客は私たち二人である
地下図書館。それは何処かの地下にあり、怪奇現象を記したモノが揃う謎の図書館。
入り口は様々なところにあるが基本的に閉じており、俺とひとね以外の人が入る事は無いといってもいい。
前例はたった二回。俺に着いてきた少年と狸寝入りに憑かれた幽霊男だけだ。
そんな地下図書館に……とある男がいた。
シルクハットにタキシード。どこか英国紳士を思わせる男がひとねの部屋でパソコンとにらめっこしている。
「ひとね、アレは怪奇現象じゃないのか?」
「単独でここに来たから怪奇現象だと思ったんだけど……どうもソレらしい所が見当たらない」
溜息なのか、覚悟を決めたのか、ともかく長く息を吐いたひとねは扉を勢いよく開ける。
「ここは怪奇探偵の、つまり私の部屋だ。君は誰で何の用でどうやってここに来た!?」
威勢良く叫んではいるが……こりゃあ地味に緊張してるな。いつもは物事を一つ一つ確認するひとねがこのザマだ。
そんなひとねと後ろの俺を見た英国紳士は「ふむ」と顎を撫でてシルクハットを整える。
「質問が多すぎて覚えきれなかったが……私の部屋? キミは今そう言ったね?」
「この地下図書館の住人で怪奇現象専門の探偵。それが私だ。で、こいつは助手の健斗」
ひとねが一歩下り、俺を押す。
「おい、俺だけ名前を公開した上に盾にするな!」
「助手なら身を呈して守ってもいいだろう。私はまだ病み上がりなんだ」
「もう十分に歩けてるだろ、何が病み上がりだ」
「ハハハ、仲が良くて結構。しかし痴話喧嘩は後にしてくれるかな?」
痴話喧嘩ではないのだが……そうだ、言い合いをしている場合ではなかったのだ。
「あの、彼女は確かに頼りなさそうですが……立派な怪奇探偵でここの住人ですよ」
「いや、レディが探偵らしくないから言った訳ではない。彼女がここの住人ではないから疑問に思っただけだ」
その言葉を聞いてひとねが脇から顔を出す。
「……まるで本来の住人を知っているような口ぶりだね」
「うむ、その通り。ワタシはここの主人を知っている」
「へえ、誰だいそれは」
「ワタシだよ」
「……へ?」
男は自身を指している。
「ワタシは中本トシ、怪奇譚の収集を生きがいとする……浮遊霊だ」
「浮遊霊?」
「簡単に言うなら死者の魂。幽体離脱でもその他怪奇現象の類でもなく、普通に死んだ人の魂だ」
「その通り。しかし探偵、探偵か」
中本さんはひとねをまじまじと見て「ふむ」と頷く。
「キミ、どういう事情かは知らないがこの先も此処に住みたいのだろう?」
「ん、まあ……そうだ」
「しかし此処はワタシの所有物……だから取引をしよう。とある事を解明できたらこの地下施設はキミに差し上げよう」
「つまりは探偵業か……内容は?」
中本さんはシルクハットを机に置き、自身の胸に手を当てる。
「ワタシの未練を、推理して欲しい」




