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#17

 私の朝はいつも1人だ。私は元々顔が広い訳ではなく、唯一の仲の良い友達と言える菜穂ちゃんとはなのんの家は私の家と反対側。それに、私の中学は自転車通学は禁止となっているから、いつも1人で歩いている。

 ……だから、誰かに会えるとすごく嬉しい。


「七峰君っ、おはよ!」


 少し前を歩いていた七峰君を見つけ、声をかける。すると、七峰君は振り向き笑顔で片手を上げた。


「おはよ、未里ちゃん」


 一瞬、言葉を失ってしまった。ハッと我に返り、「う、うん……」と訳のわからない返事をしてしまう。それほど驚きだったんだ。突然、“ミサちゃん“から“未里ちゃん“呼びに変わった事が。

 その後、私は七峰君と話ながら登校した。やはり、呼び方はずっと“未里ちゃん“だった。




「ねぇっ! なんか、七峰君にアダ名で呼ばれなくなったんだけど!」


 朝、教室ではなのんと喋っていると、菜穂ちゃんがすごい勢いで私達のもとへ来た。菜穂ちゃんの勢いにビックリしていると、はなのんが「私もだよ~」と言った。急いで、「わ、私も……」と言う。


「何で? 急にどうしちゃったの?」


 そんなの、私に言われても……と思っていると、はなのんが「もしかして」と顔を上げた。


「昨日、七峰君に私達の事好きなの? って聞いたのが悪かったとか?」

「え、何で? 七峰君本人には聞いてないじゃん」

「蓮見君が七峰君に私達が聞いたって言った、とか……?」


 私も話に参加する。私が意見を言うと、2人は「それだ!」と私を見た。


「……でも、もしそれが原因でアダ名呼びしなくなったとしたら、私達の事べつに好きじゃないって事……?」


 はなのんが結論を述べる。皆、俯いた。少しの間の後、菜穂ちゃんが「何よそれっ」と机を叩いた。


「いくらなんでもあからさますぎない? もうちょっと、わかりづらくしてくれればいいのにさぁ」

「確かに。さすがにそれは酷いよね」


 菜穂ちゃんは、「あーもームカつく!」と叫んだ。はなのんも「ホントホント」と頷く。その後も2人は七峰君の悪口を言い合っていた。何で七峰君が悪いふうになっているんだろう。そう、疑問に思った。思うだけでよかったのに、2人の悪口を聞いてるうちに口に出してしまった。


「……んで、七峰君が……の……?」

「は?」

「何で七峰君が悪いのっ?」


 2人は再び「は……?」と言った。菜穂ちゃんが「それは」と話し始めた。


「好きか聞かれた瞬間突き放すとか、調子に乗ってるっしょ。思わせ振りな態度とったくせに好きじゃないとか。未里もムカつかない?」

「……べつに、ムカつかないよ」


 私がそう答えると、菜穂ちゃんは「はぁ!?」と眉を上げた。怖い……けど、何も悪くない七峰君を悪く言うのは許せないっ……!


「だって、七峰君は何も悪くないじゃん。好きじゃない子を突き放す。ちょっと酷いかもしれないけど、これ以上思わせ振りな態度をとらないようにって七峰君なりに考えたんじゃないかな? そう考えると、悪くない七峰君の悪口を言ってる2人のほうがムカつくよ……!」


 半分涙目で言い終えると、菜穂ちゃんは「なによっ」と言い放った。


「いい子ぶっちゃって。所詮、未里も七峰君の事が好きなんでしょ? それで庇ってるんでしょ? 後で痛い目見ても知らないんだからっ」


 ここでちょうど朝の読書の始まりを告げるチャイムが鳴り、二人は自分の席へ戻っていった。

 ……私は間違った事はしてない。だけど、菜穂ちゃん達との関係にひびを入れてしまった。バカな事をした、そう思った。


 *


「なぁ~、なんか菜穂に泣きつかれたんだけど~」


 冬樹と話してる途中、助が困ったような呆れたような顔をしながら俺達のもとへ歩んできた。


「えっ、何で!?」

「つか、マジで泣かれたの?」


 俺と冬樹が助に問う。助は、近くの棚に腰をかけて答えた。


「いや、マジで泣かれてはないけど。なんか愚痴? 言われた」

「何の?」

「翼の」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は固まった。念のため、「俺の……?」と聞き返す。すると助は、「うん。翼の」と平然と答えた。俺はいつの間にか、菜穂ちゃんに愚痴を言われてたんだ。でも、なぜだろう。よく理由がわからない。助に聞こうと口を開きかけた時、「なんかさ」と助がちょうど聞こうと思ってた事を話し始めてくれた。


「『好き? って聞いた直後から突き放すとか、ふざけてるでしょ。ウザすぎ』とか何とか言ってきてさ~」


「その事か……」と俺は呟いた。確かに酷い事をしたのかもしれない。だけど、間違ってはいない気もする。でもそれは、勝手に自分を正当化しようとしてるだけなのかもしれない。それでも、『ウザい』まで言われたのは結構ショックだった。


「まぁ、菜穂は元々その気だったからしょうがないよね~」


 突然、助が訳のわからない事を口から出した。俺は、思わず「どういう事?」と聞く。


「だから、菜穂はあの日翼と出かける前からお前の事が好きだったって事。だから、余計期待しちゃったんだよ」

「それって、美神もだよな?」

「そうそう」


 会話が理解できない。どういう事だろうか。あの日俺はたまたま、人数合わせで呼ばれたんじゃ……?


「菜穂と美神ちゃんが『翼と出かけたい』って言うからさ~」

「ちょっ……助、ちょっと待って。あの日は、俺は人数合わせで呼ばれたんじゃなかった?」

「あー、あれ嘘ね。翼を呼ぶ為の口実。ああでも言わないと、翼、来なかったろ?」


 確かにそうだ。図星すぎて何も言えない。


「でも、助は美神の事狙ってたんじゃなかったっけ?」


 突然、冬樹が興味深い事を言った。


「んーまぁそうだったけど。その話聞いてもうどうでもよくなったわ」


 助ははなのちゃんの事が好きだった。でも、俺の事が好きだと知って、その気ではなくなってしまった。という事だろう。なんだか罪悪感を感じた。


「助、なんかごめん……」

「何で翼が謝るんだよ」


 助は笑顔でそう言った。すごくいい奴だ。

 ――あれ? 俺はここで、何か足りない気がした。


「――未里ちゃんは?」

「あー、白石ちゃんは正真正銘の人数合わせ。翼に気はないみたいだよ」

「そう、なんだ……」


 ……なんだろう。なんだか、ちょっとガッカリした。それって、もしかして――?

 いやいや、まさかそんな事ある訳ない。俺は2人に「帰ろう」と声をかけた。

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