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#13

 その時、玄関のドアが開く音がした。

 私はビックリして、肩を震わせる。すると、ベッドに座っていた七峰君が勢いよく部屋から出ていった。私もあとについていく。玄関には、1人の女性の姿があった。


「母さん!? どうしたんだよ!」


 七峰君は、「母さん」と呼んだ人のもとへ走っていく。あの人は七峰君のお母さんらしい。でも、何で帰ってきたのだろう。七峰君は、「今日は帰ってこない」って言ってたのに……。


「あっ、翼。ただいま」

「どうしたんだよ。今日は帰ってこないんじゃなかった?」

「それがね。なぜか急に『帰っていいよ』って言われて」


「そうなんだ……」と七峰君が呟くと同時に、七峰君のお母さんが私を見た。


「あれっ、お友達?」

「あっ、お邪魔してます」

「ごめんなさいねぇ、こんな状態で」


 私は「大丈夫です」と返す。七峰君のお母さんは靴を脱ぎ、七峰君に言った。


「今からごはん作るから、ちょっと待っててね」

「いや、今日は作らなくていいよ。馨ちゃんがカップラーメン買ってきてくれたからさ」


 七峰君と七峰君のお母さんの会話を聞いて、胸が苦しくなった。七峰君は普段あんなにヘラヘラしてるのに、あの笑顔の裏側にはこんなにつらい日常があったんだ。

 私は、この場にいるのがつらくなってきた。七峰君のつらさを見るのもそうだけど、これ以上知っちゃいけない気がして。もう、帰りたい。


「七峰君……私、帰ってもいいかな?」

「あっ、じゃあ俺送ってくよ」

「大丈夫だから」


 私は玄関で靴を履き、「お邪魔しました」と一礼して七峰君家を出た。


 翌日。私はいつものように歩いていた。

 でも、今日はなんだか足が重い。何でだろう。七峰君と会いたくない。でも、会わなくてはならない。昨日、結局傘を返しそびれてしまったのだ。


「いおりんおはよ!」


 その声に、ビクッと肩を震わせた。会いたくないと思っていたのに、なぜ朝から会わなくてはならないのだろうか。しかも、七峰君は昨日とは全く違う、いつもの笑顔で私のもとに走ってくる。本当に、人の前ではつらそうな顔を見せないんだな。


「おはよう、七峰君」

「昨日はありがとな! マジで」

「あ……うん」


 相変わらずヘラヘラしている。昨日の事を話しても。メンタル強すぎじゃない?


「あっ、そういえば、傘ありがとうね」


 私は昨日返し忘れていた傘を、ようやく返した。七峰君は「おう」と受け取った。


「役にたってよかった」

「役にたったけど……嘘ついてまで貸してくれなくてもよかったのに。一昨日、白石さんが早退した事知ってたんでしょ? 濡れて帰ったから風邪ひいたんでしょ?」

「えっ。未里、早退してたんだ~」


 なに見え見えな嘘ついてるのよ。表情はわかりやすいし、本人達が話してるの聞いちゃったし。

「あはは」と笑う七峰君に対し、私はボソリと「無理しないでよね」と呟いた。すると七峰君は表情を変えずに、「それはどうかな」と言った。




「えー、これから、文化祭実行委員を決めます」


 とある日の担任の口から出た言葉。その言葉に、私は興味を示さなかった。

 だって、面白そうじゃないんだもん。大変そうだし、つまらなそうだし。それは、このクラスの誰もが思っていた。だから、実行委員はなかなか決まらない。先生は、「誰かいないかー」と聞いて誰も手を挙げない現状に、困った顔をする。しょうがない。誰もやりたくないんだから。


「誰かいないのかー」


 沈黙。


「じゃあ、俺が勝手に決めちゃうぞー」


 この言葉に、クラスメートは一斉に肩をビクリとさせた。でも、こうなっても挙手する人はいない。それを見て先生は、クラスを見回した。こういう場合は大抵寝ている人か話を聞いていない人になる。でも、この時間に限ってなぜかそういう人はいなかった。ズルすぎる。

 しばらくして先生は、「じゃあー」と実行委員を決めたような口ぶりをした。皆、先生の次の言葉に集中する。そんな中私は、そんな事しなくてよくない? と思っていた。だから、油断していた。


「遊佐、お願いできるかー?」

「え……」


「何で私なの!」と心の中で叫んだ。実行委員なんて絶対嫌だ。そんなめんどくさい仕事なんて、願い下げだ。


「やってくれないか? 遊佐。お前ならしっかりしててできると思うからさ。他にいねぇからさ。お願いだ」


 ほぼ無理矢理押し付けてる感があるが、こっちもそんなにお願いされたら断れない主義なので、「わ、わかりました……」とオーケーしてしまった。その瞬間、先生もクラスメートも安堵の息を漏らした。私は、大きなため息をついた。


「じゃあ、今日から集まりあるらしいから。よろしくな」

「う。はい……」




 今日から集まりあるとかふざけてるでしょ。と思いながら集まる教室まで足を進めた。はぁ、めんどくさい。何でこんな事に―…


「あれっ、いおりん?」


 聞き慣れた声に振り向く。そこには、やはり七峰君がいた。でも、どうして?


「……もしかして、いおりんも無理矢理実行委員にさせられたパターン?」

「『も』って事は、七峰君も?」

「うん。あんなにお願いされちゃ、断れないもんね」


 私と同じだ。ってゆーか、何で同じってわかったのだろうか。なんだかすごく気になる。


「ねぇ。何で私が自分から立候補してないってわかったの?」

「え? あぁ。いおりんはめんどくさがりだから、やりたがらないだろうなーって思って。でもやってるって事は、押し付けられたんだろうなーって」


 見透かされてる。この短い間で、私の事をこんなに知られていたんだ。そう思うと、なんだか恥ずかしくなってきた。顔が熱い。恐らく七峰君もそれに気づいた様子で、私に問いかけた。


「いおりん? どうしたの? 顔赤いよ?」


 そう言って、他人がいる中で額に手をあてようとする七峰君。それはもっと恥ずかしいので、私は必死で話を逸らそうとした。


「だっ、大丈夫だから! あっ、集まり始まるみたい。早く教室入ろ!」

「うっ、うん?」


 七峰君を無理矢理教室の中に入れて、無事第1回文化祭実行委員会の集まりは終えた。




「はー、終わった」


 私達は第1回目とはかかわらず、最初っからたくさんの仕事をさせられた。何せ、3年生は受験生なので、2年生が主体だからね。


「最初っから疲れたね」

「ホント。これじゃあ家に帰って勉強する暇がないよ」

「あははっ。いおりんは真面目だねぇ」


 2人で会話しながら自分達の教室へ向かう。その時、七峰君と私のクラスより手前にある、とあるクラスで男女がイチャイチャしているのが目に入った。

 私はしばらく見入ってしまった。なんか、凄いなって思って。羨ましく思って。


「……なんかいいよね。あーゆーの」

「……え?」


 不意に漏らした言葉に七峰君は首を傾げる。七峰君には普通の事でも、恋をした事のない私には、キラキラして見えるんだ。


「……どうやったら、あんなに仲良くなれるんだろう。どうやって、2人は付き合うんだろう」

「……どうやるんだろうね」

「七峰君は? 白石さんといつ付き合ったの?」


 そう聞くと、七峰君はなぜか顔を赤くした。


「え、どうしたの?」

「い、いや……思い出すとなんだか恥ずかしくって……」

「ふーん……。じゃあ、告白はどっちから? 勿論七峰君だよね?」


 男からするのが普通でしょう! と思いながら聞く。すると、七峰君は赤い顔のまま「いや……」と否定した。


「俺ができるわけないじゃん……」

「えっ! じゃあ、白石さんにさせたの?」

「いや、それも違うってゆーか……」

「じゃあ、どっちよ」


 そう聞くと、七峰君は少し考えて、「成り行き?」と答えた。


「えっ、成り行きで付き合えるの?」

「付き合えました……」

「どうやって? どうやって?」

「話すと長いけど……聞く? 俺らがどうやって出会って、どうやって付き合ったのか」


 私は少し考えた。考えた末の結論はこうだ。

 聞いてみたい。赤の他人の男女が、どうやって出会って、どうやって付き合ったのかを。七峰君達が、どうやって出会って、どうやって付き合ったのかを。知りたかった。


「……うん。聞く」


 だから、私はこう答えたんだ。

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