不死鳥の怪綺譚
「先に言っておくけど、簡単に解決できる後悔は持ち合わせていないよ」
「だろうな、覚悟の上だ」
俺はひとねを真っ直ぐと見つめる。
ひとねは俺からの視線を少し避け、ため息と共に遠くを見る。
「これから語るのは昔の話、私が怪奇探偵どころか怪奇現象すら知らなかった頃の話……ま、簡潔にいこう」
*
「きっかけも理由も忘れた。今思えばそれくらいの事だったのだろう。ともかく私は母親と喧嘩した。喧嘩をして家出したんだ。
行くあても無くフラフラとふらついて……車に轢かれた」
「…………」
俺は言葉を出さない。話すのは全て聞き終えてからだ。
「酷い怪我だった。ひき逃げしていく車と自身の血を見ながら死を悟ったほどだよ。
薄れゆく意識の中、死の直前、私は後悔した」
『こんな事になるなら素直に謝っておけばよかった』
「その時不死鳥に出会って一命を取り留めた。それでも怪我は治らない、とりあえず安静にしようと彷徨った末にたどり着いたのが……」
ひとねは言葉を切り、地面を指す。
「この地下図書館だ」
*
「此処には多少の非常食もあり、ある程度動けるようになるまで私は此処に篭った。外に出たのは三日後だったかな……当然頭も冷えていたから家に帰る事にした。まだ動きにくい足を引きずり、休みながら数時間かけて歩いた。そしてたどり着いた時……」
ここでひとねは言葉を詰まらせる。
俺が持ってきたクッキーを一口、そして紅茶を飲み干す。
「家は無くなっていた。ああ、怪奇現象なんかじゃない。
火事、放火というやつだ。周りも巻き込んで跡形も無くなっていた。
全て燃えた……お母さんも含めて」
「…………」
「母はもうこの世にいない。逢えない人に謝りたい、そんな未練が晴らされる言はないのさ」
これで終わり、と言うようにひとねは空のカップを俺に寄越す。
「喋ったら喉が渇いた。水を入れてくれ」




