会頭
その学校は青空の下、満開の桜に囲まれて入学式を行うことで有名だった。この年は豪雨に見舞われ、新入生は体育館に立たされていた。皆、新品の学生服から水を滴らせながら下を向いていた。入学式は特に盛り上がることなく終わった。
新入生は教室に入ると自分の席を確認し、すぐにあたりを見回し始めた。同じ中学の友人に声をかける者、全く新しい友達を作っている者がいた。
「中学から遠くないし、難関校でもないのに……」
科学 進 は絶望していた。そして教師が教室に入ってきて、ホームルームを開始するまでの時間を彼は一人で過ごした。
「皆さん入学おめでとうございます。初めまして、私が一年間君たちの担任を務める井出です」
生徒の誰よりも小さい身長から、教室の隅々まで響く声がでた。井出先生の挨拶はそれだけだった。静まり返った教室で、必要なことを最小限の言葉で伝えると、書類を配って次には「また明日」と教室を去って行った。ようやく生徒が一人立ち上がったのはそれから3分後のことだった。当然ホームルームは学年で一番早く終わったので、特に待ち人の居ない進は誰とも話すことなく学校を後にした。
高校デビューとはよく言ったものだ、朝から変わらず吹き付ける強い雨の中、進の胸中は穏やかではなかった。
「今日は誰とも話せなかったな。運が悪い」
友人が一人もいない焦りは、自宅に到着する頃にはやり場のない怒りに変わっていた。
「お帰り、高校どうだった」
まだ靴も脱ぎ終えないうちに、母親の質問が飛んできた。
「凄い雨だね、せっかくの入学式なのに残念」
進の体はずぶぬれで、靴を脱ぐのに手間取る。
「あんた、友達出来たのかい。中学の知り合い誰かいたっけ」
「風呂、沸いてるよね」
進は母の質問に答えることはせず、鞄を抱えたまま洗面所に向かった。
「良く分かってるなぁ……」
まだ昼過ぎだというのに、進は帰宅してすぐに湯船で身体を温めることができていた。目を閉じて身を任せると、進は自らの焦りと怒りを整理するのに、随分と長風呂をした。
結局、もやもやを払拭することはできず、高校生活初日から中学で最も仲の良かった友人に電話をかけた。




