二つの未練は同一である
翌日、地下図書館の階段を降りているとトシさんと出会った。
「やあ、助手クン。キミも今来たとこかね?」
トシさんを見て一つ疑問を思い出す。
「そういえばこの地下図書館、迷い家に求められてない人にはどう見えるんですか?」
「求められてない人に扉は開かれない。そう説明した筈だよ。キミは忘れはしないだろう?」
「いや、そうではなくて」
もっと根本的な話である。
「この地下を掘った時、どう見えるのかな、と」
「ああ、そういう事かね」
トシさんは持っていた本を戻し、杖をついて歩き出す。
「空洞さ。なぜかぽっかりと開いた謎の空間に見えるだろうね。人工でない洞窟なんかは実は怪奇現象だったりするかもしれないよ」
ひとねの部屋の目の前につく。トシさんが杖でノックすると中から素っ気ない返事が返ってきた。
「どうかね探偵クン。未練の推理は出来たかな?」
「そんな簡単に出来るわけないだろう。そもそも私は怪奇探偵専門だ」
ひとねは情報を書き込んだメモ帳をパラパラとめくる。
「とりあえず今回の事件を整理しよう。見つけるべきは彼、中本トシの未練だ。
それは彼の死から今現在に渡るまで叶えられない未練ではない。
彼は思い出の場所を巡り、妻の墓も参った。しかし彼が未練を抱きそうなもの、それは『家族』か『怪奇現象』だろう」
ひとねは一旦口を止め俺の方を指す。
「健斗、君はどう思う。完璧でなくてもいい。ともかく君からの視点をくれ」
「そうだな……」
情報が少ないのもあるが彼の事で目立つのはひとねが言った通り二つ『怪奇現象の収集家』と『彼の奥さん』だ。
「トシさん、収集できてない怪奇現象があって、それを解き明かしたいって事は無いですか?」
「確かにそれはワタシも考えた。情報収集中の怪奇現象はいくつもあったからね。でもこの長い月日でソレは解き明かした」
「では新しく見つけた怪奇現象で収集できてないものは?」
「あるにはあるさ。でもそれは死んだ後、死ぬ前の未練にはカウントされない。そもそも怪奇現象を全て解き明かせるなんて思っていないからね」
確かに迷い家の話でも似たような事を言っていた。
怪奇現象は違う。ならばもう一つ。しかし奥さんはトシさんが死んだ少し後に亡くなっている。
「奥さん……じゃなくて奥さんとトシさんの住む家に帰りたかったんじゃないですか」
「へえ『人』じゃなくて『家』か」
黙っていたひとねがメモ帳から顔を話す。少しの間手を捏ね、何かに気づいたように首を振る。
「いや、ダメだ。もしそうだとしても家が取り壊された時点で実行は不可能、虚構によって未練は晴らされる」
「ダメかぁ」
これ以上は浮かばない。カーペットの上に寝転がってどうしようもない事をつぶやく。
「あーあ、家が残ってたらそれで成立だったんだけどなぁ」
「そんな元も子もない事を言って……も……」
ひとねはそこまで言って固まる。俺たち二人の視線を受け、ようやく動き出す。
「いや、そうだ。家があればいいんだ」
立ち上がってうなじを向けてくる。髪を纏めろという合図。つまり……
「どこか行くのか?」
「ああ、一つ可能性が浮かんだ。その検証をしにいこう」
*
「なあ、何処にいくんだ?」
電車の中でひとねに尋ねる。トシは食べたいものがあると言ってついてこなかった。
「彼の家があるかもしれない場所」
「いやいや、彼処はもう空き地になってただろ?」
「だから、空き地になった筈の家が残っていれば成立するんだよ」
「……?」
「ま、これは可能性の一つ。間違いである確率はそこそこにある。とりあえず向かおうじゃないか」
「ここは……」
「ああ、ここは昨日来た彼の奥さんが住んでいた家、その空き地だ」
「やっぱり空き地じゃねぇか」
「健斗、ここはどうして空き地なんだった?」
「確かここは地盤か緩いからとか」
「しかし取り壊されるまでここには家があった。なのに建物を建てれる場所ではないという。
ハウダニット。それはなぜ、どのようにして起こったのだろう」
「え? そりゃあ地下水とか?」
「ここだけ? 両隣には立派な高層ビル。だというのにこのスペースだけ普通の建物が建てられない?」
「それは……おかしいな」
「その疑問と彼の未練。その二つを同時に解決する答えが一つある。だから私はそれを可能性として認めた」
「それって……」
ひとねは辺りを見渡し、高層ビルと土地の間にあるマンホールを見つけ、近くに寄る。
「入り口があるとすればここくらいか……開けてごらん」
言われた通りに開ける。その中には水道管……ではなく、部屋が広がっていた。




