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二人の天才に挟まれて

「相応しい人間? それは誰が決めるんだ?」

「フーダニット。それはわからない。迷い家なのか、それとも取り憑かれた家という概念なのか。ワタシ達が知れるのは怪奇現象の一端のみだ、そう……」

「浮遊霊の虚構のように」

 最後の台詞を取られたトシは悲しげに眉を歪める。

「この家も元は地上にあった大きな屋敷さ。迷い家に取り憑かれ、ここに移動した。ま、移動した事なんて誰も気づいていないだろうけどね」

「認識変更か……取り壊されたとでも変えられたのかな」

「ま、そんな所だろう」


「ともかくワタシはこの迷い家を活動拠点にする事にした」

 どうやら今の一言で話が戻ったらしい。頭の回転が早い人に挟まれると処理が追いつかない。


「拠点にすると言っても出られないのならば意味はない。そこでワタシは迷い家の力を弱める事にした」


「物を半分持ち帰った、とかだね」

「おおむね正解だ。ワタシは物ではなく形なき物を持ち帰ったのだ」

 ひとねは顔を動かさず、されど辺りを見渡して口角を上げる。

「知識、だね。だから私も健斗も出入りできている」

「その通りだ探偵クン。しかし人の台詞を取りすぎるというのも良くないぞ」

「私に怪奇事件を持ち込んだのが運のツキだ」

「ううむ……では取られる前に話していくしかあるまいな」

 仕返しなのかひとねの机に腰掛け、口を開きかけたトシを慌てて止める。

「あの! 俺、わかってないんですけど!」

「何処がわからないというのかね、キミぃ」

「知識を持ち帰ったってとこです。ひとねは知らないですけど俺はこの家の知識なんて持ち帰った自覚がないです」

 肩を叩かれ、振り向くとひとねの指が額に刺さった。

「私より君の方が明確に、確実に持ち帰っているよ」

「……はぁ」

「ワタシは迷い家という怪奇現象の知識を収集し、持ち帰った」

 怪奇現象の知識? 俺もソレを……いや、違う。

「俺とひとねは貴方が置いて行った知識。ここにある怪奇現象の知識を持ち帰っていたって事ですか?」

「ああ、その通り。だからキミ達は迷い家から出れた。しかしソレは物を一つ持ち帰ったわけではない。故にキミ達はまたここへと誘われる」

 トシは咳払いをして注目を集める。話が戻るのだろう。


「収集した怪奇現象をここに置いた事でこの家の方針は定まった。この迷い家は『怪奇現象に関わっている者』を招き入れるモノとなった……」


「…………」

「…………」

「……え? 終わり?」

「ああ、終わりだとも」

 いやいやいやいや。

「今のほぼ迷い家の話だったじゃないですか」

「まあ、結果的にはそうだね」

 あっけらかんと言うトシをひとねが睨みつける。

「つまり君の未練についての情報はないも無い、と」

「気づいたら死んでいたのだからね。当然さ」

 ひとねが目をまん丸にして数秒固まる。

「……はぁ〜〜〜〜」

 肺活量五割増しといったくらいに長いため息をつき、フラフラと立ち上がる。

 目の頭を軽くつまみ、まとめていた髪を解放し

「今日はもう帰ってくれ」

 それだけいってベッドに倒れこんだ。


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