#19
ここから現代に戻ります。伊織sideです。
「――って感じで、高校も同じ所にする事になって、今に至るって感じ――って、いおりん、聞いてる?」
七峰君の声で、視線を本から七峰君に移す。
ついさっき、教室内でイチャついているカップルを見つけ、どうやったら付き合えるのか不思議に思った私は、七峰君に七峰君と白石さんがどのようにして付き合ったのか、七峰君から話を聞いていたのだ。
「……あぁ、うん。聞いてるよ」
「ホント~~?」
「ホントだって」
私の言っている事を信じてくれない七峰君は、「じゃあ、感想聞かせてよ」と変な注文をしてきた。思わず、「え~」と嫌と言ったような声を出す。それでも七峰君は聞きたそうにしているので、しょうがないから言ってあげる事にした。
「んーと……所々七峰君の顔が赤くなるのが面白かった」
「そんな事!?」と七峰君は叫んだ。「そんな事」とは酷い。注文してくるから、しょうがなく言ってあげたというのに。
「他にないの?」
他? まだ聞いてくるのか。どんだけ感想が聞きたいんだ、この人は。
正直めんどくさかったから、「嫌だ」と顔に書いて七峰君を睨んだ。七峰君は、一瞬怯む。だけど、体勢を直し、再び「聞かせて」と言った顔で見てきた。しつこい。そういう所が、私は苦手だ。
でも、これ以上反抗するのもめんどくさかったので、ため息をひとつつき、本当に思った事を口にした。
「……助って人は遠慮がなさそうで、冬樹って人は頭よさそう。菜穂って人は仲良くなれなさそうで、はなのって人は周りに合わせるだけのズルい人そう。白石さんは……今と変わってない、気がする。白石さんの事よくわからないけど、前からいい人だったんだなって思った」
「これでいい?」と七峰君を見た。すると、七峰君は顔をほんのり赤くし、それを右手の甲で隠すように照れていた。
「……え。何で」
「何でって……未里の事、いいふうに言ってくれてるなぁって……」
……アンタは、他人の事でもいちいち赤面するんですか。カノジョだからですか。
###。ウザったい。取り敢えず消したい。でも……照れてる七峰君の横顔は、なんだか可愛かった。
「……」
「……っ?」
七峰君は、何が起こったのかわからなそうな顔で私を見た。それもそうだろう。七峰君の横顔が可愛すぎて、つい七峰君の頬を人差し指でつついたのだから。しかも、無言且つ無表情で。
「……い、いおりん……?」
「……っ。いいから帰るよ」
先にズカズカ進む私の後に、七峰君が急いで追いついた。昇降口まで歩く。先程イチャついていたカップルは、もう既にいなくなっていた。七峰君から話を聞いている時に帰ったのだろう。
靴を履き替え、昇降口を出る。9月の空からは、西日が射し込んでいた。
「……感想の続き、いい?」
私は不意に口を開いた。突然の事に驚いた七峰君は少しの間静止し、静かに「うん」と頷いた。私は、ゆっくり口を開く。
「……七峰君が、羨ましいって思った。白石さんも。2人とも、素敵な出会いをして仲良くなって、そして付き合って。私にも、そんな素敵な出会いがあるのかな」
「……あるよ、きっと」
七峰君は、遠くを見つめ言った。
「いおりんが逃げなければ、きっとあるはず。もしかしたら、もう素敵な出会いがあったかもだし」
七峰君は、こちらを向いて微笑んだ。私は、「まさか」と笑って返す。だって、例えもう既に素敵な出会いがあったとしたら、それに該当する人物は七峰君しかいないから。
それはないはず――
「翼っ」
突然の声に、私も七峰君も声のした方向に顔をあげた。この、可愛らしい軽やかな声は、聞いた事はそう多くはないがわかる、白石さんだ。
隣で、七峰君が「未里……」と呟くのが聞こえた。白石さんは少しずつ歩みよりながら言った。
「さっき部活が終わって、遠くで翼が歩いているのが見えたの。帰ろ?」
白石さんが折角誘っても、七峰君は「あ、えっと……」ともじもじし始める。何でもじもじするのだろうか。カノジョだろう。焦れったい七峰君の背中を、私はちょっと強めに押した。
「ほら。行きなよ」
「……え、でもいおりん……」
「私はいいよ。カノジョ第1でしょ」
そう言うと、「じゃあ……」と七峰君は白石さんのもとへ歩み寄った。そして、どちらからともなく手を取って、足を進めた。
私は追いつかない程度に歩を進める。校門を出ると、2人は右に曲がった。行き先は駅だろう。げ、私と同じ方向。後ろをついていくのはなんだか無理な気がしたので、左に曲がる事にした。遠回りをして駅に行こう。そしたら、七峰君達に会わないかもしれない。そう思い、足を進めた。
……なんだか、あの2人を見るのは胸が痛かったのだ。