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1、神逆社学園


 審判の時は来た。神々は人間に一つの試練を与える。神が我々人間の存在を否定するか否かは我々人間達次第。

 神は試練と共に人間に力を与えた。神に対抗できる力を。人は神霊の力を借りる権限を得る。精霊や悪魔、果ては神の力をも人はその身に宿す事が可能になった。人はそれを『憑依変化(オブゼッションフォーゼ)』と呼んだ。


 「で、そんな話をし始めて五十年以上経ったわけなんだが……」

 半分げんなりしながら教師がそんな事を言った。現在2075年、神が審判を下すと言ってから約62年が経った。今では、あまりこの審判に対して危機感を持っている人は多くない。政府の人間や一部の人は、今でも非常に危惧している様だが、殆どの人がこの審判をゲーム感覚で扱っている。

「さて、審判についてだ。この審判に今のところ終りは無く、不定期に突然始まる。これは、街中であろうと家の中であろうと風呂の中であろうと、どこだろうと現れる」

 というとクラスの女子が騒ぎ出した。「キャー恥ずかしい~」などと半分棒読みの発言で教室が笑いに包まれた。その反面教師は苦笑いだった。

「んんっ……、では話を戻すぞ。審判ってのは、基本名ばかりで亜空間に現れた敵を倒すって感じだ。ロールプレイングゲームとかで歩いてると出てくるモンスターみたいなもんだろうな」

 教師がそう言って笑う。それに釣られた何人からか、笑い声が漏れた。

「だが! これはゲームではなく現実だ。いくら亜空間であろうと、攻撃をもろに受ければ怪我をする。ましてや命なんて落としてみろ。そのまま人生終了だ」

 と、そこまで喋った所でチャイムが鳴った。すると教師が「要するにいくら弱そうでも本気でやれってこった」と言って教室を出て行った。


 審判とは、突如現れる亜空間の事を指す。この亜空間には数体の神霊が存在し、一度亜空間に入ってしまうと神霊を倒さない限り決して出る事はできない。そして、その神霊を倒す方法。それが『憑依変化』である。憑依変化とは、己の身に取り込んだ神霊の力を解放し、その身に宿すと言うものである。殆どの憑依変化は、使用者の見た目を変化させるのだが、中には変化しないものもあると言われている。


 「なぁ亞宮(あみや)。お前最初に呼び出す神霊なににするか決めた?」

 授業が終った直後、後ろに座っている黒い癖毛が特徴的な青年が話しかけてきた。

「天使、悪魔、精霊……正直誰でも良いかな。って言うあんたは決めたのか?」

 亞宮旧弦(あみやきゅうげん)、肩下まで伸びだ黒髪が特徴的な色白の青年。

「ん、俺? んにゃ、全然決まってないな。あぁ、それから、俺のことは(がく)って呼んでくれて良いぜ!」

 そう言って元気に笑う青年は松原岳(まつはらがく)。よく周りにはアホっぽいと良く言われるが、学力は学年トップクラスである。

「そう? じゃあよろしく、岳」

 亞宮が岳に向かって右手を差し出す。それを見た岳は嬉しそうに右手を差し出し、二人は握手をした。

 神霊には種類がある。天使、悪魔、精霊、そして神、この四種類に分けられる。そして人は皆最初に天使、悪魔、精霊の中から一つを選び神霊を呼び出し、取り込む事が法律で義務付けられている。要するに国は国民を本気で守る気は無いと言う事である。自分の身は自分で守れ、と人々は何年も前から教え込まれてきたのだ。

 休み時間が終り、先ほどまで授業をしていた教師が再び教室に入ってきた。

「……全部あの先生がやるのか」

「……小学校みたいだな」

 今の会話が聞えた周りの生徒から笑いが零れる。そしてその笑いが気になった生徒がその生徒に聞き、更に笑いが零れた。そして最終的にはクラス全体が小さな笑いに包まれていた。その時の教師と言えば、生徒達と一緒に笑いながら「これで何度目だろう」と言った。恐らく前のクラスやその前のクラスでも同じ事を言われてきたのだろう。

 それから、先ほどの内容の続きを教師は喋りだした。

「えーっと、どこまで話したっけ?」

 と教師が教材を覗いていると、

「亜空間で死んでしまうと現実の世界でも死んでしまう、と言うところまでです」

 一人の女子生徒がそう言い、教師はそれを聞き、そこから話を始めた。

「おお、そうだったそうだった。亜空間で死んだら本当に死ぬ。そうそう、そうだった。で、亜空間で死んだ後、私達人間は現実に戻って来る事は出来ない」

 その言葉にを聞いた生徒達のさっきまで笑っていた表情が硬くなった。

「もし一人で亜空間の中に入り、もしそこにとても強い敵、もしくは大勢の敵が居て運悪く命を落としてしまったらどうなる?」

 その質問に対して生徒達は口を閉ざした。そんな事は言わなくてもわかるからである。

「誰にも知られずに死んだ事になってしまう。まぁ、こんな事は言わなくてもわかると思うけどね。これは大事な事だから。いくら自分の力に自信があったとしても、決して一人で亜空間に入ってはいけない。この世界には未だに確認されていない神霊が数多く居る。天使や悪魔、精霊は昔からたくさん居たから知っているもののが多いと思うけど、神はまだ確認されていないものの方が多い。だから、くれぐれも亜空間に入る時は気をつけて」

「「はいっ」」

 教師の真剣な表情を見て、生徒達も真剣な表情で返事をした。それからは、深刻な話と言うよりは、この学園の説明に近いものだった。


 『国立神逆社こくりつしんぎゃくしゃ学園』、神に逆らう為に作られた(やしろ)、という意味である。本来、神を祭るための場所である社を学園の名前に使ったのは、神に逆らう為に力を借りる神々を祭るためだそうだ。そしてこの学園は、審判を無事に切り抜け、最終的には神に抗うための存在を作るための学園である。この学園を創ったのは対審判特別機関『神抗(しんこう)』。審判から一般市民を守る事が仕事であり、その手助けをするのがこの学園なのだ。

 そして亞宮達は今年学園に入学した対審判科一年生である。そしてこの学園には、対審判科とは別に対審判特別教育科と、対神霊科が存在する。まず、対審判科とは、主に神抗の手助けだ。未来の神抗の職員を育成する事がこの科の目的である。対審判特別教育科は、対審判科の生徒の中から引き抜かれた優秀な生徒達が在籍する科。いわゆるエリートである。そして対神霊科、ここは神霊の事を学び、未だに謎の多い神霊について研究する科である。要するに技術班の卵と言ったところであろう。


 教師がこの学校の事を一通り説明し終えた所でタイミング良くチャイムの音が教室に響き渡る。

「お、もうそんな時間か。よし、じゃあ次の時間はいよいよ召喚だぞ。授業が始まる前にはちゃんと()きの間に居るよーに」

 そういって教師は教室を後にした。教師が居なくなると、生徒達は次第に騒ぎ始める。それは岳も同じだった。

「あー! どっちにしよう! 次だぜ次!」

 なんとも嬉しそうな岳。他の生徒も岳と同じだった。どこか嬉しそうな顔をしている。

「……決めた! 俺精霊にする!」

「うん、岳は天使とか悪魔って柄じゃないしね」

 亞宮がそう言うと岳は激しく頷いた。

「そうなんだよ。俺が天使とか悪魔とかさ、そういうのってなんか違うんだよ。で? 亞宮は何にするか決めたのか?」

 岳の言葉に亞宮は小さく頷き、ゆっくり口を開いた。

「俺は……天使にする」

「あーなんかそれっぽい」

「ま、それぞれ自分のキャラに合ったのを選ぶべきってことだよ。さ、そろそろ皆移動するみたいだ、行こう岳」

 周りを見るともう半分以上の生徒が教室を出ていた。それを見た二人も憑きの間へと向かった。


 『()きの間』とは、この学園に入学した生徒達が最初に憑依(ひょうい)を経験する部屋である。


 「えー、皆集まったかな。それじゃあ『憑依』の実習を始めるよ」

 憑きの間の中央に描かれた大きな魔方陣。その手前に生徒達が並ぶ。

「で、私は対神霊の資格は持ってないので、対神霊科の先生を呼んであります。それでは尼月(あまづき)先生、よろしくお願いします」

 そう言って教師は隅の方へと歩いていった。そしてそれと入れ替わるように女性の教師が生徒達の前へ歩いてきた。

「あーどうも。坂上(さかがみ)先生の代わりにこの授業を受け持つ尼月だ。よろしくな……って言ってもこの授業が終ったら殆ど会わないだろうけどな」

 尼月の言葉に生徒達から笑いが零れる。尼月自身も笑っていたし、坂上も笑いを堪えているようだった。

「んっ、では、これから憑依の授業を始める。召喚と憑依についてはもう坂上先生から聞いたよな?」

「「はいっ!」」


 召喚とは、一番最初にその身に宿す神霊を呼び出す行為の事を指し、憑依とは、その神霊をその身に取り込む事を指す。


 「わかっているとは思うが、お前たちに憑依する神霊は最下級、レベル0の神霊達だ。もし今日憑依させた神霊より強い神霊を手に入れたかったら、頑張って強い神霊を倒し、憑依させる事だな。その為にもこれから始まる実技はしっかり受けろよ」

「「はいっ」」

 神霊にはそれぞれランクが存在する。最下級から最上級。詳しくすると、レベル0から1までが最下級となり、そこから一つずつ級が上がって行き、最上級はレベル5となる。生徒達がこの授業でその身に取り込む神霊がレベル0。そこから、戦闘訓練を受け戦闘力を上げ、自分が持っている神霊よりレベルの高い神霊を屈服させ、その身に憑依させる事によって、強い神霊を扱う事が可能になる。

「よし、では出席番号順で私の元へ来い。そして出席番号と名前、希望の種族を述べ、魔方陣中方の水晶の前に立て」

 そう言って尼月はこちらから見て、魔法陣の向こう側へと歩いていった。そして一人目の生徒が尼月の方へと歩いて行った。

「……出席番号一番、浅田紫苑(あさだしおん)です。天使をお願いします」

「わかった。では浅田紫苑、石の前へ」

 そう言って浅田を石の前へ行かせ、尼月はその場で懐から出した札の様なものを魔方陣の上へと置いた。すると魔方陣が光りだし、石から光の柱が現れる。そしてその光の柱から何かが出てきた。

「こ、これが……神霊……」

 光の柱から現れたのは女性の天使だった。浅田は、天使を目の前にして驚愕を隠せないで居た。無論それは他の生徒も同じだった。亞宮達数人の生徒を除いて。

「よし浅田、エンジェルを取り込め。呪文はわかっているな?」

 尼月の質問に浅田はゆっくり頷く。そしてゆっくりと天使に手を向け、ある言葉を呟いた。


 「憑依(オブゼッション)


 すると天使は浅田に向かって微笑みかけ、光の玉となり、浅田の体へと入っていった。

「よし、憑依完了だ。次の者」

「はい」

 そう言って亞宮が尼月の方へと歩き出す。亞宮が岳の隣を通り過ぎる時、岳が小さな声で「がんばれよ」と言った。

「出席番号二番、亞宮旧弦です。天使でお願いします」

「では、亞宮旧弦。石の前へ」

 亞宮は浅田同様石の前へ。そして尼月が札の様なものを魔方陣の上へと置く。そしてまた魔方陣が光り、光の柱が現れ、その光の中から男性の天使が現れる。

憑依(オブゼッション)

 亞宮は浅田の様に手を向けなかった。ただ真っ直ぐ天使の目を見てそう言った。すると天使は浅田の時同様、亞宮に向けて微笑み、光の玉となって亞宮の体の中へと入っていった。

「よし、次の者」

 亞宮が憑依を終え、自分が元々居た場所へと戻ると、そこには岳が居た。

「よ、亞宮。どうだった? 始めての憑依は」

「んー、まぁ別に神霊を見るのは始めてじゃなかったしね。特にこれと言って感情は無いかな」

「ふーん。そんなもんかー」

 岳は少し残念そうな顔をした。しかし、直ぐに表情は戻り、話を続けた。

「で? 亞宮の神霊ってなんて言うんだ?」

「浅田さんと俺が選んだ天使は、第九階級『エンジェルズ』これが世間一般に天使って言って連想されるものだと思うよ」

 そう言うと岳は関心したような顔をしたかと思うと、突然目を輝かせた。亞宮は、岳が見たものが気になり、岳の視線を追ってみると、岳の視線は光の柱から現れた狼男に向かっていた。

「お、おぉ……!」

「あぁ、あれは『ワーウルフ』だね。日本で言う狼男だったかな?」

 その言葉を聞いた岳は益々関心したような顔をした。それから、知らない神霊が現れる度に岳は亞宮の方へ顔を向けた。

 「七番、カース・クロニクルスです。悪魔をお願いします」

 光の柱の中から出てきたのは鬼だった。これはさすがの岳もわかったらしい。

「出席番号九番、櫛枝牡丹(くしえだぼたん)です。精霊をお願いします」

 光の柱の中から出てきたのは妖精のようなものだった。

「なぁ亞宮、あれってなんて言うんだ? 妖精?」

「あれは『ピクシー』って言うんだ。まあ妖精も似たようなものだと思うけど」

「へぇー……でもあれってどう戦うんだ?」

 そう言って岳はしばらく首を傾げていた。

「出席番号二十、猫目美華(ねこめみか)! 悪魔でお願いします!」

 光の中から出てきたのは黒い羽の生えた女性だった。

「な、なぁあのグラマラスなお姉さんは……」

 岳は最初にワーウルフを見た時よりも目を輝かせながら亞宮に質問した。

「あれは『リリス』って言って、男児に害すると信じられていた悪魔だよ。だからああいう見た目はそういう事」

「くそぉ……俺も悪魔にしようかなぁ……」

 そう言って頭を抱える岳。周りを見てみると、岳と同じ様な男子生徒が何人か見えた。しかし、亞宮は真顔で岳や、他の生徒に聞える様に告げた。


 「いや、俺達男が悪魔選んだら出てくるの鬼だよ」


 「――――!!」

 岳を含めた何人かの男子生徒が大きく口を開いたまま固まった。女子生徒達は、そんな男子達に冷たい視線を送っていた。

 それからの岳は静かだった。そして自分の番が来ると、「んじゃ、行ってくるわ」と言って歩いていった。岳は無事ワーウルフを取り込み、満足そうな顔で亞宮の元へ戻ってきた。

 そして、終りのチャイムが鳴る前には全三十七名の憑依が終了した。

「よし、全員終ったな。次の授業は早速実戦だ。対神霊戦の訓練を兼ねた模擬戦を行う! 授業が始まるまでには闘技場に集まっている事! 解散!」

 尼月がそこまで言うと、タイミングよくチャイムが鳴った。そして生徒は各々で動き始める。友達と話す者、一足早く闘技場へと向かう者、一人でどこかへ行く者。亞宮と岳は一足早く闘技場へと向かった。



ここまで読んでいただき、誠に有難うございます。

私自信久しぶりの投稿なので、どれくらい書けばいいのかーとか、そういうのでてんやわんやしながらですが、なんとか一話投稿する事ができました。

ぶっちゃけ先の事あんまり考えて無いので更新が不規則になるかもしれませんが、ご了承ください。


 感想なんかもらえたら嬉しいです。(もしつまんないなーって思ったらほんとちょっとほんとごめんなさい)

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