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#25

 何で、何で……。

 私の頭の中は、そんな言葉でいっぱいだった。まさか、雪だけでなく麻弥にも嫌われるなんて。そんな事、思ってもいなかった。でも、理由はわかってる。どうせ、七峰君関係だろう。だって、麻弥は七峰君の事が好きなんだから。


「やっちゃった……」


 理科室へ行く途中、ボソリと呟いた。いつもなら、麻弥と一緒に行くのにな。これは、孤立街道まっしぐらだな……。

 よく考えると、これも全部七峰君のせいじゃないか。雪に嫌われたのも、麻弥に嫌われたのも、原因は七峰君じゃないか。何で私は、そんな一緒にいると不幸になる人と今まで一緒にいたのだろうか。よくよく考えると、私はなんてバカなんだ。もっと、幸せな生活を送りたい。麻弥や雪と仲直りしたい。その為にするべき事はただひとつ。

 ――七峰君と、距離を置こう。




 そう決断して、早一週間が経った。

 この一週間はというと、七峰君と話さず、近づかず、目も合わせず。笑って手を振ってきても、いつもと同じなのに何か違う「こっち見るな」という気持ちを籠めて目を逸らす。そんな毎日だった。気づけば、いつの間にか七峰君はこっちを見なくなるし、話しかけようとも近づこうともしなくなっていた。まぁ、普通そうだろう。なのに――なんだか、胸が痛かった。何かの病気なんじゃないかってくらいに。七峰君が隣にいなくても、べつに……寂しいとか、思わないし。


「いおりん、最近翼と話さないよね」


 ある日、休み時間トキちゃんのもとを訪れた時、そう言われた。

 麻弥から嫌われ、気軽に話せる友達の少ない私の居場所は、C組の教室にはなかった。だから、最近は気軽に話せるトキちゃんがいるB組の教室によく来ていた。


「そう……かな」


 やはり、気付かれているのか。周りの目にも、そう映っているのか。わかりやすすぎたかな……と私は少し後悔をした。


「うんうん。前まではよく二人で帰ってたのに、最近一人でしょ?」

「それは、まぁ……」


「どうしたの? 急に」とトキちゃんに聞かれ、言葉につまった。これ以上嫌われたくないから、なんて私の口からは到底言えない。だから、適当に思い付いた言葉を口にした。


「……もともと、しつこいと思ってたし? 七峰君には白石さんがいるのに、私とばっかり仲良くしてちゃ失礼かなって思って」


 適当ながら、なかなか筋が通ってるじゃないか。これで、トキちゃんも納得してくれるだろう。そう思ったのに――……


「……ホントに、そう思ってる?」

「……っ」


 真剣な眼差しで、トキちゃんはそう言った。何で、わかってしまうんだろう。いとこって、そんなに通じ合えるものなのだろうか。


「思ってもいない事、そうやって簡単に口にしちゃダメだよ?」

「……」

「……本当は、翼の事が好きなんじゃないの?」


 突然、トキちゃんが思いもよらない事を口にした。その事に、私は反論しない訳にはいかなかった。


「え……? そんな訳ないじゃない。っていうか、どうしてそうなるの?」

「……普通に考えれば、そうなるよ」

「い、意味わかんない……。……も、もう私の話はいいから。トキちゃんこそどうなの? 好きな子できた?」


 なぜか動揺する私をこれ以上見せたくなくて。これ以上、この話をしたくなくて。私は、無理矢理話題を変えた。それにトキちゃんは、すんなり乗ってくれた。


「……うん、まぁ、そうだね。気になる人ならできた……かな」

「誰っ?」


 トキちゃんからこんな話を聞くのは初めてで、自然とテンションが上がってしまった。トキちゃんは、恥ずかしそうに、思いがけない人の名を口にした。


「……白石さん」

「……え?」


 思わず、驚きの声が漏れる。だって、トキちゃんの口から出た名は白石さんだよ? 七峰君のカノジョだよ? そんな人を好きになったって迷惑なだけだし、勝率なんて低いし――……


「……だ、ダメダメっ。ダメだよ、白石さんは。だって、七峰君のカノジョだよ?」

「……だから、何?」

「……っ。だ、だから、七峰君に迷惑――……」

「ほら。また翼の事考えてる。そういうところが、翼の事が好きなんじゃないかって事に繋がっちゃうの」


 言葉もない。確かに、また七峰君の事を考えていた。まさか本当に、私は七峰君の事が好きなんじゃないのだろうか――……


「わかんないよっ……!」


 漏れた心の声に、トキちゃんは何も言わなかった。それどころか、「もう、チャイム鳴っちゃうよ」と自分から話を切り上げた。

 別れ際に、トキちゃんが私に言った。


「この気持ちが膨らんだら、誰のカノジョであろうと僕は奪いにいくから」


「この気持ち」とは、白石さんに対する気持ちだろう。私は、今までにない程頭を使った気分だったので、「勝手にすれば」と呟いた。この呟きは、誰にも聞こえるはずがなかった。

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