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5、下級神霊



 翌日、亞宮達は早朝から亜空間内に居た。不死山には、亜空間が非常に出来やすい。しかも、この山なら亜空間を放っておいても周辺の町に害を及ぼす心配が無いため、修行や訓練などに訪れた者にはもってこいの場所なのだ。

「そういや、なんでこの山の亜空間は放っておいても平気なんだ?」

 岳が疑問を漏らす。この疑問に亞宮が答えた。

「この山には特殊な結界が張ってあってね。亜空間から神霊が出られない様になってるんだ」

「……そんな結界があるなら町とかに使えば良いんじゃないか?」

 岳の頭に更なる疑問が浮かぶ。この言葉に亞宮は首を横に振った。

「結界は人間が張ったものじゃないんだよ。この山に結界を創ったのは神。自分のテリトリーでは余計な事をしない様にってのが一般的に言われてる説だよ」

「まじか……じゃあ仕方ないな」

 結界の外で亜空間が長時間干渉されず、放置されると、その亜空間から神霊が出てくる。別に亜空間内でないと憑依できないと言う訳ではないが、亜空間と違って現実の世界は建物や一般人が居る。いくら神霊狩りの達人であっても、守りながら戦うというのは簡単な事ではないからである。

 今、この亜空間に居るのは亞宮と岳、それと亞紋。効率良く訓練を行う為に、一年とそれ以外の学年で亜空間に入る事になった。そして三年の慈ヶ(じがさき)と黒徒には一人ずつ。二年の亞紋と雨音には経験者ともう一人で二人ずつ、と言う事になった。

 慈ヶ崎は高坂と、黒徒はカースと組んだ。そして雨音には美華とリリーナが、亞紋には亞宮と岳が組む事になったのだ。

「おら、さっさと終らすぞ」

 亞紋が神霊を蹴り飛ばしながら亞宮達に声をかける。今の亞紋に憑依しているのはデーモン。ランク2の下級悪魔だ。黒徒のかけた制限で、『自分の持っている一番ランクの低い神霊で戦う事』が理由で亞紋はデーモンを使っている。

「「あ、はーい」」

 気の抜けた返事に亞紋は溜め息をついた。

「ったくやる気ねえな……お前ら」

「……だってコイツ最下級じゃないっすか」

 亞宮がピクシーに槍を刺しながら返事をする。それとほぼ同時に岳もピクシーを倒していた。

「ま、はずれくじ引いちまったもんは仕方ない。あたりが出るまで頑張るしかないさ」

「「ういーっす」」

「お前ら……」

 相変わらずやる気の無さそうな亞宮達と、亞紋は溜め息を吐きながら亜空間から出た。


 「っと……」

 亞宮達が亜空間から出た時、外には黒徒とカースが立っていた。黒徒は汗一つかかずに、清まして居た。しかし、カースは黒徒とは真逆だった。体中、汗だくでいかにも疲労困憊といった表情。

「おうおう! だらしがないよ少年! 若いんだからもっと張り切って行こう!」

 威勢の良い黒徒。はっきり言ってカースはそんな黒徒に着いて行けるほど元気ではなかった。呼吸を整えるのが精一杯。

 そんなカースが腹から絞りだすように声を出した。

「む、無理ですって……なんであんな敵多いんですか……」

「そりゃもちろん。ある意味当たりを引いたからさっ」

 カース達が引いた亜空間には、ピクシーとワーウルフが大量に居た。ざっと数えても百以上。特に高い階級の神霊が居る訳でもなく、ただ低い階級の神霊が意味もなく大量に居るだけ。一匹一匹を倒すのはさほど苦ではない。

 しかし、これが十、二十と数が増えていけば話は別。これが、戦い慣れている黒徒なら当然平気だろう。だが、戦う事にまだ慣れていないカースではどうやっても早い段階で限界が来る。その上、黒徒はカースに修行だからと言って殆ど手を出さなかったのだ。カースがここまで疲れているのはそれを考えるとあながち不思議ではない。

「ド外れですよ……はぁ」

 大分呼吸も整って来たカース。やっと会話くらいはまともにできる様になってきた。

「お、部長。そっちは終ったのか」

「結構時間掛かっちゃったよ。数が数だけにね」

 亞紋たちが木の陰から現れる。亜紋もそうだが、岳も亞宮も清ました表情。微塵も疲れている様子は感じられなかった。

「よ、余裕そうだな二人とも……」

「そりゃ大外れで雑魚数体だからな。お陰でやる気が出なくて出なくて」

「うん。まったくやる気がでない」

 亞宮の言葉に岳やカース、亞紋までもが口をそろえてこう言った。

 「お前はいつもだ」と。

「あれ、そうだっけ」

 なにも感じていない様子の亞宮。完全に聞き流している。

 などと話をしていると、慈々崎と高坂が物陰から出てきた。そして少し奥には雨音と美華、リリーナが歩いてきた。

「あら、案外早いね」

「女々ちゃんだってそんな変わらないじゃん?」

「それもそうなんだけど。まぁ私達は若干当たりだったから仕方ないよね」

 この言葉に黒徒たちが反応する。

「お、じゃあ深翠ちんは新しい神霊をゲットしたのかね!?」

 若干眉を顰めながら高坂は答える。

「えぇ。一応ハイピクシーを。あとちんは止めて下さい」

「おぉ! 新入生で最初に下級神霊を手に入れたのは深翠ちんかー!」

 高坂は黙って溜め息をついた。諦めたようだ。

「まだわからねえぞ。猫目の顔見てみろ。超笑顔で走ってくるぞ、亞宮目掛けて」

 その言葉を亞宮は聞き逃さなかった。直ぐに美華の方を見る。絶対に飛びつかれると思ったからだ。

 しかし、その考えは甘く、亞宮が振り向いた瞬間、視界は何かで遮られ、身体に一気に重みが来た。 

「旧弦聞いて聞いて! サキュバスゲットしたの!」

「あ、あぁ……夢魔のか。あれって戦闘向きなの? 淫魔でしょあれ……と言うか今俺どういう状況? 真っ暗なんだけど」

 亞宮は立ち尽くし、周りに居た男性陣は羨ましそうな表情を浮かべて亞宮を見た。その中に黒徒も居り、そんな彼を見た慈々崎が眉を顰めた。

「……ちょっと」

「へ? あぁ大丈夫大丈夫。羨ましそうとか思ってないから!」

 直後、黒徒の腹部に鋭利なエルボーが刺さった。

「……死ぬからその肘。いや、まぢで」

 蹲った黒徒が震えた声で呟く。慈々崎はそれを見て「ふんっ」とそっぽを向いた。

「今あんたの目の前にあるのは美華の胸よ」

「なんだと!?」

「にゃふっ!?」

 歩いてきたリリーナの言葉に亞宮は過剰に反応し、彼はぶら下げていた両腕を上げ、美華を全力で拘束した。

「ちょ、ちょっと待っ……んっ」

 甘い声を上げる美華。これには男性陣も思わず唾を飲んだ。今の彼らには羨ましいなどといった感情は無く、ただ純粋に今の状況を楽しんでいた。

「にゃっ……旧弦……だめっ……だめだってぇ……」

「……いい加減にしなさい」

 甘い声を上げている美華を気にも留めず、一直線に亞宮の後頭部を目掛けた小石。投げた主はリリーナ。

「痛い」

「や、やっと開放されたぁ……にゃぁ……」

 呆れ顔のリリーナは美華の首根っこを掴み、亞宮から引き剥がした。そして、少し頬を赤らめ言った。

「そ、そんなに胸が好きなら私がやってあげるから……今は我慢なさい。ここで大きく時間をとってる場合じゃないでしょう?」

「是非」

 そう言って亞宮は親指を力強く立てる。それにリリーナは更に赤面し、少し距離を取った。

 リリーナたちが離れる直前、亞宮は小さく呟いた。

「良いパルファムだ。美華」

 実に清々しい表情でそう呟く亞宮の姿を、この場に居た全員が呆れ顔で眺めた。


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