甘味を食べ、また出会う
翌日、例の店。
「うん……いい、いいね!」
テンション高いなぁ……
「そう言ってもらえるとうれしいね。まさか鞄職人だったこの手がヒントになるとは……まあ、ゆっくり食べて行ってください」
そう言って下がっていく店主。俺たちが食べているのは特別スイーツなのだが……
「鞄職人がどうやったら甘味職人に……」
「さあ、それは知らない」
「と、いうかお前もなんだその鞄職人に対する知識は」
「鞄職人時代のあの人の記事を見ていたんだ」
「熱血大陸とかか?」
「ああ……確かそうだったかな。よく覚えている」
俺は少し考えて返答する
「それなら彼の顔も出ていたんじゃないか?」
有名記事『熱血大陸』ならば必ず顔が出ているはずだ。それを見ていたのなら今回の事件は数秒で終わっていた。
「……忘れていただけさ。皆が君みたいに記憶力がいいわけでは無い」
「鞄職人の話は覚えていて、その記事では紹介されていない甘味職人の事が同一人物だと分かったのに、顔は分からないのか?」
それは考えにくい。ひとねが記事を見たとすれば甘味職人になった後の記事だろう。ソレならば鞄職人の事が書いてあっても不思議ではない。
「ひとね、何か隠しているだろ」
視線を合わせる事数秒。ひとねが視線をそらした。
「わかった。別にやましいことじゃないし」
「…………」
「私の父親が鞄職人だった。それだけだ。彼の事は甘味職人になってからしか知らない」
「ひとねの……父さん」
「これ以上隠していることはない。せっかくのスイーツがまずくなっては失礼だ」
この話題は終わりと言う事だろう。ひとねはまた目を輝かせてスイーツを堪能し始めた。
*
「いやあ、美味だった」
地下図書館が近くなってもまだ目を輝かせているひとね。確かに絶品だった。
でも俺の心の中には違うことが、ひとねの事が突き刺さっていた。
俺自身両親とは色々あって一人暮らしをしているから今まで疑問に感じなかったが……ひとねはなぜ一人なんだ?
怪我をして数年動けなかった、それは分かる。でも俺が見つけた時点でソレは理由にならない。
ある程度回復したのならひとねは家に戻るのが普通なのだ。
もし大怪我が誰かによるもので、その人を警戒しているのならこうして外にいるのはおかしい。
ひとねに、ひとねと親の間に何が……
「わぷ……すまん」
思考に集中しすぎてひとねにぶつかってしまった。てかひとねがいきなり止まったのが悪い。
「……誰かいる」
「は?」
この先は地下図書館。先にいるということは前みたいに後をつけられていたということもないだろう。
つかこのパターン。昨日もあった気がする。
「なに? また怪奇現象?」
ひとねは少し迷った様子でゆっくりと口を開いた。
「あれは怪奇現象……いや、でも……人?」
「…………」
なんだそれ。




