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ううむ……。
なんと面妖なことになったのか。
転生…か。
このセカイにも一応神というものはいる。
まぁ、概念的存在だが、力は持ってるな。
魔法なんて、その最たるもの。
本来の物理法則に従わないその力を大気に放出させてるものこそが神なんだとかなんとか。
俺にはよく分からないがな!
ただ、神は概念存在だから意思は持たないという。
意思を持たない神がおれを転生させる…と。
無いな、うん。
さて、現実を見ようじゃあないか。
今、俺は母親の手のなかで抱っこされていた……!
「メイ、今帰ったぞ」
「あなた。今行きますね」
抱っこされたまま入口へとむかっていく。
そうそう、今更だが俺の母親の名前はメイというらしい。
小柄でおっとりしているが、なかなかに美人だ。
そして、俺の父親。
名はギージというらしい。
鬼牙族としても、かなりの古参らしく、長なんだと。
俺が生前に見てきた鬼牙族と比較しても、その躰の大きさには目を見張るくらいだ。
家は竪穴住居。
といっても大きいけど。
家の大きさだけで人間界の普通の家の二倍はあるからな。
「ご飯はどうしますか?」
「おお、肉が食べたいな」
…うむ。
メイはまさに良妻賢母といった感じだな。
常にギージの半歩後ろをついて行っている。
ちなみにだが、俺はまだメイの腕のなかだ。
……降りたい。
降りたいが、俺はまだ歩けんのだ……。
速く成長をしてほしいものだな……。
―――そんなこんなで二ヵ月たった。
最近はようやくハイハイができるようになり、家のなかを動き回る日が続いている。
メイは俺の好きにさせているようだ。
といっても、必ず目の届く範囲にいるけど。
いい母親だな。
さて、家のなかを捜索中。
……なかなかセンスのいい武器や美術品が転がってるなぁ。
岩を削った棚に、俺がこの体になって初めて見たあの鏡もある。
お、この剣とかいいな。
目についた剣に触ってみる。
…おぉ?
意外とすべすべしてる。
少し持ち上げてみるか。
……重い!
「(て、今更か)」
この赤ん坊の身体で持ち上げられる方がおかしいのだ。
「む、リリー、武器に興味があるのか?」
と、後ろから声がかかった。
ギージだ。
……そう、俺の名前はリリー……。
リリー・リアラ。
く、くそう……。
まさに女の名前ではないか……!
「ふむ、これか」
と、ギージが俺の目の前で先ほどの剣を持ち上げていた。
と、こちらを見ると、
「……持ってみるか?」
「(こくこく)」
全力で首を縦に振った。
「お、そうか!」
彼は嬉しそうに笑うと、俺を持ち上げ、膝の上に座らせた。
「じゃあ、慎重にな」
ゆっくりと柄が下りてくる。
俺はそれに触ると、少し力を入れてみた。
しかし、俺の非力な力では支えていることすらできなかった。
すぐに落下してしまう。
グンッ!
危うく頭にあたり掛けた柄を、ギージはしっかりとつかんでいた。
「はは、お前に剣はまだ早いな!」
「それにリリーは女の子ですよ。剣など持っても意味はないでしょう?」
「それもそうだがな……。何か、この娘には剣が似合うような気がしてな」
笑いながら俺の頭に手を置いて、ガシガシ撫でるギージ。
まぁ、剣が似合うも何も……。
俺、前線で剣ふるっていた人間ですよ?
さらに一カ月たった。
最近気づいたことがある。
今更だが鬼牙族と人間では成長速度が違うらしい。
そもそも、ハイハイし始めたのが生後二か月というのがおかしいのだ。
ウェルスを引き取って子育て、というものを経験した俺だが彼女がハイハイをし始めたのはおよそ生後五、六か月頃だった。
さすがに、体の発育に転生前の意識の有無などは関係あるまい。
なら、鬼牙族は成長が早い種族、ということなのだろうな。
よかった、これならすぐに大きくなれそうだ―――。
大きくなったら何をしようか。
生前の目標であった魔王の撃破だろうか。
…いや、それはどうなのだろうか。
俺は今、魔物だ。
その魔物が魔王に牙をむく、か。
………わからない。
俺はいったい何をしたらいいのだろうか…。
いや。
首を振る(実際にはやろうとしただけに終わったが)。
これから、第二の生をどう生きるか。
それをこれから見つけていくこととしよう。
悩んでも、迷っても前へと進む。
それこそが、”征王”なんだからな――