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代償の執行者と小さな奇跡


 『物事には必ず事象に対して帰結が存在する。ならばこれもまた帰結の一つなのだろうか...』




王都のスラム街から程遠いい位置にある市民街の一角。

普段は閑静な住宅地であるその場所は、今現在嵐が通り過ぎた跡のような有様になっていた。


その中心地は、小作人のジローと呼ばれていた人間が住んでいた家であったが、今その場所にはあばら家一つ無く、更地どころか大きなクレーターだけが存在を主張していた。


そのクレーターの中心に立っているのは、片手に請求書と書かれた紙切れを持って、もう片ほうの腕は先ほどまで扉があったはずの空間をノックした体勢で固まっている少女であった。


どう見てもその惨劇の張本人の少女であるが、彼女が纏っている受付嬢風の衣装には何故か埃一つ付いておらず、彼女自身息一つどころか先ほどから微塵も表情を変えていない。



「ジロー様、貴方の依頼の代償を受け取りに参りました...」


そう用件を述べてから、少女はクレーターの傍らで膝から崩れ落ちている、最近髪が後退して来た事を気にしている男性を見据える。


「な、な、な、あ、あんたいきなり内の家をぶち壊しといて、何をいうてるやぁ!」


ガクガクと膝を振るわせながら、少女を怒鳴りつけるジロー氏。


「何を言っているのですか?

私は、軽く扉をノックしただけです、家を壊したつもりなど微塵もございません」


確かに少女が行ったのは、見た目軽いノックのみ。

ノックしたから家が壊れたなど、普通に考えればひどい言いがかりである。


「な、何を言うとるんやぁ!おんしのノックで家が土地ごと書き消えるわけ無いじゃろ

おんし、何か変なことでもしたんじゃろうがぁぁぁ!」


ブチギレたのであろうが、何か良くわからないキレ方をするジロー氏であった。


「変なこと、ですか」


少女は、確かにそうですねと独り頷く。


「でも、まだこんなものじゃ済みませんよ。

私の力の効果時間は代償の返済が済むまで、ですから」


そう言って、彼女は先ほどから片腕に掴んでいる請求書をジローによく見えるように突き出す、よく見ると紙片の角が黒く燃えたように灰になっているのが見える。

それが、何を意味するのかわからないが、これからさらにひどい目に合うだろうことだけは理解したジロー氏であった。


「さて、それでは『天秤の契約』リーンエンゲージをこれより執行いたします。

くれぐれも下手な抵抗をしない事をオススメいたしますよ、ジロー様」


まるで死刑を執行する処刑人のように冷たい笑みを浮かべてから、少女は軽やかに動き出した―――。




「ふむ、シェスリーめどうやら『天秤の契約』リーンエンゲージを使ったようじゃな」


(株)異界運送社の地下らしきどこか、果たして地下なのかそれとも違う異空間かもしれないどこかで

幼き少女らしき影が、独りそう呟いた。


地下とは思えないほど清潔でそして広大な空間で、其処に鎮座した巨大な魔道機器と呼べば良いのか、人が独り入れそうなほど大きな長方形の箱もしくは棺のような物がついた巨大な機器が鎮座している。


その、グオングオンと巨大な駆動音を奏でる機器の前で、機器の一部にあるワームホールのようなモノに何か強大な力の塊のような物を投げ込みながら、幼き少女はどこか楽しそうに忍び笑いを漏らす。


「代償の契約か、ふふ、あの小娘にあれほどお似合いの力も他にあるまい」




天秤の契約』リーンエンゲージ...それがどのようにして生まれたかはまた別のお話。

だが、その力がどのようなモノなのか語るとするなら。


『契約』とそれに対す『代償』または『責任』を無理やりにでも払わせる力、代償を払わせるためにその代償に比例してシェスリーが『契約』から強大な力を借り受けることが出来る。


といったところだろうか。


今回の条件を例にあげるなら。


魔王の命を奪う、魔王の命のを奪った代償をジロー氏から奪い取る。

そのために借り受けた『契約』の力は、軽いノックで民家を粉微塵にしたうえでクレーターを発生させるほどの力だというところだろうか。


まあ、シェスリー自身が見た目どおりのいたいけな乙女なわけも無いので、その条件の上に彼女自身の素の力も乗っているため、先ほどのノックは本人にとっても予想外なほど軽く行ったものだった。


それはまあ、今回消滅させた魔王が以外にも本当は強い存在だったことが『契約』と合わさって、かなり凶悪なことになっているのを朱鷺杜達も気が付いていなかったのも悪いのだが。


ただ、一つわかることとして、ジロー氏の払った代償はその身を含めたすべてであったと言っておこう。




「さて、こちらはこちらでさっさと終わらせようか」


ひとしきり今回の不幸な依頼主について黙考してから、幼き少女の姿をした彼女は目の前の機器に最後の一塊となった小さな力の塊を投げ込んだ。


ゴウンゴウンゴウン...


「さてと、哀れな魔王の魂よ、早速働いて貰うぞ...」


彼女が魔道機器の中に投げ込んでいたのは『魔王』ラハナーク・サキシュの魂だったもの。

彼が請求書にサインしてしまった時点で『契約』は成立し、我らはジロー氏の依頼品を届ける代金受け取らぬ代りに『魔王の命』=『魂』を物体として手に入れた。

まあ、魔王の命を奪った代償は『契約』によってジロー氏に被って貰っているわけだが...。

その辺は、私にとってはどうでもよいことだと言えるだろう。


「さあ、起動しろ 『誰かが幸せになれる程(ワンライトクリエンス)度の奇跡』よ」


そっと、片手を置いて起動のための『言語キー』を呟く少女に答えるように、うるさく鳴り響いていた音が止み一定の起動音に落ち着いて行く。


鎮座している魔道機器は『誰かが幸せになれる程(ワンライトクリエンス)度の奇跡』、朱鷺杜が彼女の力を使って作り上げた小さな奇跡を起こす魔道機器だった―――。



『それが帰結ならば、それが終わりならば。


それを変えて見せよう、運命を捻じ曲げて見せよう。


我が『ワンライトクリエちいさなきせきンス』によって』



―――どこかにある、どこにも無い地下空間で、幼い少女がどこか壊れたような優しい笑みを浮かべながら大きな魔道機器にすがりつくように抱きついている。

いつか起こる『ワンライトクリエちいさなきせきンス』を夢見るかのように、儚げな微笑を浮かべながら少女はただただいつまでも其処にいるのだった...。

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