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#10

 昇降口から見える外の景色を見て、私は「うわぁ……」と声を漏らした。

 だって、雨が降っているんだもん。6時間目の時体育の授業で外に出たけど、その時はまだ降ってなかった。ついさっき降り始めたのだろう。

 この急な雨により、外で活動する部活は急いで荷物を中に入れている。中練になった事によって、廊下は人で溢れていた。すごく大変そう。でも、私は別の意味で大変だ。

 ……傘がない。帰れない。だって、今日の予報は晴れだったんだもん!! 降水確率0%だったんだもん!! この、外れる天気予報め!!!

「はぁ……」と大きくため息をつく。どうしよう。止むまで待つか、それとも鞄を傘代わりにして走って帰るか……。


「いおりん? 何してんの?」


 背後から声をかけられた。いちいち振り向かなくても呼び方で誰だかわかる。


「あれ? 七峰君、先帰ったのかと思った」

「違う違う~。職員室行ってたの」


 私が「ふーん」と言うのと同時に、七峰君は外を見て「うわぁ……」と声を漏らした。


「雨凄いね……」

「うん」

「いおりん、傘持ってる?」


 七峰君の質問に、「ううん」と答えた。七峰君は持っているのだろうか。見たところ、持ってなさそう。


「俺は持ってんだー!」


 そう言って、七峰君は鞄の中から折り畳み傘を取り出した。折り畳み傘……入れ忘れた。

 私は、ここですごく嫌な予感がした。七峰君は傘を持っていて、私は持っていない。これは……「一緒に入って帰ろう」って言われるやつだ。絶対そうだ! 七峰君と相合い傘なんて嫌だ!


「じゃ、いおりんはこれ使って帰って」


 七峰君の予想外な言葉に、私は「へっ?」と抜けた声を出してしまった。意外。絶対一緒に入ろうって言われると思ったのに。決して期待はしてないけど。


「借りていいの?」

「おう! だっていおりん、俺と相合い傘嫌だろ?」


 私が頷く前に、七峰君は「それともしたい?」と聞いてきた。


「カノジョとしてください」

「うん! そうする! だから、いおりんはこれ使って!」


 そう言って、七峰君は私に傘を差し出した。本当に借りるべきか一瞬迷ったが、七峰君もそう言ってくれてるんだし、借りる事にした。


「ありがと。じゃあ借りるね。カノジョとの時間を楽しんでね」


 七峰君にそう告げると、七峰君から「……うん」と返ってきた。なんか間があった気がしたけど、気のせいだと思い昇降口を出た。




 翌日。私はいつも通り登校していた。

 昨日七峰君に借りた傘を返さなくては。でも、朝はやめておこう。周りに女子達がたくさんいるからね。

 A組、B組と通り越してC組の教室へ向かう途中、廊下に出ていた白石さんとすれ違った。べつに友達でもないので、何も言わずに横を通りすぎる。その時、白石さんと白石さんの友達と思われる長髪の彼女の会話が聞こえてきた。


「未里、昨日は大丈夫だった?」


 長髪の彼女が白石さんに問う。白石さんは「大丈夫だよ」と答える。

 どういう事だろうか。白石さんの身に、昨日何かあったのだろうか。ちょっと興味深い話だったので、ゆっくり歩く事にした。


「もう、ビックリしたよー、急に早退なんて。購買で買ったパンがマズかったのかな?」

「ごめんね、心配かけて」

「まぁ、一番心配してたのは七峰君だけどね」


 白石さんが「えー、恥ずかしい」と言ってその会話は終わった。私は、足取りをいつもの速さに戻し、教室に入った。状況を整理する。

 白石さんはおそらく午後に体調不良の為早退した。そして、その直後に雨が降り始めた。傘を持っていない私の元に傘を持っている七峰君が現れた。傘を持っていない私に、七峰君は傘を貸してくれた。「カノジョの傘に入って帰るから」と。でも、カノジョの白石さんは既に早退しており、この学校にはいなかった。つまり――七峰君は、雨に濡れて帰った……? いや、それは考えすぎかも。他の七峰君の友達に借りたのかもしれないし、七峰君は雨が止んでから帰ったのかもしれないし。もしそうだとしたら――雨が止んだのは、私が家に着いてから1時間以上後。そんなに待ってるとは思えない。七峰君の友達だって、碧波君はバスケ部で帰るのは遅いらしいし、碧波君じゃない他の七峰君の友達は七峰君に傘を貸したら自分の分がなくなっちゃうし。この事から考えられる結論はただひとつ。――七峰君は、雨に濡れて帰ったんだ。


「……私、悪い事した気分だな」


 ポツリ、と呟いた。

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