#03
とある日の放課後。
「……何でついてくんの」
例のイケメン君が、なぜか私の後ろについてくる。
「んー?なんとなく」
七峰君はそう答える。“なんとなく“でついてこないでほしい。
「……それに、俺ん家こっちだし」
「へー」と適当に返して、電車に乗る。今の時間は人が多いので、私達はドア近くの吊り輪を掴んだ。
ガタン、ゴトンと揺られる中、窓の外を見ていた私に七峰君は聞いた。
「いおりん家もこっちの方なんだね」
「……まぁ」
「何丁目?」
「一丁目」
……って!!何でまた軽々と教えてんの!!
七峰君をチラッと見ると、「へー!俺、二丁目!近いね!」と顔を輝かせていた。私ん家は結構学校から遠い方だけど、七峰君も遠いんだ。私のほうが遠いけど。
『次ー。△△ー、△△でございます』
次の駅を知らせるアナウンスが流れる。私の降りる駅だ。七峰君もここで降りるのだろう。
私達の方のドアが開いたので、すぐさま降りる。すると、案の定七峰君も私の後で降りてきた。やはり同じだ。
無言で駅の中を歩く。切符を入れて改札口を出たところで、私は、あるモノが目にとまった。
「いおりん?どした?」
急に止まった私を見て、七峰君が問う。私は、歩きながら答えた。
「シュークリーム、買ってくる」
「えっ?何で急に?」
「食べたくなったから」
「お、おう……」と何もわかってない七峰君は、私の後をついてきた。私の目にとまったモノとは、シュークリームが売っているお店の事だ。ここのお店のシュークリームは何度か食べた事があって、たまーに他の物も売っていたりする。基本、シュークリームだけだけど。なぜかは知らないが。
私は並んでる列の最後尾に並ぶ。前には、二組並んでいた。
「……いおりん、シュークリーム好きなの?」
「うん」
「へー、意外……」
電車の中での勢いはどこに行ったのだろうか。それほど、私がシュークリーム好きな事に驚いてるのかな。
そうこうしているうちに、私の番になった。おばちゃん定員に「いくつにするかい?」と聞かれ、「えーっと……」と言いながらお財布の中を見る。……全くなかった。これから乗るバス代の事を考えると、シュークリーム一個分のお金しかない。昨日、参考書を買ってしまったからだろうか。
私は、もう一、二個食べたい気持ちを抑えながら「一個で」と頼む。すると、後ろから「待った!」という声がした。七峰君だ。
「おばちゃん待った!あと、二個足して!」
七峰君のお願いに、定員さんは「はいよー」と返す。七峰君は定員さんに「袋は別だけど、会計は一緒にして!」と訳のわからないお願いまでしていた。頭に“?“を浮かべていると、七峰君はお財布を取り出して、三個分のお代を出し始めた。
「ちょっ……ちょっと待って!何で私の分も払ってるの?」
「ん?別々にすると会計するのめんどくさいじゃん?」
そう言って、私の分まで払ってしまった。定員さんは「まいどっ」と言いながら七峰君と私にシュークリームの入った袋を渡す。受け取り、少し歩いたところで七峰君が「あっ!」と大きな声を出した。
「そういえば俺、生クリームダメなんだった~」
「……は?」
「甘いもの無理なんだよ!もったいないからいおりんにあげるっ」
そう言って、七峰君は私に袋を押しつけてきた。私は、オドオドしながら受け取る。これだと、私は一切お金を払わずして七峰君からシュークリームを貰った事になってしまう。それはなんか嫌だったので返そうとすると、七峰君は、「ちゃんと食えよ~」と私に念を押してきた。返せなくなってしまった。
……七峰君は、最初っから私にくれる為に二個足したのだろうか。普通、生クリームがダメなのを忘れるだろうか。意味わかんない……と思いながらバス停に並んでる列の最後尾に並ぶ。七峰君も並ぶんだろうな……と思っていると、予想外な事に、私の横を素通りしていった。それと同時にバスが来る。
「七峰君、乗らないの?」
「俺ん家近いから乗らなーい」
「じゃあね~」と手を振って歩いてく七峰君。私は、その後ろ姿を見つめながらバスに乗車した。
七峰君家って、二丁目だよね?全然近くないじゃん。何で乗んないんだろ。お金がないとか?もしそうだとしたら……シュークリームのせいじゃない。いや、もしかしたら二丁目っていうのが違うのかも。私と近くって言いたいだけの嘘かもしれない。どっちにしろ、謎だ。
そんな事より……七峰君の事を考えている私も謎だ。