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#23

「いおりん……」


 放課後。七峰君が控えめに話しかけてきた。らしくない。


「何?」

「ごめんっ!」

「!?」


 突然、七峰君が頭を下げた。しかもここは学校の昇降口。ただでさえ昨日の事で注目されているというのに、もっと注目されるような事はしたくない。


「……ちょ、ちょっと。頭上げて」


 そう言うと、七峰君は素直に頭を上げてくれた。実に扱いやすい。

 悲しげな七峰君の表情を見ていると言葉が出ず、ずっと黙っていると七峰君が口を開いた。


「……ホントにごめん……っ。怒ってる、よね……?」

「……べつに、怒ってないけど」

「マジですか!?」


 私が答えた瞬間、七峰君の表情は途端に明るくなった。でもすぐにその明るさは消え、落ち着いた声で続けた。


「……でも今日、すごく悪い事したと思ってる。自分でも。いおりんの今後に影響――……」

「あのさぁ、私の心配してる暇があるなら白石さんの新発売心配しなよ。カノジョなんだし。それに、全て七峰君が悪いって訳でもないから。私だって、したいって思ったからしたんだよ?」


 しんみりする七峰君に、私はそう言った。七峰君らしくなくて気持ち悪かったから、いつもの七峰君に戻ってほしいっていう気持ちを込めて。すると、七峰君は少しの間驚いた様子で、その後笑みを溢した。


「あはは。それ、新にも言われた」

「どれの事?」

「未里の事心配しろって事。……っていうか、いおりんもしたいって思ってくれたんだね。それって、もしかして俺の事――……?」

「ふざけるな」


 七峰君の横腹にグーパンチをお見舞いする。七峰君の言いたい事がわかり、イラっときたのでこの行動。よし、私は間違っていない。


「いおりん酷い!!」

「ご自分のせいですよ。自業自得」

「俺、いけない事言ったー?」


 この様子からして、自覚はないらしい。もう一発、お見舞いしてもいいかな? ……って、何を私はドSな事を考えているんだ。止めてあげようじゃないか。伊織ちゃんは優しいんだぞ。


「……ぷっ」

「!?」


 自分の考えている事が可笑しすぎて、つい吹き出してしまった。その様子に、七峰君は不思議そうに私を見る。なんとなく、「ごめんごめん」と謝っておいた。


「そんな事よりさぁ~」


 突然、七峰君が口を開いた。


「一ヶ月後、未里の誕生日なんだよね~」


 知るか。即座にそう思った。白石さんの誕生日なんて、私には関係ないだろう。


「……そうなんだ」

「だからさ、プレゼント選ぶの手伝ってくれない!?」

「えー……」


 私は無意識に、嫌そうな声を出してしまった。それにしても、なぜ私なのだろうか?


「今まではどうしてたの?」

「他の女の子とか、馨ちゃんとかに頼んでた」

「じゃあ、何で私なの?」


 そう聞くと、七峰君は「うーん」と悩み始めた。暫くして、ニカッと笑顔で答えた。


「いおりんは頼みやすいし、未里の次に近くにいるから」

「……っ」


 何も言えない。だって、確かにそうかもって思ってしまった私がいるから。そういうところが、雪に嫌われる理由のひとつなのかもな。

 ……そんな事より、七峰君の笑顔に一瞬ドキッとしてしまった私が憎い。


「それに、いおりんは優しいから引き受けてくれるでしょ?」

「……うん。そうだね」


 そう言葉を溢すと、私の言葉に反応した七峰君は「いいの!? ありがとー!」と勝手に話を進めてしまった。いや、べつに手伝う事自体は嫌ではないのだ。人の役に立つ事をするのは好きだ。だけど――なぜか、胸がチクチクした。何でだろう……と思いながら、一人ではしゃいでいる七峰君を見つめた。

 ――たぶん、あれだ。一人ではしゃいでいる七峰君がウザかっただけだ。

 無理矢理そう解釈して、前を歩いている七峰君のもとまで駆け寄った。

 いつも通り最寄り駅で電車に乗り、降りてバスに乗り換える。私より家が近い七峰君が先に降り、少し乗っていつものバス停で降りる。そして、五分程歩いて我が家へ。ここまではいつも通りだった。


「ただいま~……」


 家のドアを開け、そう呟く。勿論です返事などある訳ない。あった事などない。これが普通だ。なのに、今日は――……


「おかえり、いおりん」


 そう、見慣れた姿の彼が、私に声をかけた。

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