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#11

 七峰君に傘を返せずに、放課後になってしまった。

 返せない理由は、今日七峰君は学校に来てないらしいからだ。何せ、風邪を引いたらしく。まぁ、どうせ明日か明後日には来るだろうから、その時に返せばいいだろう。

 荷物を持って教室を出る。すると、誰かに声をかけられた。


「あっ、遊佐さん」


 声のした方向に振り向く。すると、そこには碧波君の姿があった。


「碧波君、どうしたの?」

「遊佐さん、これから翼ん家に行く予定あったりする?」


 私は「ない」と即答した。それに対して碧波君は少し笑って、言葉を続けた。


「そうだよね。お願いなんだけど、もしよかったら、今日翼ん家行ってくれないかな? 俺、これから用事あってさ」

「七峰君家に?」

「そう。プリントとか渡してもらいたいんだけど」


 私が碧波君の代わりに七峰君家に行く? 冗談じゃない。


「嫌だとは思うんだけど、翼可哀想だし」

「白石さんは?」

「勿論頼んでみたんだけど、白石さん、今日部活で休めないらしくって」


 うわぁ……。それはもう、私が行くしかない感じじゃんか……。


「……わかった。私行くよ」


 私の言葉に碧波君は表情を明るくさせ、「ありがとう」と言いプリント類を渡された。




「ここ……かな」


 私は、碧波君に教えてもらった通りに七峰君の家まで歩いてきた。インターホンの隣にある、「七峰」という表札を見てホッとした。あっていたようだ。

 私はインターホンに手をやる。ここで、押す事を躊躇ってしまった。軽く押してしまっていいのだろうか。もし、七峰君の母親が出てしまったら、誤解されないだろうか。いや、べつに誤解される事はしてないから大丈夫だろう。私はプリントを渡しに来ただけなのだから。

 そう心で思っても体は理解できてなくて、インターホンを押す事ができなかった。暫しインターホンの前で自分と格闘していると、誰かに話しかけられた。


「あのー」


 声のした方向に視線を向けると、そこには20歳前後位の背の高い綺麗な女性が立っていた。その女性は、私を不審者を見るような目で見てきた。そりゃそうだろう。

 私が何を言うべきか言葉に迷っていると、その女性は口を開いた。


「あなた、翼ちゃんのお友達?」


「あっ、はい……」と答えながら、内心ホッとしていた。なぜなら、カノジョと間違われなかったからだ。普通の人なら、女の子を見ると「カノジョ?」と聞きたくなるだろう。だから、ホッとしていたのだ。カノジョかと聞かれていたら、たぶん大変な事になっていただろう。でも、なぜ「カノジョ?」ではなく、「お友達?」と聞いたのだろう。カノジョには見えなかったとか? それとも、七峰君にカノジョがいる事を知っていたとか? それに、この女性は七峰君の事を“翼ちゃん“と呼んでいたような……。

 私は耐えきれず、「あなたは誰ですか?」と聞いた。


「あっ、私は翼ちゃんの従姉です! いつも翼ちゃんがお世話になってます」


 そう言って、七峰君の従姉と名乗った女性は頭を下げた。私は何て返していいのかわからず、適当に「はい……」と返した。べつに、それほどお世話になってない気がしたからだ。


「あなたも、翼ちゃんのお見舞いに来たの?」

「はい」


「あなたも」って事は、この人もそうなのだろうか。


「ちょうどよかった! 私、これから外せない用事があって。代わりにこれ、翼ちゃんに届けてくれないかな?」


 そう言って、手に持っていたスーパー袋を目の前で見せた。私はべつに断る理由もなかったので、「いいですよ」とスーパー袋を受け取った。その人は、「ありがとう!」と目を輝かせた。


「家の中には翼ちゃんしかいないと思うから、勝手に入っちゃっていいからね~!」


 小走りで立ち去りながら、その人は私にそう叫んだ。

 にしても、本当に勝手に入っちゃっていいのだろうか。でも、いちいちインターホンを押すのもめんどくさかったので、私は勝手に七峰君の家の中に入った。一応、小声で「お邪魔しまーす」と言っておく。

 家にあがると、まず手前にリビングがあった。でも、そこに七峰君の姿はなかった。リビングの隣は和室だった。しかし、ここにも七峰君の姿はない。1階はすごく静かだったので、1階に七峰君はいなそうだった。

 1階にいないという事は、2階にいるのだろう。私は、和室の隣にある階段を登って2階へ向かった。すると、とある部屋からピコピコと、ゲームをやっているような音が聞こえてきた。その部屋まで足を進める。案の定、その部屋に七峰君の姿があった。ゲーム機を持っている、七峰君の姿が。

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