対象は乳飲み子
「えっと……じゃあ今日の朝から話をしますね」
因みに今は昼の二時である。腹が減って仕方がない。
ひとねが頷くのを見て女性が口を開く。
「今日の朝……えっと、六時くらいに私は起床しました。その時にはこの子に変化は見られませんでした。
「朝の九時くらいにこの子が起きて泣き出し、ミルクを与えました。
「それからは特に何も無く、正午頃にやけに静かだな、と見に行ったら……」
「赤ちゃんが二人に増えていた、と」
「はい、母親ながら見分ける事も出来なくて……」
「それは当然の事だね。妖怪によるドッペルゲンガーを見分けるのは難しい、それが赤ちゃんならばなおさらだ」
ひとねにしては珍しく気を使っているが……こいつは敬語を知らないのか。
「はい……その、これで全部ですけど」
ひとねは顔を下に向けている。何か考えているようだ。どうも俺から見ても情報が少ないような気がするのだが……
少しするとひとねが顔を上げて女性に質問を始めた。
「……今、赤ん坊はなにが出来る?」
「何が……ですか?」
「歩くとか話すとか」
「そういう事はまだ何もできません。座る事もまだできませんから」
ひとねがため息をつく。
「なるほど……また厄介な」
「手足を動かすのでは判断できないのか?」
「無理だね……とりあえずぺんたちころおやしついて説明しようか。今回の状況も整理しておきたい」
ひとねは立ち上がって得意げに言った。
「お勉強の時間だよ、ワトソン君」
「…………」
誰がワトソンだ、誰が。




