#16
「最悪だ……」
廊下で独り、ボソリと呟いた。何が最悪なのかと言うと、先程の帰りのホームルームの時間に体育祭実行委員を決める事になって、それもくじで決める事になったのだ。俺は元々くじ運が悪く、神社で引く御神籤は殆ど凶。よくて末吉と、あまりいいほうではないのだ。そんなこんなでくじを引くと、案の定、実行委員は俺になってしまったのだった。
ブルーな気持ちで集まる教室まで足を運ぶ。するとそこには、教室のドアの前で何やら挙動不審になっているミサちゃんがいた。
「あれ、ミサちゃん?」
俺が声をかけると、ミサちゃんは振り向いて「あっ、七峰君!」と俺のもとへ来た。
「ミサちゃんも実行委員なの?」
「そうなの! くじでアタリ引いちゃってさ~。でも知ってる人がいてよかった!」
人見知りなミサちゃんらしい言い方だ。何だろうな、ミサちゃんは他の子とはなんか違う気がした。
「そういえば、教室入らないの?」
「あっ、あの……なんか、入っていいのかわからなくて……」
ダメな事があるのだろうか。たぶんあれだろう。本人は言葉を変えているが、きっとこの静寂の中教室に入るのは気が引けたのだろう。だから、俺が「入っちゃお」とリードして教室に入った。
実行委員会、案外最悪じゃないかもな。
「翼~。どうだったよ、実行委員会は?」
実行委員会が終わり、我が教室に戻ると助と冬樹が待っていてくれた。
「いや、意外と楽しかったよ? ミサちゃんいたし」
俺の不幸を嘲笑うようにニヤニヤしながら聞いてくる助に、俺は平然とした態度でそう返した。
「えっ、白石ちゃんいたの!?」
「おうっ。俺と同じくくじでだってさ」
その後俺は今日の実行委員会での活動、ミサちゃんと話した事等を話した。大体の事を話終えると、助が「あんさ……」と口を開いた。
「翼って菜穂か美神ちゃんの事好きなん?」
なぜか俺の言った事とは全く関係のない事を助は話題にしだした。突然の事で何も言えないでいると、助は「それとも、白石ちゃん?」と付け足した。
「えっ……何で? つか、急にどうした?」
「いやさ、菜穂に聞けって言われたんだよ。『私達は他の女子より喋ってるし、アダ名で呼んでくれてるし』って」
「いや、そんなつもりは……」
本当にそんなつもりはないのだ。ただ仲良くなりたくて、下心なんてなかった。
「じゃあ、他にはいるのか?」
「そういうのは、いない……」
仲良くなりたいっていう俺の勝手な気持ちが、勘違いを起こすなんて―…
「翼」
冬樹に静かに名前を呼ばれ、ハッと我に返る。冬樹は俺を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「翼、もう好きでもない女子をアダ名で呼ぶのは止めろ」
「え……」
「そうやって思わせ振りな態度をとって期待させといて、後で泣かれたりされたら嫌だろ? 気持ちよくないだろ? だから、もう止めろ」
冬樹はいつも冷静で、冬樹の言葉は頼りになる。こういう言葉も、冬樹が言う事は大抵従ったほうがいい。そうだと知っている俺は、深くゆっくり頷いた。若干、躊躇いながら。
「翼はイケメンだからな~。大変だよな~」
やっぱり、助の言葉は嫌味に聞こえる。顔なんて今更どうしようもないんだから、しょうがないじゃないか。そう笑ってやればいいのに、そうできないのは俺の心が弱いからかな。