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逆ハーエンドのその後で

乙女ゲームからの解放

作者: 風花

後書きまで、お読みいただけると嬉しいです。

 夏を過ぎ、秋の気配を感じる晴れた日の昼休み、友人達と談笑している月城涼華の前に現れた男子生徒は、隣に女子生徒を連れていた。

 ざわめくクラスメイト。

 月城涼華は、ツキリと痛む胸を隠し微笑みかける。

「龍治様、わざわざ教室までいらっしゃるなんて、何かありましたか?」

「涼華。…君との婚約を解消したい」

 婚約者の四宮龍治が言った。


「四宮様!?」

 友人が悲鳴染みた声を上げ、クラスメイトの気遣わしげな視線が注がれる。

「俺は愛華が好きだ」

「龍治君…」

 四宮を見上げ、顔を赤らめ嬉しげに微笑む女子生徒に、クラス中が殺気立った視線を向けた。

「…愛華に手を出す事は許さない」

 クラスメイトを牽制した四宮は、月城にその強い眼差しを向けた。

 小さく溜め息をつく、

「分かりました。…元々親の決めた婚約ですもの。龍治様に、好きな方ができたのなら仕方ありませんわ」

「涼華ちゃん!?」

「月城さん、何を言っているの!?」

 友人が信じられないと目で訴えてくる。クラスメイトも戸惑いを隠せない。

 でも、どうしようもないのだ、月城と四宮はただの婚約者だから。

 幼馴染みではあるが、それ以上の関係ではない。

 四宮に思う相手ができたのなら、繋ぎ止める資格も、心変りを詰る権利もない。

「………すまない」

「いいえ。

………ただ、一つだけ答えていただけますか?」

とある噂を聞いてからずっと思っていた。これだけは、二人に聞いておかなければいけないと思っていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「愛華。行くぞ」

「愛華さん、行きましょう」

「愛華ちゃん、一緒に行こう」

「愛華…」

 終業式の後、姫野愛華はイケメン達に囲まれ、愛を請われていた。

 姫野は満足していた。

 姫野は前世の記憶を持つ転生者だった。

 だから、気付いた。

 だから、知っていた。

 ここが『恋花~君は僕のために花開く~』という乙女ゲームの世界だという事を。

 『恋花』は百花繚乱学園に入学したヒロイン姫野愛華が、学園のアイドルであるイケメン達と出会い、イベントをこなしながら愛を育み、恋花を交わし永遠の愛を誓うというオーソドックスな乙女ゲームだった。

 終業式終了後、一番好感度の高い相手とエンディングを向かえる。エンディングは攻略対象者とのハッピーエンドとノーマルエンド。好感度が低い場合のサポートキャラと二人で過ごすロンリーエンドにあり、バッドエンドはない。

 『恋花』は、全年齢向けのゲームで、大人の展開は描かれていないが、ランダムイベントも多く、個別ルートに入ると際どい描写のものも多数あり、姫野の前世は、『恋花』をやり込ん一人だった。

 だから私は知っていた。『恋花』は真実の愛をテーマにしたゲームだが、禁断の逆ハーエンドが存在する事を。

 公式で攻略方法が公開されたが難易度が高過ぎて、幻と言われたエンディング。

 ルート確定の為に、鬼畜仕様な発生条件のイベントを、一つのニアミスも許さない鬼畜仕様なスケジュールでこなさなければならない。

 姫野は前世のオタク知識を駆使し、緻密なスケジュールを組み、イベントを完全制覇した。

 そして今、逆ハーエンドを向かえている。

全年齢向けゲームでは語られなかった、攻略対象者達との愛欲の日々が始まる。

 姫野は満足だった。

 これから、複数のイケメン求められ、愛でられる薔薇色の生活が始まるのだ。

 だから、

「みんな、大好き。ずっと一緒にいようね♪」

 攻略対象者達に満面の笑顔で答えた。

 ゲームと全く同じ流れ、展開だった。

 うふふ、リアル世界で逆ハー達成しちゃった。

姫野愛華は、満足だった。



































『…………………………』


































言って(いる)んだ(です)!?」

「………え?」


「…まさか、忘れたのか?」

「え?」

「私に言って下さいましたよね?」

「え、え?」

「約束したよね?」

「え?何を?」

「………」

「???」

 難しい顔で黙り込んでいた恋人達が、急に険しい顔で詰め寄ってきた。

『…………………………』

「ね、ねぇ。みんな、どうしたの?」

「愛華は言ったよな、あの日。涼華の前で、俺を真実愛していると…」

「愛華さんは泣きながら言ってくれましたよね。私を愛しているから諦められない、と」

「愛華ちゃんは言ってくれたよね。僕を真剣に愛しているから、幸せにするから、認めて欲しいって」

「俺を、誰よりも愛していると、言った」

 男達は視線を交わす。

『どういう事だ(です)?』

「え?もちろん全部覚えているわ。私、ちゃんと皆が好きだもの」

 それは、姫野が男達を攻略対象者を落とす為に、

 ライバルを蹴散らす時に言った言葉。

『…………………………』

 男達の視線に嫌悪感が滲む。

 え?何?もしかしてもう修羅場?

 私を共有したくないって?一人占めしたいって?

 駄目よ。私は皆のモノ。

 大丈夫。私は皆が好きだから、どんなに醜く争っても、全て受け止めるわ。

 だから、安心して私を愛してね?

「みんな、大好きだよ。ずっと一緒にいようね」

 姫野は、男達に最高の笑顔を向けた。


『………』


「俺の目は、腐っていたのか」

「私は、何を見ていたのでしょう」

「…僕は、最低だね」

「………」

「もう、さっきから皆どうしたの!?」

 男達の目が、一斉に姫野に向いた。

「君は、最初から一人を選ぶつもりがなかったんですね」

「え?」

「真実に気付かず、盲目だったのは、俺達か」

「『生徒会役員を侍らして女王様気取り』あれは、愚者達の中傷ではなく、気付きもしない私達が愚者だったんですね」

「あの子は、僕達を心配してくれていたのに、真相を探る事もせず、一方的に傷けた」

「………」

「ねぇ、何?皆どうしたの?急に…」

 悔やむように頭を垂れる男達に、手を伸ばす。

 パシッ

「触れるな」

 手を弾かれる。

「なっ!?」

 姫野を見る男達の眼差しは、凍えるような蔑視。

「もう、二度と話し掛けないでくれるかな?」

「同感ですね。」

「次俺達の前に現れたら、容赦しない」

 切り捨てるように告げると、男達は去っていった。

 唖然とするヒロインを残して。

「え?………何?どういう事???」



 ふと、呼ばれたような気がして振り返る。

 夕陽に染まる図書室には、人影一つない。

 一人窓の外眺め溜め息をつく。

「…もう恋花を交わしたのかしら」

 恋花とは、百花繚乱学園の制服の胸元を飾る学園章だ。

 牡丹を象り男子は白、女子は赤。

 月城涼華は、手のひらの赤い学園章を見つめる。

「未練がましくて嫌になる」

 もう、あの人は、来ないのに…。

 組んだ腕の中に顔をふせ、目をつぶる。と、

 カタッ。人の動く気配がした。

「探した。こんなところにいたのか」

 ふいに大きな影に光が遮られ、暖かなものを後頭部に感じた。

 聞こえた声に顔を上げる。

「泣いていたのか…」

 四宮龍治が、机に顔をふせていた私を覆い隠すようにして立っていた。

 頬から目尻へと、四宮の指がすべる。

「龍治様!?」

「すまなかった」

「あ、違うんです。これは…」

「俺は、愚者の恋に溺れ、君を傷つけた」

 四宮の言葉に、月城の目を見開かれた。

 驚く月城に苦く笑った。


「知っていたんだな、皆。姫野の不実さを」

 悲しげな四宮に、月城は慌てて頭を振る。

「姫野さんは、言って下さいましたわ。龍治様を真実愛していると」

 月城は姫野の噂を聞いていた、だから二人に問うたのだ。

『お二人にとって、お互いが唯一無二の相手ですか?愛を誓えますか?』と。

 四宮は、月城を見つめると続けた。

「あの日、涼華が何故そんな事を問うのかと思った。当たり前の事を、と」

月城は四宮に、小さく笑った。

「噂は噂ですから。姫野さんが、龍治様の事を愛しているのなら、私はそれで良かったのです」

四宮が辛そうに月城を見つめる。

「ありがとう。…でも、姫野のは、愛ではなかった 」

「え?」

「終業式の後、姫野との約束の場所に行くと、

何故か、二階堂達がいた。

俺が場所を移そうしたら、姫野が言ったんだ。

皆が好きだと、一緒にいようと、笑って言った」

「………」

「目の前にするまで気付かなかった。

俺は、愚かだ。」

「龍治様…」

 固く目をつぶる四宮に、胸が痛む。

 視界が歪む。

「………………」

「涼華。俺に、こんなこと願う資格がないのは分かっているが、一度だけやり直す機会が欲しい。

君に、俺の傍にいて欲しいんだ」

「…え?」

「都合のいい願いなのは承知している。色に迷った俺の言葉が信じ難いのも…。

…姫野の笑顔を見て、涼華に隣にいて欲しいと思った。

いつも、隣で笑っていた君に、

俺の為に泣いてくれる君に、傍にいて欲しい」

 四宮の言葉に、涙が溢れる。

「…龍治様。私は子供のころから龍治様をお慕いしていました。だから、親に決められた、仮初めの婚約者でも嬉しかった。

…でも、龍治様に幸せになって欲しかったからっ」

「涼華」

 泣き濡れる月城を、四宮が抱きしめる。

「涼華が好きだ。

気付くのが遅くなって、君を泣かせてしまった。

二度と泣かさないと誓う。

必ず、君を幸せにする。だから、傍にいてくれ」

「龍治様。…私も、龍治様が、好き」

 夕陽に染まる図書室で、二人は恋花を交わした。




































《おまけ》

 後日某所にて、人目を避ける怪しげな女性の姿があった。

「ちょっと~!攻略対象者が、全員ライバルと寄りを戻すってどういう事なワケ!?

何で、逆ハーエンドなのに、私が学園追放されるのよ!?

その上追っ手まで付くって、私の酒池肉林なハッピーライフはどうなったのよ~!?」

 …エンディング後、攻略対象者に接触し、学園追放処分になった姫野愛華である。

 只今、国外脱出を計画中。

 彼女の事、きっといつか力業で幸せを掴むことでしょう。

 但し、ここが全年齢対象の乙女ゲームの世界という事を、決して忘れてはいけません。



 ………逆ハーエンドは、バッドエンドです。

「ええ~!?」

『恋花~君は僕のために花開く~』


★登場人物


月城涼華

ライバル役のお嬢様

生徒会長の婚約者。


四宮龍治

生徒会長


姫野愛華

乙女ゲームのヒロイン

逆ハー目当ての転生者。


三宅志都

腹黒副会長


二階堂渡

チャラ男書記


一条悠真

寡黙な会計



★各エンディング後の攻略対象者との関係


ハッピーエンドは、最愛の恋人

ノーマルエンドは、胸キュンな友人以上恋人未満

ロンリーエンドは、性別を越えた良き友人

逆ハーエンドは、悪女指定で学園追放

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[良い点] いくら好きでも簡単に許すのかぁ…一途ちゃん好きだけど…なんかモヤります。誰かが奪って ざまぁエンドも捨てがたいような…(浮気と一緒だと思う。それに簡単に裏切って婚約者を捨てたって事でしょ~…
[良い点] 悪役が痛い目にあっていないのに謎の読後感の良さに驚きました。 [気になる点] ちょっと空白が多すぎる気がしました。 無駄なスクロールにイラッとする人がいるかもしれないです。 [一言] 涼…
[一言] ラストで爆笑しましたw
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