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貼り付けられた二つ目の笑顔

 その後トシの思い出の場所を巡ったが大した成果は得られなかった。

 そして最後、奥さんとの家。

「……と、言ってもないんだけどね」

「みたいだな」

 そう、その家はとっくの昔に取り壊されていた。

 両側に高層ビルを携えぽっかりと空いた土地には『空き地』とかかれた古い看板が寂しく風に揺れている。

「ここ、何になるんだろうな」

「売地だからまだ決まってないはずだよ」

「へえ、珍しい」

 もしここが俺たちの住む普通の町ならば違和感のない光景だっただろう。しかしこの隙間のない都会においてこの空き地はやけに目立つ。

 ひとねも疑問を抱いたのだろう。横で工事をしている作業員に目を向ける。

「聞いてきたまえ、ワトソン君」

「……こういう時だけ助手扱いするな」


 *


「ん? あの土地? 知ってはいるけど……何か聞きたい理由でも?」

「あ、いや……」

 まあ、不審に思われるか。

 それらしい言い訳を探していると一歩後ろに下がっていたひとねが横に並ぶ。

「地理の自由研究でして、なんだか気になるなって」

 満面の笑みを浮かべている。しかし本性を知る俺からすれば胡散臭い事この上ない。

 ひとねの笑顔はもっといろんな感情が混じった複雑な笑顔だ。こんな笑顔だけの笑顔は浮かべない。

 そんな虚構な笑顔を信じた作業員は同じく……こちらは本当の笑顔を浮かべて少し待っておくようにと言って現場に入っていった。

「…………」

「どうした? 貢献してやったんだから礼の一つくらいしてもいいだろうに、なぜ私を細い目で見る」

「なんだ今の営業スマイル」

「処世術というやつだよ。若さは武器というやつだ」

 そう言った瞬間、虚構の笑みが顔に張り付く。

「君たちかい? 彼処の事を知りたいってのは」

「はい、気になっちゃいまして」

 さっきの人の上司らしいガタイの良い男な俺たちを連れて例の空き地の前まで移動した。

「ここは昔、一件の家が建っていた。すんでたのは老夫婦……いや、おばあさんだけだったかな? まあともかく普通に人が住む家だったわけだ」

 男は記憶を探るように頭を掻く

「流石に何年前かまでは覚えてないけど……とりあえずそのおばあさんが死んで、その家は取り壊されて空き地になった」

「それからずっと空き地なんですか?」

「ああ、よくわかったね」

「空き地の看板が相当古かった。そこからのよそ……」

 いつものように推理を披露しかけたひとねは男の視線に気づいて顔に笑みを貼り付ける。

「……っていうのをこの前ドラマで見たもので」

「……まあいいや。ここは確かにずっと空き地だった。さて、どうしてだと思う?」

 そこを聞いたというのに……ひとねを推理小説好きだとでも思って演出しているのだろうか。面倒だ。

「幽霊が出るとか?」

「幽霊?」

 ひとねの答えに男は目を丸くした後、小さく笑う。

「ここはいつだって土地不足、幽霊くらいで購入をやめたりはしないさ」

「では、現実的な面で建物を建てられない理由が?」

「ああ、もちろん」

 男は看板に繋がる規制線を越え、中の土に乗る。普通より柔らかいのか靴の半分程が沈む。

「地盤が緩いのか、水道管の通った空間が悪さしているのか。詳しい事はわからないけど、ここの土地は建物の重みに耐えられないらしい」

「もし建てたら……?」

「途中で地盤沈下だろうね」

 男が土から靴を離したところで作業員が声を上げて呼んできた。手を振り返した男は俺たちに笑顔を向ける。

「ま、そういうわけだ。そろそろ戻らないと」

「ありがとうございます」

 男が現場に戻ったのを見て笑みが剥がれ落ちる。

「地盤沈下ね、現実的でつまらない話だった」

「俺はお前の偽の笑顔で楽しめたけどな」

「そうかい、一人でも楽しませたのなら上々だ」

 纏めてもなお長いポニーテールを振り、ひとねは歩き出す。

「次はどこに?」

「帰る。教えられた場所は見たし、情報を纏めよう」


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