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***


姫と、師匠の最後の命を決して聞かないだろう二人を引きずって、今まで進んできた道を全力で駆け戻る。

他の騎士たちには、命を破れば私がここで貴様らを殺す、といってある。


少し厳しいだろうが、師匠の行動を無駄にさせるわけにはいかないのだ――。


あの人はもう長くない。

魔王ベルゼブブに毒を受けた。


かの魔王の毒は、半日で骨まで解かす毒といわれている。

それを受けて、なお動ける師匠はさすがの一言にすぎるが……人間である以上、必ず限界というものは訪れる。


客観的に見てた私よりも、師匠の方がそれは分かってるだろう。

だからこそ、私に撤退させるように伝えたのだ。


「―――く、そ……」


……冷静になど考えれるか。

あの人は戦争孤児だった私を拾って育ててくれた。

今までの15年間、ずっと一緒に訓練し、助け、見守ってくれた。


「くそくそくそくそくそぉぉぉ!!!」


親、だったのだ。

私の見た一番かっこいい男で、最強の男だったのだ。


私がもっと強ければ、あの人を救えた。

魔王を斃せるくらい強ければ――。


「僕たちは、あの人にまだ何の恩返しもしていない……」

チェックがぼそりという。

……あぁ、そんなことわかってるんだよ。

「ただ、逃げているだけだ」

分かっている。

これがまぎれもない敗走だということを。

「僕たちは、もっと強くなければいけない」

私たちは後悔を噛み締めた。


そんな中、アリア姫はずっと”征王”リングスウェイを見ていた。


***



仲間たちは安全圏に逃げることができたようだ。

「俺の勝ちだ、ベルゼブブ」

勝手に定めた、俺の勝利条件は仲間を逃がすこと。

なればこそ、――俺の勝ちだ。


「……あぁ、良き生であった」

八歳で聖剣”不滅の刃(デュランダル)”を手にし、四十年がたった。

愚直な青年はいつの間にか”征王”と呼ばれる男になり、息子、娘とも呼べる弟子たちもとった。

よく戦い、良く生き、よく楽しんだ。

敵を殺すこともあれば、見逃すこともあった。

味方に殴られたこともあったし、喧嘩したこともあった。


「しかし――」

しかし、一つ後悔があるとすれば。

結局、争いをなくすことができなかった、これだけが心残りだ……。


この子供の夢こそが、俺が剣を手に取った理由なのだから――――――





***


「……ジー君。かえろうかー」

「…は」

主君、ベルゼブブ様に言われこの場を去る。

かつて”征王”と呼ばれ、我が同朋たる魔物たちを脅かし、そして私自身とも何度も争った男はもういない。


その男だったものは、私の目の前で既に亡骸となっている。

手にした聖剣は朽ちた岩へと姿を変え、その傍らには、彼の愛馬が寄り添っていた。


心に何か引っかかる感覚を覚え、なんとなしにその場にいた鬼牙族(オーガ)の男に命じた。


「貴様。名をなんというか」

「ハ。鬼牙族リアラ村が長、ギージ・リアラであります」

鬼牙族の男らしい、野太い声で私の質問に答えるギージ。


「あー、なんだ、その。こいつを埋葬してやってくれ」

「は、埋葬、でありますか?」

「……いや、私は何を言っているのだろうな。忘れてくれ」


そう言いのこし、去ることとした。




……何故私があの時あんなことを言ったのか、今でもわかってはいない。



***



その日、人類は一人の勇者を喪った。

”征王”リングスウェイ。

数々の魔物を討ち倒し、魔界を征服して、人類の領土を広げた立役者。

そして、敵である魔物にも心を寄せ、まずは対話から入った奇人。


齢48歳にして天寿を全うした、偉大なる勇者であった―――。

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