#14
ここからは過去編になります。回想的な。
七峰sideです。
時は2年前。中学3年生の頃だった。俺が通っていた学校は珍しく1年ごとにクラス替えがあって、クラスの数が多く3年になっても知らない人は多かった。
あの日は同じクラスの仲の良い男友達から、「女子3人と遊ぶ。人数合わせの為に来い」と言われ、街中のショッピングセンターに行っていたんだ。
「翼ー! こっちこっち」
「ごめんっ。遅れた」
「大丈夫。肝心の女子達はまだだから」
その言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。スマートフォンで時間を確認すると、今は午前9時58分。集合時間は午前10時だったから、ギリギリだ。
この頃の俺は、女子との関係は今程ではなく疎かった。でも、人数合わせと頼まれたら断れない主義なので、来てしまった。
「……にしてもおせーな」
スマートフォンで時間を確認し、そう呟いたのは吉野冬樹。それに対して「まあまあっ。女子にはいろいろ準備があるんでしょーよ」と返したのは俺を誘ってきた蓮見助。その2人と会話しながら待つ事10分。ようやく肝心の女子3人組が姿を現した。
「ごめんごめんっ。遅れたー!」
そのうちの1人が走ってきたにも拘らず、笑顔で謝罪した。すると、助とその子が少し何かを話して、こちらに向き直った。
「んじゃ、早速3組に別れよっか。グッチョッパーしよ」
えぇ!? 何それ聞いてないんだけど!? と心の中で驚きながらも渋々グッチョッパーをした。すると、こうなった。
助はさっき笑顔で謝罪した、茅ヶ崎菜穂ちゃんという3人の中で一番ハキハキしてる子。
冬樹は、美神はなのちゃんという艶々した長い髪が特徴の子。
俺は、白石未里ちゃんという3人の中で一番目立たない子だった。
「んじゃっ、取り敢えずこれで行動ね」
菜穂ちゃんの言葉で、俺達は12時を集合に別れた。だが、俺達のペアだけはその場に立ち竦んだ。
……えっと。この場合はどうすればいいんだ? 男の俺が、引っ張っていかなきゃなんだよな……?
とっ、取り敢えず……と、話しかけてみる事にした。
「えっと……白石未里ちゃん、だよね?」
「あっ、はいっ……」
「俺……七峰翼っていうんだ。よろしくね」
「よろしくお願いします……」
「……」
「……」
ダメだ!! 会話が続かない!! 何話せばいいんだよ!!
俺はこれを機に、なんとか女子と仲良くなれないだろうか……と思った。だが、未里ちゃんはバンバン話すほうではない。俺から話さなくては仲良くなれなそうだ。なんとかして仲良く―…そうだ! アダ名だ! アダ名で呼んだら少しは仲良くなれるかもしれない! そう思った俺は、早速未里ちゃんに話しかけた。
「ねぇ、未里ちゃん。未里ちゃんは、何かアダ名ある?」
「えっ、アダ名?特にはないかな……」
「そっかぁ。じゃあ……」
「?」
「……“ミサちゃん“にしよう!」
ミサちゃんは、「何を言っているのこの人」と言ったような目で俺を見てきた。うっ……その視線、痛い。でも、俺はめげない。今すぐ泣きたいけどめげない。でも、一応了承を得たほうがいいよね……。
「えっと……ダメかな?」
「いやいやいやっ! 大丈夫、だよ」
「よかったぁ」
「えへへ。なんか嬉しい」
そう言って笑ったミサちゃんの笑顔はすごく可愛くて、ドキッとしてしまった。ミサちゃんは、赤くなる俺を不思議そうに見た。その小首を傾げる仕草も可愛い。……って!! 初対面の女の子だぞ!!
「とっ、取り敢えず歩こうか。行きたい場所とかある?」
「あっ、えっと、行きたい場所ってゆーか、したい事なんだけど……」
そう言って、ミサちゃんに連れて来られたのはショッピングセンターの二階にあるクレープ屋さん。ミサちゃんがしたかったのは、このお店のクレープを食べる事だ。クレープとは……すごく“女の子“な発想だ。
後ろからミサちゃんを見守っていると、ミサちゃんは次々といろいろな種類のクレープを注文していった。まさか、全部ミサちゃんが食べるのか……?
「七峰君は、何か頼む?」
「……あ、いや、大丈夫……」
ミサちゃんらしくない姿に驚いてしまった。ミサちゃんは頼んだ分の代金を払い、クレープを受け取っていく。俺達は近くのベンチで食べる事にした。
俺は、隣に座ってクレープを食べるミサちゃんを見ながら言った。
「美味しそうに食べるね」
「えへへ。クレープ食べてる時が一番幸せだなぁ」
「そんなに食べて、大丈夫なの?」
「うん! ってか、美味しくて食べちゃう。七峰君も食べる?」
ミサちゃんはそう言って、今さっき食べていたクレープを俺に差し出してきた。俺は、思わず「え……?」と声を出してしまった。だって、ミサちゃんらしくないあまりにも大胆な行動をしたから。現在食べていたクレープを俺に差し出す。これって、間接キス……!?
俺は何も言えずただ頬を赤くして視線を泳がせていた。その姿に疑問を持ったミサちゃんは、一瞬何かを考えて、その後物凄い速さで出していた腕を引っ込めた。
「いやっ、あの……そうじゃなくて……。無意識ってゆーか、反射的にってゆーか……」
「あ……うん。大丈夫……。わかってるから……」
なんだか気まずくなってしまった。
その後、ミサちゃんは驚異的な速さで残ったクレープをたいらげ、気まずいままぶらぶら歩いていた。そして、助達との集合1時間前のところで、ミサちゃんがとあるお店の前で止まった。
「……ミサちゃん?」
無言で立ち竦むミサちゃんに声をかける。すると、ミサちゃんはお店の中を見つめたまま答えた。
「七峰君……あそこ、入っていい?」
ミサちゃんは、さっきから見つめていたお店を指差した。俺はべつに断る理由もなかったので、「いいよ」と答えて2人でお店の中に入った。
なぜかミサちゃんはどんどん足を進める。俺はそのあとを必死に追いかけていると、ミサちゃんは突然足を止めた。俺はギリギリぶつかる寸前で止まる事ができた。
「やっぱりあったぁ!」
突然ミサちゃんが声をあげる。肩を震わせる俺を余所に、ミサちゃんは何かを両手に持ってきゃわきゃわしていた。
「何? それ」
興奮しているミサちゃんに問う。すると、ミサちゃんは興奮したまま手に持っていた物を見せてくれた。ミサちゃんから手渡された物は、ブタのストラップだった。
「可愛いと思わない!? それ」
「う、うん。可愛いね……」
なぜこんな返事になってしまったのか。それは、このストラップがあまりにも可愛いとは思えなかったからだ。
青というブタにはあり得ない色のブタが、変顔をしているストラップ。そこらの女子が見ても可愛いとは思えないだろう。ミサちゃんの好みは少しズレてるのだろうか。
結局そのストラップを購入して、助達との集合時間になった。こうして、次のペアで回る事になった。俺は、なぜか名残惜しい感じがした。
またグッチョッパーをして、ペアを決める。結局、三回ペアを組んで女子3人と回る事になったのだった。
「じゃあね。チガちゃん、はなのん、ミサちゃん」
「バイバーイ」と手を振る3人に、俺も笑顔で手を振り返した。
時間はあっという間に過ぎ、もう帰る時間となった。先に帰った女子達を見送って、俺達も歩き始めた。
「チガちゃん? はなのん? ミサちゃん?」
少し遅れて冬樹が口を開いた。
「そ! 皆のアダ名!」
そう。俺は今日3人と回って、その内に皆をアダ名で呼ぶ事にしたのだ。
2番目に回った茅ヶ崎菜穂ちゃんは、“茅ヶ崎“から取って“チガちゃん“。
3番目に回った美神はなのちゃんは、チガちゃんとミサちゃんに“はなのん“と呼ばれていたので“はなのん“。そう呼ぶ事にしたのだ。
「アダ名か~。翼って、そんなに女子と仲良かったっけ?」
「いや。全然奥手だったけど、今日でなんかコツがわかった気がする」
「ありがとな、助」と助にお礼を言うと、なぜか複雑そうな顔をした。気になったけど、その時の俺はさらっと受け流してしまった。
今日、この日から、俺は女の子と仲良くする事に目覚めてしまったのです。