彼女は断固として立ち入らず
「ここが例の墓だな」
と、いってもここら辺にある墓場なんて限られている。俺の家の墓は別だが。
「豆田さんの墓の場所は覚えてある。とりあえず行こうか」
「行かない」
「…………」
「……君だけで行きたまえ」
いやいや。
「俺だけが行ってもなんも出来ねぇよ」
「今回は追い払えばそれで終い。私の手を煩わせる必要はない」
「行くぞ」
「行かない」
「……どうしてもか」
「どうしても、だ」
いつにも増して頑なだ。今日は無理そうである。溜息をつく。
「わかった、行ってくる。墓磨きがいなかったら何かする事はあるか?」
「墓にコレを貼ってくれ」
渡されたのは一枚のお札。
「墓磨きが来ればコレを剥がす。そうすれば私のスマホに位置情報が発信される仕組みだ」
「なるほど……え? 札というより機械じゃない?」
「札はカモフラージュだ。ただの紙だと普通の人に外されかねない」
「まあ、確かにコレを剥がそうとは思わないわな」
「そういう事だ。早く行きたまえ」
*
結論から言うと墓磨きはいなかった。一つだけ異様に綺麗な墓にお札を貼っただけである。
墓地の入口に行くとひとねが自身の指を見つめて顔をしかめていた。
「どうした眉間がシワシワだぞ」
「雑草で指を切った」
見ると人差し指が綺麗に切れている。血は出ているがそれほどでもない。
「カバンに絆創膏があったはず……貼ってやるから手を洗ってこい」
「何処で」
「墓地に水道があった。そこで洗ってこい」
「……じゃあいい」
「え?」
「ならば処置は要らないと言ったんだ。唾でもつければ治る」
「はあ……」
俺が言い返す前に踵を返して歩き出す。
思ったより強情だな、こいつ。