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怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚  作者: ナガカタサンゴウ
藤宮ひとねの怪綺譚
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漠の恩返し

『彼女の中に、不死鳥はもういない』

「……え?」

 画面の中のトシの言葉を飲み込む前に、彼は話を続ける。

『そもそも不死鳥については情報が少なかった。ただ『後悔したまま死にゆく人の命を救い、不老不死にする』それしかわかっていなかったのだよ』

 トシはズレたシルクハットを被り直す。

『しかし此度の収集によって新たな情報を得られた。基本は変わらない、しかし重要な事だ。

  不死鳥が不老不死にするのは一時的、その身体が万全な状態になった時点で不死鳥は離れていく』

 万全な状態。恐らくひとねがちゃんと歩けるようになった頃に不死鳥は離れていったのだろう。

『今回判明した不死鳥の情報はあのUSBには入れていない。この情報を教えたところで根本的な解決にはならないからね』

「……?」

『ま、ワタシがお節介を焼くのはここまでだ。この情報を教えるかどうかはキミが決めたまえ』

「…………?」

『さっきも言ったがこの動画は自動的に削除される。聞き逃したなら終わる前に巻き戻す事だ』

 数秒の間の後、トシは小さく笑う。

『では、健闘を祈る』


 *


 トシの動画を見てから一週間が過ぎた。そろそろアクションを起こさなければ。

「ごちそうさま」

 ひとねが晩飯を平らげたのを見て皿を洗い場に置く。汚れが乾かないように水をかけ、食後の茶を飲むひとねの向かいに座る。

「……何か言いたげだね」

「わかるか?」

「挙動不審にも程があるよ。遠慮せずにいいなよ」

「……ひとね、不死鳥ってなんなんだ」

「怪奇現象だよ。……物理法則で説明しろって話じゃないよね」

 ああ、そうだ。こんな大事なことを濁していうのは失礼だ。

 ならば、直球に。

「ひとね、お前はなんで不死鳥に取り憑かれたんだ?」


 *


「その聞き方と言うことは、ある程度不死鳥については知ったようだね。あのエセ英国紳士か」

「まあ、そんなところだ。でも曖昧な知識だ。一応教えてくれ」

 ひとねは一度目を閉じ、何かを決心したような目つきになる。

「不死鳥というのは『後悔したまま死にゆく人の命を救い、不老不死にする』怪奇現象だ。情報はこれだけだが、取り憑いた原因がはっきりしているならそれを取り除けば不死鳥は離れるだろう」

「ああ、なるほど」

 続く言葉を俺は心の中で止める。トシが伝えなかった訳がようやくわかった。


 不死鳥を離すには後悔の解消が必要。ひとねはそう『勘違い』しているのだ。


 不死鳥がもうひとねの中にはいない事、それを伝えるのは簡単だろう。

 しかし、ひとねが不死鳥をそう理解し、未だ身体の中にいると思っているなら……


 ひとねは未だ、何か後悔をしている。


 不死鳥がいないと知ったところで後悔はなくならない。でも、後悔を無くす動機は失われてしまう。

 ならば後悔を無くしてから、ソレを知れば良いのではないか。トシはそう考えたのだろう。

 ならば俺はひとねを欺き、その後悔を無くしたい。ひとねの為とかそういう事ではなく、俺がそうしたい。

 これは、俺の自分勝手な恩返しだ。


 だから俺は聞かなければいけない。

「藤宮ひとね、お前の後悔はなんだ?」


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