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”監獄”

ジッコの得意とする闇属性魔法、”影”をさらに応用した魔法で、自らの影なのなかに様々な物体を収納できる空間発生魔法だ。

彼が、魔王から隠密部隊の長に任命されているのは、影での移動、隠密性能はもとより、この”監獄”で大量の戦力を|持ち運べる《 ・ ・ ・ ・ ・ 》からだ。



いま、彼のその魔法によって無数の魔物が出現していた。



これはめんどくさそうだな、まったく。

いかんせん数がある。


思考を戦闘用に切り替えながら(つまり、敵の仲間や妻、子供のことを無視して、ということである)考える。

「……これは姫を救出してさっさと逃げたほうがいいかもなぁ」

「同感です。そもそも、今回は戦うことが目的ではありませんので」


「――では」

「行こうか、我が同胞(はらから)よ!」


追いつき、背後に整列した騎士たちに告げる。

ここからは征王の率いる戦いだと—―!




上がる声を聞きながら先陣切って俺は敵へとむかっていく!



「ぬるい!」

何体めともわからない鬼牙族(オーガ)を切り捨て、小鬼族(ゴブリン)を弾き飛ばす。


後方で魔力を練っているのを視認。

殴りで地面を砕き、発生した礫を敵へと投げつける。

「――む!」

後方から斬撃しようとしている(もの)の流れを”見切って”、大柄な体を生かした回転切りを見舞う。


避けにくい胴を狙った斬撃は、手にした聖剣”不滅の刃(デュランダル)”本体の切れ味も相まってまるでバターの様に両断した。


「死にたければ我が前に出るがいい!死にたくなければ俺の刃の前に立たぬことだ!」


俺も無駄な殺しはしたくない。

味方はもちろん、敵にも家族はいるのだ。

俺は戦争を、殺しを快いと思えるほどの嗜虐思考はしていない。



じりじりと後ずさっていく敵の軍勢。

どれほど数を集めても俺には勝てないと理解したか。


「矛を収めろ!抵抗しなければ我らもまた攻撃はしない!我らの目的は姫の救出のみだ!」


こちらの騎士も負傷者が出ている。

無益な争うは終わりにしたいと思ったのだが……。


「これは我が王が望んだことだ。引き下がるわけにはいかない……!」


やはり、うまくはいかないか……。

ジッコの言葉に再度士気を高めていく。

これではらちが明かないな。


「ウェルス。いいか?」

この問いかけは確認の意味。

「もちろんです、師匠」

返ってきた言葉は肯定の意。


「ならばよし!……シャーリー!!!」

先の戦いで、シリアの結界に守られていたシャーリーが猛然と走り出す。

俺はそれに飛び乗った。


「再度言おう!死にたい奴は前へ出るがいい!」


大柄な俺をのせられるほどの巨躯を誇るシャーリーは全力で走る、それだけで恐ろしい破壊力を誇る。

俺と同じ、2メートルほどの大柄な肉体をもつ鬼牙族ですら止めることはできず、はねられるだけだ。

さらに、戦場に出る、ということでシャーリーには馬鎧を装着させている。

この馬鎧がまた一癖あるもので、腕のいい魔法鍛冶職人によって創られたこの馬鎧は、高い防御力を備えており、さらに軽い魔法なら無効化できる。


「セェェイ!」

そして、馬鎧で防げない規模の攻撃や、俺を直接狙う攻撃などは見切って切り裂き、また無力化する。

「追いついたぞ、ジッコ!」

俺は影馬に牽かれた馬車にたどり着いた。


「リィングスウェイィィィ……!!!」


おや、そんな恨みがましい視線を向けられてもな。

まぁ諦めてくれ。


「ふん!!」

シャーリーから飛び降り、不滅の刃(デュランダル)の一撃で馬車を切り裂く。

その瞬間示し合わせたかのようにアリアの横にウェルスが着地する。


「――ッ?!」

「どうも、アリア姫。お初にお目にかかります」

横薙ぎに一閃された刃は、馬車の屋根部分を弾き飛ばし、中にいるアリア姫の姿を晒した。


「あ、あなたは?!」

む、いけないな。

見た目のせいで随分委縮させてしまったか?

「”征王”リングスウェイといいますが……。まぁ、今はそんなことどうでもいいでしょう……。助けに参りました――っと!」


ガギンッッ!!


甲高い音を立てて金属同士が擦れた。

ジッコの攻撃だ。

まぁ、流石に黙っていないよな。


「……そのお嬢さんは渡してもらうぞ、リングスウェイ」

「だからそれはできんといっているだろうが」

頑固者だな、まったく。

呆れるぞ。


……しかし、こいつは侮れない男だ。

今まで数々の武勲を打ち立ててきた俺と長い付き合い、という時点でこいつの強さが分かるだろうか。

まぁ、恐ろしく厄介だよ、こいつ。


「そして……ここで因縁を果たさせてもらおう」

鎖鎌を構えたジッコが言う。

ふむ。

俺としてもそろそろこいつとの因縁に決着をつけたいのもやまやまだが、此度は逃げに徹するのが作戦だ……。


「さて、アリア姫よ。少々お待ちくだされ」

まぁ、いいだろう。

どちらにせよこの男を斃さなければ姫を安全に救出などできようもない。


「さて……では尋常に――」

勝負――そう言いかけた瞬間


「できるとおもったのかなー?」

「――なに?!」

目の前を高速の斬撃が通り過ぎた!!


「くっっ!」

一条、濃い線が奔っていた。

右目をつぶされたか……。

いやしかし、見切りがなければ、確実に頭蓋を縦に両断されていた……。

「王?!」

「案ずるな、チェック!参謀が慌ててどうする!」

「しかし!」


さらに続けようとするチェックを手で制す。


……しかし、このピリピリとした感じ。

懐かしいな。

これは、絶対的( ・ ・ ・ )支配者( ・ ・ ・ )を前にしたときに感じる生存本能そのものだ。


「あれあれー?!あれ避けるのー!」

声を主を見上げる。

そいつ――否、彼女はそこに浮いていた( ・ ・ ・ ・ ・)


年季の入ったククリナイフを玩具のようにくるくる回す少女。

黒い髪に赤い瞳。

病的に白い肌と、そしてその額に刻まれた()の文様。

「……七大魔王、ベルゼブブ」


間違いない。

俺が過去に数合打ち合った敵にして、結局勝つことはできなかった魔物。

最強の”魔王”。


何故ここに?という疑問を持って見上げていたその視界が、唐突に歪んだ。

「……毒、か」

軽く、誰にも聞こえない程度につぶやく。


自らを見切る必要もない。

この毒は致命的( ・ ・ ・)だ。

もう長くはもたないだろう。


「ウェルス」

「……はい、師匠」

泣きそうな顔でウェルスがおれの命令に答える。

彼女はそのまま、横のアリアを担ぐ。


……月狼族は鋭敏な嗅覚、聴力を持つ種族だ。

誰にも聞こえないと持っていた先ほどの俺のつぶやきも聞こえていたのだろう。

そして、その優れた嗅覚で俺の死の気配も感じ取ったか。


「ベルゼブブ様、申し訳ありません!」

……これはまた珍しいものを見たものだ。

基本ぼそぼそとしゃべるジッコがあんなはっきり喋っている光景を目にしようとは。


「んー、いいよー。ぼくがやりたかったのはこの男の始末だしねー」

「は?ということは十王の娘を囮に……?」

「うん。ぼく頭いいでしょー」


なるほど。

俺たちはまんまと嵌められたわけだ。

いや、どちらにせよ十王の娘が攫われたのなら俺たちは同じ行動をしていただろうから、自分から罠にはまりに行ったようなものだな。


「ベルゼブブ。”征王”がこの程度で倒れると思ったか?」


しかし、俺もただ罠にはまってはいそうですか、と死ねるわけもない。

「んー?でももう君死ぬでしょー?」

「呵々!甘い、甘いぞベルゼブブ!!」


言いながら視線でウェルスにアイコンタクトを送る。

彼女は泣きそうな顔のままうなずいた。


……よし。

流石は我が弟子だ。


「んじゃー、あの譲さんももういらないしー?さっさとかたづけちゃおうかー」

にへらー、と力の抜けきった笑みを浮かべるベルゼブブ。

さて。

こいつは少しばかり人類を甘く見過ぎだな。

お灸を添えてやらねばなるまいよ。


「わが生涯最後の大仕事だ!!括目せよ!!」


毒を受け、弱っていく体に鞭を撃ち地面を駆ける!

「な、王!自殺行為です!お戻りくだ―――?!」

「な、なにをする、ウェルス!」

俺の後を追おうとするチェックとシリアを引きずり、アリア姫を担いだウェルスが、俺と反対方向に走っていく。

そうだ、それでいい。


「我等が王の通達だ!……”すべての騎士はここより去れ!この場所を我が死に場所とする”」



「……また性懲りもなく。どうしますか、ベルゼブブ様。奴らを追いますか?」

「えー、もちろんー。ぼくの姿を見たやつをこれ以上増やすわけにはいかないよねー」

「ハッ、仰せのままに」


むかう俺を障害とも考えていないのだろう、俺を無視して通り過ぎようとするジッコに――。

「おいおい、忘れ物だぜ?ジッコぉ!」

「――な?!」

斬撃のプレゼントだ!


とっさに防御したのだろうが、如何せん膂力の差がある。

なぜなら、俺は攻撃するために地面を一歩一歩踏みしめながら走っていたのに対して、ジッコはただ速く駆けるために軽く跳ぶように走っていた。


そこに俺の流れを差し込むことなんて簡単すぎる。


「……貴様、リングスウェイ……」

「そこのちびっこも降りて来な!」

ベルゼブブにも声をかける。


「……ぼくをちびっこ呼ばわりってことはー、死ぬ気があるんだねー?」

「っは、毒塗りのナイフで攻撃しておいてよく言うなぁ、おい!」


後方、まだ見えるところに同朋はいる。


「そっかー。……じゃあしんでよ」

まるで、瞬間移動のような速度でベルゼブブが動く。

しかし、瞬間移動のように( ・ ・ ・ )で分かるようにこいつの場合、ただ単に速いだけなのである。


「ッフ――!」

冗談みたいな速度の斬撃を見切り、躱しては受け止め。弾き返すことを繰り返す――がしかし。


俺にも限界が訪れた。


「ぐ、がは……」

……認めよう。

毒のせいで俺はもうほとんど動けないだろう。


後ろを振り返る。

同胞たちははるか後ろに、霞んで見えた。



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