表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

#19

ここから現代に戻ります。伊織sideです。

「――って感じで、高校も同じ所にする事になって、今に至るって感じ――って、いおりん、聞いてる?」


 七峰君の声で、視線を本から七峰君に移す。

 ついさっき、教室内でイチャついているカップルを見つけ、どうやったら付き合えるのか不思議に思った私は、七峰君に七峰君と白石さんがどのようにして付き合ったのか、七峰君から話を聞いていたのだ。


「……あぁ、うん。聞いてるよ」

「ホント~~?」

「ホントだって」


 私の言っている事を信じてくれない七峰君は、「じゃあ、感想聞かせてよ」と変な注文をしてきた。思わず、「え~」と嫌と言ったような声を出す。それでも七峰君は聞きたそうにしているので、しょうがないから言ってあげる事にした。


「んーと……所々七峰君の顔が赤くなるのが面白かった」


「そんな事!?」と七峰君は叫んだ。「そんな事」とは酷い。注文してくるから、しょうがなく言ってあげたというのに。


「他にないの?」


 他? まだ聞いてくるのか。どんだけ感想が聞きたいんだ、この人は。

 正直めんどくさかったから、「嫌だ」と顔に書いて七峰君を睨んだ。七峰君は、一瞬怯む。だけど、体勢を直し、再び「聞かせて」と言った顔で見てきた。しつこい。そういう所が、私は苦手だ。

 でも、これ以上反抗するのもめんどくさかったので、ため息をひとつつき、本当に思った事を口にした。


「……助って人は遠慮がなさそうで、冬樹って人は頭よさそう。菜穂って人は仲良くなれなさそうで、はなのって人は周りに合わせるだけのズルい人そう。白石さんは……今と変わってない、気がする。白石さんの事よくわからないけど、前からいい人だったんだなって思った」


「これでいい?」と七峰君を見た。すると、七峰君は顔をほんのり赤くし、それを右手の甲で隠すように照れていた。


「……え。何で」

「何でって……未里の事、いいふうに言ってくれてるなぁって……」


 ……アンタは、他人の事でもいちいち赤面するんですか。カノジョだからですか。

 ###。ウザったい。取り敢えず消したい。でも……照れてる七峰君の横顔は、なんだか可愛かった。


「……」

「……っ?」


 七峰君は、何が起こったのかわからなそうな顔で私を見た。それもそうだろう。七峰君の横顔が可愛すぎて、つい七峰君の頬を人差し指でつついたのだから。しかも、無言且つ無表情で。


「……い、いおりん……?」

「……っ。いいから帰るよ」


 先にズカズカ進む私の後に、七峰君が急いで追いついた。昇降口まで歩く。先程イチャついていたカップルは、もう既にいなくなっていた。七峰君から話を聞いている時に帰ったのだろう。

 靴を履き替え、昇降口を出る。9月の空からは、西日が射し込んでいた。


「……感想の続き、いい?」


 私は不意に口を開いた。突然の事に驚いた七峰君は少しの間静止し、静かに「うん」と頷いた。私は、ゆっくり口を開く。


「……七峰君が、羨ましいって思った。白石さんも。2人とも、素敵な出会いをして仲良くなって、そして付き合って。私にも、そんな素敵な出会いがあるのかな」

「……あるよ、きっと」


 七峰君は、遠くを見つめ言った。


「いおりんが逃げなければ、きっとあるはず。もしかしたら、もう素敵な出会いがあったかもだし」


 七峰君は、こちらを向いて微笑んだ。私は、「まさか」と笑って返す。だって、例えもう既に素敵な出会いがあったとしたら、それに該当する人物は七峰君しかいないから。

 それはないはず――


「翼っ」


 突然の声に、私も七峰君も声のした方向に顔をあげた。この、可愛らしい軽やかな声は、聞いた事はそう多くはないがわかる、白石さんだ。

 隣で、七峰君が「未里……」と呟くのが聞こえた。白石さんは少しずつ歩みよりながら言った。


「さっき部活が終わって、遠くで翼が歩いているのが見えたの。帰ろ?」


 白石さんが折角誘っても、七峰君は「あ、えっと……」ともじもじし始める。何でもじもじするのだろうか。カノジョだろう。焦れったい七峰君の背中を、私はちょっと強めに押した。


「ほら。行きなよ」

「……え、でもいおりん……」

「私はいいよ。カノジョ第1でしょ」


 そう言うと、「じゃあ……」と七峰君は白石さんのもとへ歩み寄った。そして、どちらからともなく手を取って、足を進めた。

 私は追いつかない程度に歩を進める。校門を出ると、2人は右に曲がった。行き先は駅だろう。げ、私と同じ方向。後ろをついていくのはなんだか無理な気がしたので、左に曲がる事にした。遠回りをして駅に行こう。そしたら、七峰君達に会わないかもしれない。そう思い、足を進めた。

 ……なんだか、あの2人を見るのは胸が痛かったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ