表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

二人の護衛と二人の少女

馬鹿では有るがアホでは無い、そんなどこか憎めない主人が「眠り姫」をお抱えの旅商人から買い付けたのは、少し前の話し。

何でも、極東の島々が連なる小国の方を旅していた時に手に入れた商品らしかった。

旅商人がその小国の様子を語りながら荷物の中から取り出した桐箱、幼子がゆうに入れる程度の大きさを持ったその箱を開けると、出て来たのは人形のような白く綺麗な少女の寝姿だった...―――。



―――朱鷺杜という変わった名の、運送社という変な商売している店主を引っ張りように店からスラム街に飛び出して行ってしまった主を追って、先ほどから何故か青ざめたまま突っ立って応接間の壁の額縁を眺めている相棒のトールの襟首を掴むようにして店を出た。


守るべき主人は店の店主の手首を掴むようにして、ものすごいスピードでスラム街を駆け抜けて行っていた。


その後姿を確認してから、俺は相棒に走るように促すためにいまだ突っ立っている相棒の顔を覗きこんだ。


「おい!トール旦那様を追いかけるぞ!目を覚ませ」


何度か呼びかけても呆けているトールの頬に気を思いっきり注入、所謂ビンタを数回してようやくトールは意識を取り戻したようだ。


「す、すまない兄貴」


いまだに、どこか青ざめたままのトールを促して主人を追って走り始める。

その俺の横では、併走しているトールが薄気味悪そうに身体を震わせていた。


トールと二人、スラム街の入り口に当たる場所に止めてある馬車までたどり着くと、丁度主人が馬車を守るために残っていた二人の護衛の手を借りて依頼品である桐箱を馬車から降ろしているところだった。


相変わらず自慢したげにうきうきとした表情をしている主人の横顔を眺めながら、自分達も桐箱を降ろすの作業の手伝いに入る。


丁度幼児が横になって入るに丁度良いサイズの桐箱。


箱自体にも柄が掘り込まれていたりと、箱だけでも値打ちものといえる箱を開けると、中に「眠り姫」と呼ばれる少女が眠り続けているのが見ることが出来た。


「着物」と呼ばれる極東独特な染物を身に纏い、その肌は太陽に焼かれる事を嫌ったかのような純白をたたえている。

その髪は店主と同じ、この辺りでは珍しい墨のような艶のある漆黒であり。

独特な形状の着物を着た薄い胸元は命の息吹をたたえて、軽く上下していた。


当たり前だ、この少女は生きているのだから...。


視線を少女から主人と店主に映すと。

楽しそうに少女について旅商人から聞いた文言を自慢するように店主に話しているお馬鹿さんな主人と、どこか哀しげに「眠り姫」眺めている店主の姿を見ることが出来た。


まるで、消えることの無い痛みに耐えるかのような...。

まるで、己の中に燻る想いに苦しめられているような...。


そんな、店主の表情がやけに印象に残ったのだった―――。






朱鷺杜がギルフォードばかに引きずられて消えていくと、どこか達観したような傭兵風の護衛が先ほどからずっと青ざめた顔をしているもう一人を伴って朱鷺杜たちを追いかけるように店から出ていった。


それを確認してから、私は相変わらず無表情だが中々働き者な受付嬢に話しかけた。


「シェスリー、お留守番の間何か依頼はあった?」


私の言葉にシェスリーは、朱鷺杜たちが出ていって跡のカップなどを片付ける手を一端止めて、こちらを振り向いてから表情は崩さずに首を振った。


朱鷺杜に対してもほとんど表情を崩すことが無い少女が、私に対して何か違う表情を見せるわけが無い。

理解してはいるがあまり好ましいことではないその現実に、少々落胆の思いを感じながら私は一人ごとのように「そう...」と呟いた。


何にむけて放たれたのか良くわからないため息を敏感に感じ取ったのか首をかしげるシェスリー。その無表情ながらも可愛らしいしぐさにこわばっていた表情を緩めてから、私はシェスリーに頼みごとをすることにした。


「さて、

私はこれから、朱鷺杜がいない間に今回の依頼の後始末を行なってしまおうと思うの。

シェスリー、手伝ってくれる?」


シェスリーはとことこと応接間の奥に併設された給湯室にカップを運んでから、戻って来て私の間に立つと無表情な瞳の中に少しだけ喜悦の色を浮かばせて頷いた。


「それじゃあ、シェスリーには嫉妬狂いなパパさんから代償の回収をお願いしようかな。

私は、その間に朱鷺杜が造ったアレに「魔王さんの魂」を投げ込んでくるから」


私の言葉にコクコクと頷くシェスリー、受付嬢として必要な科白以外はほとんど喋らない子だが、最近はあくまで無表情ではあるがこのような感情表現してくれるようにはなった、一歩前進かな?

と、少しだけ頬を緩めて私達はそれぞれの仕事にむけて歩き出した。



彼女達がいなくなり殺風景な部屋に戻った応接室に、あばら家ゆえに吹き込んでくる寒い風、それによって壁に架けられた額縁が人知れず音を立ててゆれていた。




  (株)異界運送社 社訓


       一つ、 受けた依頼は全身全霊をかけて臨むべし(笑)

       一つ、 貰うべき報酬は依頼に見合ったものを貰うべし

       一つ、 シェスリーの笑顔は絶対である!!

       


     代償を計る重りは、奪いし物を重りとすべし。

        金には金を

        義には義を

        情には情を

               

     そして、魂には魂を持ってその代償とするべし。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ