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#27

「七峰君!!」


 私は、見慣れた二つの後ろ姿に声をかける。その瞬間、同時に振り向いた。七峰君が小さく私の名を呟く。

 私は先程麻弥との仲直りを成功させた。そして、次は七峰君とだって思った。校舎内を駆け回り、やっと見つけた。けど不運な事に七峰君の隣には白石さんが。まぁ、当たり前だろう。カレシとカノジョが一緒に帰るのは普通だ。だけど、今の私には、失礼だが白石さんがとても邪魔だった。


「ど、どうしたの? いおりん」


 七峰君が私に問いかける。隣で白石さんが少々嫌そうな、困ったような顔をした。だが、私は構わず答える。


「……七峰君に用があって来たの。だから――……」


 ここで一旦間をおく。そして、視線を七峰君から白石さんに変えた。


「……はずしてもらってもいいかな? 白石さん」


 白石さんの顔が更に嫌そうな表情になる。顔で「嫌」って言ってる。たぶん、私に七峰君が奪われるって危機を感じているんだ。でも、当の本人はそんなつもりはない。ただ、話があるだけなんだ。それをわかってもらいたいけど、口には出せなかった。

 やがて、白石さんは俯けていた顔をあげた。その表情は、優しげな笑顔だった。だが、どこか違和感があった。まるで、作り笑いのような。


「いいよ、ご自由に。……じゃあ私は先に帰るね。また明日ね、翼」

「あ……うん」


 白石さんは去り際に「遊佐さんも」と付け足した。私は「ありがとう」とだけ伝えた。


「……で、用って?」


 七峰君は待ちきれなかったのか、自分から聞いてきた。私は、ゆっくりと口を開いた。


「……久し振りだね、こうやって話すの」

「……うん」

「それも、私のせいなんだけど」


 そう言うと、七峰君は頷きもせず、否定もしなかった。表情を見ると、怒っているわけでもなく、悲しそうにしているわけでもなく。何か言いたそうにしているわけでもなく、ただどこか一点を見つめて微笑んでいた。その姿に、何故か胸が苦しくなった。耐えきれず、私は口にした。


「……ごめんなさい」


 声が震える。また七峰君は何も言わない。言う言葉がないのか、それともわざと何も言わないのか。

 私は続けた。


「……勝手に無視して、勝手に避けて。私から七峰君を拒絶したくせに、私から話しかけて。全部自分勝手で、本当に申し訳ないって思ってる」

「……うん」

「……七峰君と一緒にいない日々はつまらなくて。だから、前みたいにまた仲良く――……」

「しよう」


 突然、七峰君が私の言葉の途中で口を開いた。思わず、「えっ」と驚きの声が漏れる。私が驚いていると、七峰君が続けた。


「俺、いおりんに嫌われてるんじゃないかってずっと気になってたんだ。それで避けられて、確信した。本当に嫌われてるんだって。でも、いおりんから話しかけてくれてすっごく嬉しかった。俺も、また前みたいに仲良くしたい……です」


 最後の方は、七峰君は少し頬を赤らめていた。その姿が可愛くての可愛くて、七峰君の言葉が嬉しくて、自然と笑みが溢れた。つられて七峰君も笑顔になる。


「……あっ、そうだ。白石さんの誕生日プレゼント、全然買いに行けなくてごめんね。いつだっけ?」

「ん? 明日」

「明日ぁ!?」


 まさか、もうそんなに日が過ぎていたとは。今日買いに行かなくちゃ、明日渡せないじゃん!!


「買いに行こ。今すぐ買いに行こ!」

「えっ、今すぐ!?」

「当たり前でしょ! 明日誕生日なんだよ?」

「べつに、一日くらい遅れたって……」

「日にちにはこだわりなさい!」


 そうして、私達は急いで雑貨屋に向かった。白石さんの誕生日プレゼントに七峰君があまりにも迷うので、候補の中から私が選んであげた。……って、それじゃ私からのプレゼントみたいになっちゃうじゃない! この、優柔不断男!

 そんなこんなで、私にとって今日という日は最高の一日だったと思える。それは、七峰君も同じだと私は思う。そんな最高の一日の次の日は、最悪の一日だった――……

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