って事は、本当に七峰君の住んでる所は二丁目?私は、さっきの七峰君と白石さんの会話を思い出した。白石さん、「翼に迷惑かけちゃう」って言ってたし。じゃあ、昨日言ってた事はホントで、バスに乗らなかったのは、シュークリームを買ってせいでお金がなくなっちゃったから……。
……私、なんかすごく悪い事した気分だな。
翌日の放課後。
「いーおりんっ、帰ろーぜ!」
「嫌」
今日も、この男は私のところに来た。そして、今日も即答で倒した。
「お願いっ!俺、ボッチで寂しいからさ!」
……嘘だ。女子の友達たくさんいるだろう。
「……今更嘘ついてどーすんの」
「え!俺、嘘ついてたの!?」
え、意外とバカ?……もういいや、めんどくさ。
「……勝手についてくれば?」
そう言って歩きだすと、七峰君は「いおりんサンキュ!」と言ってついてきた。はぁ……疲れる。
階段を降りて一階へ行く。すると、七峰君が急に大きな声を出した。
「あっ、いおりん待って!数学のノート出してくる!」
「えー……」
そう言いつつも、七峰君のあとを追いかける私はどうかしている。私と七峰君は職員室まで来た。七峰君がドアを開けようとすると、七峰君よりも早く誰かが内側からドアを開けた。そこには、私達二年生の数学担当の先生が立っていた。ナイスタイミング。
「先生、ノート持って来たよ~」
「おう。ギリギリだな」
七峰君が先生に対する態度はまるで友達。あきらかにナメてるだろう。
ここで、ふと七峰君が先生に渡しているノートの表紙に目がいった。そのノートには、キレイな字で『数学Ⅰ 2-A 七峰 翼』と書かれていた。本当に本人の字かと聞きたいくらい、その字はキレイだった。そこら辺の女子よりも、この私よりも。ジーッと見ていると七峰君に気づかれ、「何?」と言われたが、首を横に数回振った。そして、「行くよ」と声をかけた。
駅までの道、私はなぜか七峰君に話しかけていた。
「……七峰君は、どうしてほぼ毎日私と帰ろうとするの?他の女の子とは帰らないの?」
「他の子は皆部活だからさ」
「ふーん……」と言った後、私はまた質問をした。
「七峰君は、何で部活入んないの?」
「そう言ういおりんは何で入んないの?」
急に逆に質問され、「えっとー……」と返事に困った。
「……私は、部活とかしてるより勉強してたほうがいいから。かな」
「へー、そっか」
「七峰君は?」
「俺が部活に入っても、俺に勝てる奴なんていないじゃん?」
……うっわー、その発言超うっざい。ナルシストな発言だ。
七峰君に軽蔑の眼差しを向けていると、七峰君は「うっそ」と舌を出した。
「それは建前で、本音は部活をやる時間と金がないから」
「ふーん」
なんかもう、どうでもよくなったな。ナルシスト発言するから。……でも、時間がないのはわかるけど、お金もないの?貧しそうには見えないけど……。
……でも、七峰君が言った事も一理あるかも。七峰君は、頭もよくて運動神経も抜群で。私のような一般的な人が彼より勝る事なんてない。顔だって、字のキレイさだって。なんか悔しい……と彼を見る。七峰君は私の視線に気づき、「何?」と微笑んだ。
「いや……私が七峰君より勝ってる事ってないんだなって」
「へへっ。俺って最強」
「あ、でも……身長は私のほうが高いかも」
私がそう言うと、七峰君は「えぇっ!?」と驚きショックを受けた。七峰君から身長を聞くと、やはり私のほうが2㎝程高かった。よし、勝った。
「でも……2㎝だし!俺らの差、2㎝だし!」
「でも私のほうが高いしー。チービ」
そう言うと、七峰君はそっぽを向いてしまった。
「……怒った?」
「……悔しいのと恥ずかしい」
「え?恥ずかしい?」
「うん……。女の子より小さいとか俺、めっちゃダサいじゃん……」
「いや、私が大きいだけだから安心しなよ。カノジョよりは大きいんでしょ」
「さらっと自慢したし!」
七峰君の反応に、自然と笑みが溢れる。……意外と楽しいかもな、この瞬間。