5:夏希と少年と…隠れた少女
更新が遅くなってすみません。だんだん更新が遅くなってしまっていますが、待っていただけると嬉しいです。
今日ある、授業参観の科目は、算数だ。
この授業参観、波乱になるとは、千夏はもちろん、誰も知らない。
さて、千夏は今、授業参観どころではなかった。
和也の話が気になりすぎて、授業に身が入らない。それが、今の千夏の現状だった。
あいつ……なんなのよ……
千夏はそう思いながらも、次々と問題を解いていく。
さすがというほどだった。
後ろに親がいる、ということだからなのか、生徒たちも積極的だった。
くだらない。
目を向けてはそう思うだけだった。
☆
さて……ここには1人、こそこそと隠れながら授業参観を見ている者がいた。
誰だ……と聞きたいところだが、答えを言わせてもらおう。
夏希だ。千夏の授業参観に来て、千夏にバレないかと、そわそわしてるのだった。
大丈夫かしら、大丈夫よね、大丈夫のはずよね……
そんな言葉を繰り返しながらも、授業参観を見る。
夏希の今の格好は、サングラスに帽子、男っぽくズボン等々を来ている。
男っぽくしているからか、千夏にはばれていないようだ。
夏希は千夏を愛おしそうに見つめる。
その姿を見ていた少年が一人、そこにいた。
☆
和也は、ある男性らしき人を見ていた。
ジッと見て、目線や仕草を確認し、特定する。
女性と。
ニヤリといたずらっ子のように、和也は笑って何かを考えていた。
その時、チャイムが鳴り、号令をする。
もうすぐ……どうなるんだろ…
そう思いながら号令を済ましていた。
後ろにいた、親たちが廊下へと、出ていく。
和也は、それを追いかけるように、廊下へ出た。他の児童もちらほら外へ出て、親と話している。
不自然ではなかった。
そうして、ジッと見ていた、女性のところへ向かった。
☆
ふぅ……千夏にはバレてない…わよね?
そう考えながら、靴箱までの廊下の道を歩いていた。
バレていたらどうしよう、変装したから大丈夫かしら……
と、考え続けていると、
「すみません!」
と誰かが声をかける。
振り返ると、1人の少年がいた。
「えっと…わた…俺……だよね?」
私と言いそうになってしまった、危ない危ない
と思いながら、少年を見ると、千夏と同じクラスの人だと思い出した。
少年は、不意にニヤリと笑ったような気がしたが、気にしないでおこうと思ったところを少年の一言で打ち消す。
「男性の真似はしなくて大丈夫ですよ?弁護士の盛山夏希さん?」
「!」
夏希は一瞬驚いて、少年を見る。
そう。夏希は弁護士だった。それも、超プロ級の。
そんな、夏希の驚いた表情はすぐに戻って、質問を少年に問う。
「どうして、わかったの?……と聞きたいところだけど、あえて聞かずに、名前でも聞こうかしら?」
と、少年を見据えて、言った。
「僕の……いや、俺の名前は、桐谷和也。貴方のお子さんのクラスメイトです」
ニコッと笑って、和也は言った。
「へぇ、ま、いいけど、何か御用?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりの笑みで和也は告げる。
「お子さんに、嫌われてるようですね」
少し嫌味ったらしさを入れて言った。
その言葉に反応した夏希は、目を細めて問う。
「貴方……何をしたいの?」
探りを入れるように。尚かつ、怒りも込めて。夏希は言った。
「あまり、怒らないで下さい。俺は話がしたいだけなんですよ。…まあ、嫌われてるのは、矛盾が原因ですがね」
フッと笑って、夏希を見た。
「……貴方…どういうつもり?」
目を細めたまま、夏希は聞く。先程と同じように、探りを入れるように。
「どういうつもりもこういうつもりもありませんよ?友達を増やしたいってだけなのに、盛山さんは、スルーばかり。俺も傷ついてるんですけどねぇ」
和也は腕を組みながら、困ったような顔で言った。だが、夏希には通用しないようだ。
「ウソは嫌いよ」
冷たく、そしてまた、冷たい目で、夏希は言った。
和也は一瞬驚いて、あーあと口を開いた。
「まぁ、友達を増やしたいのは、半分本当ですよ、そうですねぇ、半分は利用するため、みたいな感じです。さて、次はこちらが質問です」
夏希は質問を予想するため、頭を働かせる。
「なにかしら?」
そう言いながら。
「盛山さんとは、一定の距離以上、近づいていないように、見えました。それは、なぜですか?」
予想と似たような質問だった。
愚問だ。好きで近づいてないわけじゃない。これは『罪』だ。自分自身への。
「……そうね、自分が『怖い』から…かしら」
本当の気持ちでもあった。また、『あの時』のようになってはいけない。思い出させてはいけない。そう強く思いながら言う、夏希。
「……そうですか、まぁ、知りたかったことは大体わかったので、俺はこれで。では」
ペコリと礼をして、和也は教室へ戻って行った。
「……私は何をしてるのかしら……」
距離を取らないといけないといいながら。
距離を取れない私。
自分自身の『罪』といいながら。
己の罪を忘れようとしてる私。
自分でもわからない、矛盾した答え。
「ハァ……」
帰ろう…
夏希はそう思いながら、帰路へと着いて行った。
出て行きたくても出ていけなかった少女が1人、目をつむって隠れていた。
誤字、脱字は言っていただけると嬉しいです。