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傲慢紳士と依頼内容

彼が現れた瞬間、今までまったく動かなかった店が急に動き始めた。

ギルフォードが朱鷺杜が現れた後の(株)異界運送社に感じた印象はそんな感じだろうか。


彼はまず、私達を店の奥の応接間に通した。

と言っても、表と同じくテーブルとソファが置かれただけの殺風景な物だったが。

それでも、これは彼らがスラム街に居を置く一商人である事を考えれば、貴族である私には少々物足りないが中々の対処であったと言えるだろう。ソファ自体も中々の座り心地であったしな。


少し驚いたことだが、彼は私の部下の二人にもちゃんと礼節を持って対応しているようだ。


私の後ろをついて来る二人にも、丁寧な礼をしていたし今も私だけで無く二人に対してもお茶が出されている。

勿論、貴族である私の部下なのだから、彼ら二人の身分はかなり高い。身分の低いトールでさえ普通の市民ならうらやむ程度の資産家の息子であるし、もう一人のタガルは、一般的な身分は決して高くは無いが、私の求めに応じて引退した高名な元傭兵なのだ。

その二人のことまで調べ上げているとは思いはしないが、それでも貴族である私の部下を、スラム街の一店舗の店主がむげに扱って良いはず無い!


其処の所は、彼はしかと心得ているようだ。


ギルフォードは、店の評価という建前のもと繰り出している、傲慢な思考能力の無駄な行使を一端留めてから、受付嬢が入れてくれた紅茶に手を伸ばす。


フム、器は東方の白磁に細工を施した流麗なデザインの高価なものだね。

使われた茶葉は、アースリオン山脈の純正茶葉か!

こんな高価な物を...。いや、来客が私のような高貴な気族であることを考えれば、この対処は至極当然のことだといえような。

大方、店主が遅かったのは私が来客するのをどこぞから聞き知って、急いでこの茶葉を買い付けに言ったのであろう、そう違いない。


いや、最初は粗野な優男かと思いはしたが、彼は中々出来た男ではないか。


そんな感じで、ギルフォードの心理は自らの依頼を伝える前におおむね懐柔されてしまっているのだが、それに気がついている人間はほとんどいなかった。



「それで、ギルフォード様当店にどのような御用でございますか~?」


ギルフォードが出されをお茶を飲み干して茶菓子に舌づつみを打っていた所に、正面に腰を降ろした朱鷺杜が話を切り出した。

ギルフォードは口の中に入っていた、餡を練りこんだ焼き菓子を数回咀嚼して飲み込んでから。


「それでは、早速商談に入らせてもらいましょう」


と、大物ぶって切り出した。

実際、前置きも無く自分の用事だけを押し付けようとする、このようなやり方は商売人にとってはかなり嫌われるのものなのだが、自尊心が高い上に朱鷺杜のもてなしを駄目なほうに請け負ってしまったギルフォードはそのことに気がついていない。

建前もお世辞も商売人にとっては、たとえ虚言だとしてもお店の評価に直結するもの、話を円滑にするためには決して忘れてはいけないものなのだ。

まあ、朱鷺杜も純粋な商人とは言えないので対して気にもせずにギルフォードに先を促した。


「私は今回、ある珍しいモノを手に入れましてな。

それを、さるお方の所もまで運んでもらいたいのです」


ギルフォードの話によれば、彼は数日前にこの大陸では珍しい生き物を拾ったそうだ。

彼が言うところの珍しい生き物をどこで拾ったかと言えば、彼が懇意にしている貿易商の荷物に紛れ込んでいたらしい。

発見してすぐに睡眠薬を嗅がせて、眠りの魔法陣を書きこんだ木箱に梱包したので、それを今回朱鷺杜にそのさる御方の所まで輸送すると言うのがギルフォードの依頼だった。


「それで、ギルフォード様その珍しい生き物とは何かお聞きしてもよろしいでしょうか?」


朱鷺杜の至極まっとうな疑問に、ギルフォードはもったいぶるかのように数回首を振ってから。


「私も詳しい名前などは知らぬ、だがその商人がいうには、あれは『妖精』のようなものなんだそうだ。

何でも、あれがもぐりこんだ積荷はとてもいい値段がつくのだとか。

まあ、その辺は商売人達の願掛けなのかもしれないが、私も一目見た時にぴんと来たのだよ」


言が進むうちにだんだんと熱くなって来たのか、ギルフォード拳を握り締めてだんだんとソファから腰を浮かべていき、最終的には立ち上がって心情を心情を吐露するように叫んだ。


「これならきっと、閣下のお目どおりも適うに違いないとね!!!」


すっかり熱くなって、依頼を受けるか決める前に配達先を喋ってしまったギルフォード。

しかも、それはわかってしまえば積荷の中がどんなたぐいの物なのか予想が出来てしまう類の失態だった。

王国宰相閣下の嗜好は庶民までもろバレだからである。


本来は、若くして宰相まで上り詰めた宰相閣下クレア・ヒースローが周りにうじゃうじゃと寄ってくる腹黒い貴族のお嬢様方から逃げるために流した噂が起因なのだが。


その噂こそ、宰相閣下は『曰く、可愛いらしい小物がお好きである』や『曰く、宰相閣下は女性が苦手である』であり。

そして、決定的とされているのが『宰相閣下曰く、幼女愛好者である』だった...。


 

   依頼主 ギルフォード・セドリック

 

  仕事内容 贈り物の代行宅配。


  積荷内容 可愛らしい小物?動物?幼女?


                   観察好きの幼女の走り書きより抜粋      

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