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4、部活

 亞宮達がこの神逆社(しんぎゃくしゃ)学園に入学してから早くも三ヶ月もの時が過ぎようとしていた。

 この三ヶ月で亞宮達は様々な出会いをした。部活動に入り、部長の対審判特別教育科三年繰空黒徒(くりからこくと)、同じく二年、澤田雨音(さわだあまね)。副部長の対神霊科二年、亞導亞紋(あどうあもん)。同じく一年、高坂深翠(こうさかみすい)。そして対審判科三年、慈ヶ崎女々(じがさきめめ)。この部活には亞宮と岳、美華とリリーナ、それとカースも一緒に入部した。この部活に入ってから、亞宮達は様々な人に出会う事になった。

 この学園最強と謳われる対神霊科三年、リースマリア・クレセントリア。そしてリースマリアを支える二本柱、相馬薫(そうまかおる)、相馬音々(そうまねねね)兄妹。それ以外にも数え切れないほどの新しい出会いをした。これらの出会いは、亞宮達の物語を大きく動かす要因となっていく。


 「おい旧弦(きゅうげん)。部室へ行くぞ」

 帰り支度をしている亞宮にカースが声をかける。亞宮はカースの声に手を振って対応した。すると「先に行っている」と言って教室を出て行った。

「……よし準備完了。じゃ、行こうかカー……す?」

 と、顔を上げ、声をかけてきた主を探した所、カースは既に教室には居ない。亞宮が先ほどの行動は、「少し待ってて」の意だったのかもしれない。

 亞宮が不思議そうにしていると後ろから岳達が声をかけてきた。

「旧弦! 部室に行くぞ!」

「あいよー」

 振り向くとそこには岳と美華、リリーナが居た。

「ったく相変わらず貴方は気の抜けた顔をしてるわね」

「旧弦は変わらないねー」

「んー……否定できないっす」

「そりゃ事実だからな」

「これは手痛い」

 などと他愛も無い話をしながら四人は部室へと向かった。


 この学園の部活動は普通の高校の部活動とは少し違う。この学園の部活動の正式名称は『部隊間活動(ぶたいかんかつどう)』と言う。普段は、普通の高校と同じ様に、同じ趣味や思考を持った様な者を集めて何かをしたり、話をしたり、と極々普通なのだが、本来の役割は、大きな戦いや、学期末の大会の時のチームである。だから、前に出て戦う対審判科、対審判特別教育科と、後ろからの支援や援護を基本とする対神霊科の生徒をバランス良く召集する必要があるのだ。

 亞宮達の所属する部隊は、対審判特別教育科三年、繰空黒徒率いる、部隊番号参『ブラッドサーカス』。

 部隊の番号は、学期末に行われる大会などの総合順位によって決められる。この学園に存在する部隊数は二百以上。そしてその頂点が、対神霊科三年、リースマリア・クレセントリア率いる部隊番号壱『ヴァルハラ』。二位が対神霊科三年、犬神浪牙(いぬがみろうが)率いる部隊番号弐『フェンリル』。そして三位、それが亞宮達の所属する、部隊番号参『ブラッドサーカス』である。


 「失礼しまーす」

 亞宮が部室の扉を開ける。中にはカースと雨音が居た。

「こんにちは」

「こんにちはっす!」

「こんにちは」

 雨音とそれぞれ挨拶を交わす。するとリリーナが突然カースの方を見てこう言った。

「あら? あんたは挨拶も出来ないの?」

 この言葉でカースの眉間に皺が寄った。

「何でさっきまで同じ教室に居たお前らに挨拶しなければいけないんだ」

 するとリリーナはカースに聞える様に舌打ちをした。


 「はいドーン!!」


 突然部室の扉が勢い良く開く。既に部室の中に居る面子は皆扉へと注目した。するとそこに立っているのは我らが部長、繰空黒徒だった。その後ろには残りのメンバーも立っていた。

「……部長ですか」

「なに、何で残念そうな目をするの亞宮君!」

 残念そうな顔の亞宮の周りを周りだした黒徒。そんな黒徒の顔に対して亞宮は何の躊躇もなく裏拳をぶつける。こう言った光景はこの部ではもう恒例だった。

「いっつつ……愛も変わらず容赦ないねえ君は」

「その愛は違いますよ部長」

「いや、これで良いの!」

「は、はぁ……」

 この部の名称、『ブラッドサーカス』からは想像できない位にこの部活は明るい。特に部長である黒徒が。

 黒徒は、一通り遊んでから、大事な話があると言ってホワイトボードの前に立った。そして一枚の紙をホワイトボードに貼り付け高らかにこう言った。


 「今月末に部隊別の小大会がある! 我々はそこに参加し、なんとしても優勝を勝ち取るぞ!!」


 「「は、はぁ!?」」

 かくして、亞宮達はその小大会に出る事が決まった。

 今月末、自由参加の小さな大会が行われる。主催者は学園の教員である、坂上士奇(さかがみしき)。亞宮達のクラスの担任である。この学園では学園長の他にも様々な教師達が大会を開く。この大会は決して大きなものではない。この大会で優勝しても生徒個人としての利点は限りなく無いに等しい。強いて言えば実戦経験程度である。しかし、一個人に出る意味が無くとも、部隊には意味がある。この大会で優勝する事で、部隊にポイントが入る。それによって学期末の大会で有利な場所を確保できたりなどと、利点が多い。なにより、このポイントによって部隊順位が決められている事が最も重要なのである。


 そして現在、亞宮達はその大会へ向けた訓練を行っていた――――山で。


 「部長ー今何合目っすかー?」

 岳が先頭を歩く黒徒に問いかける。黒徒はこちらを振り向かずに言葉を返す。

「えー……あ、十五合目だ十五合目!」

「で、今日はどこまで行くんですかー!」

「三十!!」


 この山の名は『不死山(ふじさん)』。神が人間に試練を与える前は富士山と呼ばれていた山。そして最初に神が現れたとされる場所。

 神が現れたその日、富士山は上へ上へと伸びていった。大きな柱のように高く、そして天を貫いた。それから、この山では亜空間が頻繁に出現するようになった。当時、戦い方を知らなかった人たちはこの山を恐れた。滅びる事の無い大いなるものが巣食う山、不死の怪物の巣食う山として。そして人々はこの山を不死山と名づけた。


 「なぁ部長。一回安全な所に出ないか? 俺達はいつまでこんな道を歩けばいい」

 副部長である亞紋が黒徒以外の部員全員が思っているであろう事を言葉にして黒徒にぶつける。この言葉に黒徒は笑顔で答える。

「こっちの面白いじゃん!!」

「しらねーよ、俺達は面白くもなんともねーんだよ。さっさと三十合目までつれてけや」

「ちょっ亞紋君!? こんな所で蹴るの止めて! ホント危ないから! 落ちる!」

 黒徒たち第三部隊が訓練と称して、不死(ふし)三十合目にいく為に歩いている道は崖だった。人一人通るのが精一杯の細い崖を黒徒達はもう何時間も登っているのだ。この道は決して近道などではない。むしろ遠回りなのだ。本来、直線で三十合目までいけるものを、この崖の場合、山を回るようにして上へと向かうため、倍以上の時間が掛かるのだ。

「ちぇー……しょうがないなぁ……」

 黒徒は渋々この崖から離れる事を承諾した。

 黒徒達が普通の登山道に戻ってから約一時間、目的地である三十合目へと辿り着いた。

「や、やっと着いた……」

 亞宮は苦痛の表情を浮かべる。これは亞宮だけではない。一年は皆亞宮と同じ顔をしていた。二年も、一年ほどではないにしても疲れている様だった。

 そんな中で一人。元気過ぎる男が居た。

「やったー着いたー! ひゃっほぉう!!」

 一人で騒ぎ続ける黒徒。そんな部長を放置し、他の部員達は先に宿へと向かった。

「着いた! 着いたぜ皆!! ……ってあれー?」

 黒徒は皆が宿に着いた頃に他の部員が居ないことに気がつく。気づいてからも少しその場で騒いでいた。

「おいお前ら! 俺を置いていくんじゃないよ!!」

 皆が夕食を食べている時、黒徒が宿へやってきた。皆は一度だけ黒徒を見ると、何も言わずに食を進めた。

「え、えー……なに、そう言う感じなの?」

 黒徒は小さな声で何かを呟きながらも、自分の食事に手を着け始めた。

「でみょしゃー、みんにゃ結構たゃんぱぐ……んぐっ……だよね」

 口の中の物を飛ばしながら喋る黒徒を亞紋が叩いた。

「食いながら喋るな。それに俺達は疲れきってんだよ。あんな馬鹿騒ぎできるかっての」

「ぶーぶー」

 黒徒の口から出た米粒が亞紋の方へと飛んでいった。

「い゛っ!? きったねぇ!」

 亞紋は黒徒を蹴り飛ばし、亞宮達の居る方へ黒徒が飛んでいった。

「ふんっ!!」

 亞宮は黒徒が飛んでくるのがわかっていたかの様に亞紋の方に黒徒を蹴り返した。

「ぶふぅぅぅぅー!!」

 黒徒が蹴られたのは顔。その上口の中にはまだ食べ物が残っていたため、顔を蹴られた拍子に、黒徒の口から夕飯のカレーがぶちまけられた。

「うわっ!! 汚っ!!」「ちょ、ふざけんな!!」「た、助けてー!!」

 ……亞宮達第三部隊の夜は長い。


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