テンゴクとジゴク
男は極悪人だった。100人がその男と1か月知り合いになれば100人が悪人だというほどだ。
だったというのは男がすでに死んでいるからだ。
理由は人を殺したことによる死刑の執行による絞首刑。
首に縄をつけられ、目隠しをされ、椅子に座らされ、椅子が落ち首の骨が折れるまで男は反省しなかった。むしろ自分はいいことをしたと思っていた。
苦しんでいる人間を生という苦から解放したと本気で信じていたからだ。
男は自分のことを善人だと信じきっている
自分はまだ多くの人を生という苦しみから解放することが出来たはずだった。
しかし死んでしまってはもう人を救うことができない。
男にはそれだけが心残りだった。
男は今いる場所がどこなのか確認しようと周囲を見渡す。しかし何もない。周囲は真っ白で何もないのだ。自分がどこにいるかなど分かるはずもない。それ以前に自分は死んだはずなのだ。意識などあるはずがない。
しかし意識があるということは自分は死んでいないのだろうか?そんなことを考えつつ男はとりあえずその白い空間を歩くことにした。
30分は歩いただろうか? 10歩ほど先に文字通り、何もない場所から突然門が現れたのだ。
男の目の前には二つの巨大な門が立っている。どちらも10mを超えるかのような巨大な門だ。しかし決定的に違う。
男から見て右の門は純白の綺麗な門だ。様々な美しい意匠が施され、見るものを虜にするその門は名づけるなら正に「神の門」と言えるだろう
男から見て左の門は漆黒の恐ろしい門だ。死に神を意匠したのか鎌を構えた骸骨があり、見るものを恐怖に陥れるその門は名づけるなら正に「悪魔の門」と言えるだろう。
男の足が自分の意識を離れた気がした。男の意思とは関係なく足は勝手に前に進んでいく。2つの門のちょうど中間地点に来ると男の足は止まった。
その途端、男の前の空間がまばゆく光った。その余りの光の強さに男は思わず目を背ける。
光が収まり、男がようやく正面を向くとそこにはいつ来たのか、灰色のボロを纏った一人の年寄りの男が立っていた。何の気配もなくいきなり現れたその老人に男は呆然としてしまう。
その男の反応見たのか、それともそれが決まっていたのか、初老の男性が口を開いた。
「私は神だ」
その老人の言葉に男は何を言ってるんだと思ってしまった。その感覚はむしろ当然だといえるだろう。いきなり神を名乗る奴など気が触れているか神を気取った馬鹿のどちらかしかいない。
しかし、老人は気にしないように言葉を紡いでいく。
「お前は選択することが出来る。ただしこの選択は一度しかできない」
男はそれ以前に聞きたいことがあったが何故か言葉が出なかった。何か不思議な力で声が封じられているような感じが男を包み込んでいる。
老人は純白の門を指して言う。
「一つはテンゴクへと続く門、全ての善を込めた最上の世界」
老人は漆黒の門を指して言う。
「一つはジゴクへと続く門、全ての悪を込めた最低の世界」
老人が指を降ろし最後にこう言った。
「選べるのは一度のみ、自分が進みたい方へと足を進めよ。その先がお前の死後の道となる」
それを言い終えた瞬間に現れた時と同じようにまばゆい光が男を襲った。再び目を開けた時には老人の影も形もなかった。そんなことは男には関係なかった。
何せ天国への道がすぐそこにあるのだ。行かないわけにはいかない。何せ自分は人を救ってきたのだ。天国に行かないでどうしようというのだろうか。
男は迷わず純白の門の前に立つ。
男が門の前に立った瞬間、巨大な門は音も立てずに静かに開いた。その先には天へと続く長い長い階段がある。
男は嬉々としてその階段を上って行った。自分の最上の世界があると信じて。
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男は善人だった。100人がその男と1か月知り合いになれば100人がいい人だというほどだ。
だったというのは男がすでに死んでいるからだ。
理由は子供を助けようとしてトラックに自分が跳ねられた。
トラックが目の前に迫り、自分にぶつかり、男の体が衝撃で叩き付けられ臓器が破裂するまで男は後悔していた。自分が早く助けに行ければと思っていた。
自分がもっと早く助けに入れば子供も自分も助かったと本気で信じていたからだ。
男は自分が罪人だと信じ切っている。
自分はまだ多くの人へ罪を償わなければならないはずだった。
しかし死んでしまってはもう罪を償うことが出来ない。
男にはそれだけが心残りだった。
男は今いる場所がどこなのか確認しようと周囲を見渡す。しかし何もない。周囲は真っ白で何もないのだ。自分がどこにいるかなど分かるはずもない。それ以前に自分は死んだはずなのだ。意識などあるはずがない。
しかし意識があるということは自分は死んでいないのだろうか? そんなことを考えつつ男はとりあえずその白い空間を歩くことにした。
30分は歩いただろうか? 10歩ほど先に文字通り、何もない場所から突然門が現れたのだ。
男の目の前には二つの巨大な門が立っている。どちらも10mを超えるかのような巨大な門だ。しかし決定的に違う。
男から見て右の門は純白の綺麗な門だ。様々な美しい意匠が施され、見るものを虜にするその門は名づけるなら正に「神の門」と言えるだろう
男から見て左の門は漆黒の恐ろしい門だ。死に神を意匠したのか鎌を構えた骸骨があり、見るものを恐怖に陥れるその門は名づけるなら正に「悪魔の門」と言えるだろう。
男の足が自分の意識を離れた気がした。男の意思とは関係なく足は勝手に前に進んでいく。2つの門のちょうど中間地点に来ると男の足は止まった。
その途端、男の前の空間がまばゆく光った。その余りの光の強さに男は思わず目を背ける。
光が収まり、男がようやく正面を向くとそこにはいつ来たのか、灰色のボロを纏った一人の年寄りの男が立っていた。何の気配もなくいきなり現れたその老人に男は呆然としてしまう。
その男の反応見たのか、それともそれが決まっていたのか、初老の男性が口を開いた。
「私は神だ」
その老人の言葉に男は何を言ってるんだと思ってしまった。その感覚はむしろ当然だといえるだろう。いきなり神を名乗る奴など気が触れているか神を気取った馬鹿のどちらかしかいない。
しかし、老人は気にしないように言葉を紡いでいく。
「お前は選択することが出来る。ただしこの選択は一度しかできない」
男はそれ以前に聞きたいことがあったが何故か言葉が出なかった。何か不思議な力で声が封じられているような感じが男を包み込んでいる。
老人は純白の門を指して言う。
「一つはテンゴクへと続く門、全ての善を込めた最上の世界」
老人は漆黒の門を指して言う。
「一つはジゴクへと続く門、全ての悪を込めた最低の世界」
老人が指を降ろし最後にこう言った。
「選べるのは一度のみ、自分が進みたい方へと足を進めよ。その先がお前の死後の道となる」
それを言い終えた瞬間に現れた時と同じようにまばゆい光が男を襲った。再び目を開けた時には老人の影も形もなかった。そんなことは男には関係なかった。
何せ地獄への道がすぐそこにあるのだ。行かないわけにはいかない。何せ自分は人に償わなければならないのだ。地獄に行かないでどうしようというのだろうか。
男は迷わず漆黒の門の前に立つ。
男が門の前に立った瞬間、巨大な門は音も不気味な音を立てて開いた。その先には地の底へと続く長い長い階段がある。
男は唾を飲み込みその階段を下って行った。自分の償いの世界があると信じて。