表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

#20

「昨日はごめんね」


 翌日。七峰君に会ってからの開口一番はこれだった。一瞬、何の事かわからず、「え?」と首を傾げる。七峰君が「帰り」と付け足してくれたので、やっと何の事か理解できた。


「いいよ。ってか、何で謝るの?」

「いや、急だったし、いおりん1人で寂しくなかったかなって」

「べつに、七峰君にそう思われても嬉しくなんかないかんね?」


 私は本心で言ったつもりだったのだが、七峰君は私を「この、ツンデレ~」と弄ってくる。そんなつもりはないのだけれど。ちょっとイラついてきたので、バシッと七峰君の背中を思いっきり叩いた。七峰君は、私が期待していた通りの反応を見せる。面白くて、つい笑いを堪えるのが大変だった。


「ちょっ……いおりん痛いって!」

「だって痛くしてるもん」

「酷いよいおりん!!」


 そんな感じで2人話していると、いつの間にかA組の教室の前にいた。七峰君に別れを告げ、私はC組の教室へ向かった。




 今日も文化祭実行委員の集まりがあった。その集まりを終え、七峰君と一緒に教室へ戻ろうと足を進める。そんな時、昨日もいたカップルを見つけた。


「またいるね……」


 七峰君が囁く。私達は、昨日と同じようにあのカップルを観察する事にした。相変わらずイチャイチャしている。それで終わると思ってた。今日は何があったのか、2人の顔がどんどん近づいていく。そして――唇どうしが触れあう瞬間を、私達は凝視してしまった。


「「――っ……」」


 息を呑む。少し長めのキスだった。2人は名残惜しそうに一度放れて、また重ねあう。私達は思わず身を乗り出してしまい、どちらがかはわからないが、ガタッと音をたててしまった。


「「っ!!」」 「「っ?」」


 私達が手のひらで口を抑え隠れるのと同時に、カップルの2人がこちらに振り向くのがわかった。急いで、隣のC組の教室に入る。私達は深いため息をついた。


「いやぁ、危なかったね~」


 七峰君が、手の甲で汗を拭う仕草をした。


「うん。それより―…」

「キスの事、でしょ?」


 七峰君に言葉を重ねられる。「凄いなぁって思ったんでしょ?」と聞かれたので、正直に頷く。だって、本当に凄かった。よく、学校という公共の場でできるな、とも思ったし、“キス“というものは恥ずかしくないのだろうか、とも思った。……それも気になったけど、私にはもっと気になる事があった。


「ねぇ、七峰君」

「ん?」

「……“キス“って、どういうものなの?」


 私は知りたかった。キスとはどういうものなのか、どういう気持ちになるのか。

 難しい質問だっただろうか。七峰君は、頭を悩ませた。少しの間悩ませた末、口を開いた。


「うーん……説明するのはちょっと難しいかな」

「……そっか」

「なんなら、やってみる?」


 七峰君が、突然爆弾発言をした。反射的に俯けていた顔を上げる。七峰君は、わりと真剣な表情をしていた。


「じょ……冗談言わないでよ」

「冗談じゃないよ」

「寝言は寝てから―…」

「寝言でもない。俺は、結構本気で言ってるよ?」


 やめてよ。そんな目で見ないで。そんな目で見られると、したくなるじゃない。七峰君とのキス、してもいいって思っちゃうじゃない。でも……七峰君にはカノジョがいるんだよ? 白石さんがいるんだよ?

 答えに迷っていると、七峰君はゆっくりと口を開いた。


「俺は目ぇ閉じてるから。いつでもいいからね」


 そう言って、七峰君は目を閉じた。

 ……まさか、私がキスするまでずっとこの状態でいるつもり!? こんなの、「しろ」って言ってるようなものじゃない……。

 しょうがないな……と思いながら七峰君に顔を近づける。覚悟は決めた。顔寸前の所で目をギュッと瞑り、七峰君の唇に、浅く、そっと触れさせた。あのカップルとは真逆の、浅く短いキス。

 目を見開いている七峰君と目が合う。たぶん、私がキスをした事に驚いているのだろう。開いた口が暫く閉じなかった。


「……驚きすぎ。それと、顔赤くなりすぎ」

「いや、だって……意外だったから……」


「しないと思った」と七峰君は付けたし、手の甲で口許を隠す仕草をした。すごく照れている。そんな七峰君の姿を見ていると、私まで照れてきた。


「……感想は?」


 七峰君はチラッと私を見て、昨日と同じ質問をする。またか……と思いながら口を開いた。今回は、無駄な抵抗は止めた。


「意外と……普通だった」

「えぇ!?」


 私が正直な感想を述べると、七峰君はショックを受けたような声をあげた。しょうがないじゃないか、本当に普通だったんだから。


「……ふ、普通?」

「うん。何でかな」

「……それは、相手が俺だったからじゃない?」


 七峰君の言葉に、私は「そうかも」と笑って返す。メンタルの弱い七峰君なら先程みたいに、それ以上にショックを受けると思ったが、意外な事に一瞬だけ顔を歪ませてから笑顔になった。そして、私達は笑いあった。



 ――誰かに見られているとも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ