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#24

 今日もまた、途中で七峰君に会ってそのまま一緒に登校する朝だ。いつの間にか、私にとってこれが習慣と化していた。

 学校に着いてもまた、七峰君は私に話しかけてくる。


「ねーねーいおりん、未里のプレゼントいつ買いに行くー?」

「……いつでもいいんじゃない?」

「どこのお店にするー?」

「……どこでもいいんじゃない?」


 ニコニコ笑顔で訊ねてくる七峰君とは反対に、私は、勝手に決めてよー……と思いながら七峰君の話を聞き流している時だった。


「やっほ、いおりん」


 突然、誰かに声をかけられた。でも、私を“いおりん“と呼んでいる人は、この高校でただ一人。それも七峰君だ。だが、当の本人は私の隣にいる。とすると、声をかけてきたのは――……

 私は声のした方向を見て、思い浮かべていた名前と顔を一致させた。その姿に声をあげる。


「トキちゃん!?」


 私は手を振っている“トキちゃん“こと、神風時雨のもとへ駆け寄った。トキちゃんは、相変わらずの爽やかスマイルで話を切り出した。


「久し振りだね、って昨日会ったか」

「そうだね。っていうか、転校って私が通ってる学校にだったんだね。言ってくれればよかったのに」

「いおりんをビックリさせようと思ってね」


 あはは、とトキちゃんは笑う。その笑い方も、全く変わっていなかった。

 私達が笑い合っていると、近くで私達の会話を聞いていたと思われる七峰君が口を開いた。


「ねぇねぇ、この人誰?」


 ツンツン、と私をつついてくる。「あぁ」と私は七峰君にトキちゃんを紹介した。


「この人はトキちゃん。私の従兄なの」

「初めまして。いおりんの従兄です」


 トキちゃんが律儀に挨拶をする。一方七峰君は、やっと謎が解けたといった顔をした。


「へー、いおりんの従兄……。あ、俺、七峰翼ね! よろしくっ」

「あぁ、君が」


 トキちゃんの発言に、私と七峰君は首を傾げる。どういう事だろうか。


「あっ、いや、クラスメートの人達が噂してたもんだから。……あ、僕は神風時雨といいます」


 やっぱり、七峰君はいろんな人に噂されてるんだね。っていうか、トキちゃんクラスメートの人達と仲良くなるの早いな。


「時雨か! ……ん? あれ? 何でいおりんは時雨の事“トキちゃん“って呼んでるの?」

「あぁ、それはね。トキちゃんはこう見えて、小さい頃すっごく人見知りだったの。初めてトキちゃんと会った時名前を聞いたら、トキちゃんは自分の名前を言うんじゃなくて書き始めたの。しかも、漢字で。その時は私、全然漢字できなかったから『しぐれ』って読む事ができなくて、『時雨』の『時』の字は読めたから“トキちゃん“って呼ぶ事にしたって訳」

「そう。それで、いおりんが僕にアダ名つけてくれたから、僕もいおりんにアダ名をつけたんだ」


 そう。トキちゃんは、七峰君に次ぐ私の事を“いおりん“と呼ぶたった二人のうちの一人なのだ。それも、七峰君よりも早くから呼んでいる。つまり、元祖って訳だ。

 私とトキちゃんの説明を聞いた七峰君は「なるほどぉ」と相槌を打った。しかしその表情は、なんとも複雑なものだった。


「そういえば、翼……も“いおりん“って呼んでるね。何か意味があるの?」

「あーいや、特に意味はないよ。ただ、呼びたいから呼んでるだけ」

「ふーん。……それは、噂に関係しているのかな」


 語尾の方が聞こえず「え? 何て言った?」と二人で聞き返す。でも、トキちゃんは「ううん。何でもないよ」とはぐらかした。何だろう、気になる。


「そういえば、二人は何組なの?」


 トキちゃんにそう聞かれ、私と七峰君は順々に答える。その後、私達のほうからも、同じ質問をした。トキちゃんは「B組だよ」と答えた。という事は、白石さんと同じだ。チラッと七峰君を見る。七峰君も、私と同じ事を思ったような表情をしていた。

 ここで、この会話の終わりを告げるかのように、登校完了のチャイムが鳴った。このチャイムと共に、私達生徒は各自の教室に戻らなければならない。私達のクラスは別なので、それぞれの教室へ戻る事にした。

 教室に入ると麻弥の姿が目に入り、声をかけようと思い麻弥のもとへ歩みよった。


「麻弥、おはよう」


 窓際にある本棚を見ていた麻弥に声をかける。すると、麻弥は私の声に振り向いた。そのまま、「おはよう」と返してくれるんだと思っていた。

 だが、現実は違った。麻弥は私を見るなり顔を歪ませる。そして、本棚から適当に本を一冊取り、そのまま自分の席へと駆けていってしまった。


「え――……」


 何? 今、何が起こったの――!?

 私の頭の中は疑問でいっぱいだった。ただわかったのは――……

 ――麻弥に、嫌われた……?

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