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第八節 冷たい肌触りの一線

 エクソテックス本社の応接室。

 そこで社長を待つよう指示された僕たちは、扉が見える側の長いソファーに腰を掛けた。

 対面には一人用ソファーが二つ並んでいる。


 木目の壁は薄いライトに照らされており、一つの大きい観葉植物が置かれていた。

 こういう観葉植物って、誰が毎日水あげてるんだろう?

 少々閉鎖的で居心地が悪いな。


 吸血鬼たちとの会談からわずか二日、社長にビジョンの電話をした際に呼び出された。

 大江戸さんと合流してからかなり経つが、彼は奇妙なほど物静かであった。


「申し訳ないね、毎度来てもらって」


 扉が開き、社長が見えた。

 僕は軽く会釈するが、大江戸さんは見もしなかった。


「報告は聞いたよ。参加者の一人はトドメをさせず、別組織のものに身柄は攫われたんだったね?」

「ええ、そうです」

「次のビジョンが見えたということは、勝利したと捉えてもいいだろう。君たちの参加資格が失われていないのは確実だ」


 たしかにそうなるか?


「さて、報酬だが……一千万ずつ用意した。無論、銀行を通しての送金は無理だ、君たちは契約上インターンだが税務署等に目をつけられる可能性を考慮し、キャッシュになる」

「フヒャ」


 一千万円……もう笑うしかない。

 パソコン何個買えるんだ、好きなものなんでも買えるじゃないか。

 車も買える、お父さんの遺産と合わせたらどれだけ余裕が出るんだ?

 自炊やめちゃおうかな?

 はわわ……。


「待ってください、僕の運命の女性は?」

「……候補者は何人かいるが、絞り込み中だよ」


 なんとも言えない表情だ、マジか? みたいな顔をしている。それも裏契約の重要事項だろうが!


「俺ァ、いいや……次は海外だァ、現地で活動するだけのルピアを用意してくれ」

「ルピア……インドネシア・ルピアかい? 次はインドネシアなんだね?」

「あァ」


 社長、僕も初耳だよ。

 見えた景色の情報からエクソテックスの総力を挙げて国と地域を特定するんだと思っていた。

 凄いな大江戸さん。


「俺の防具も長内のパワードスーツも、持ち込めねぇだろ?」

「正直難しい、軍事組織との裏取引とはわけが違う」


 パワードスーツ無しの戦闘……脳裏に蛇頭の大男、与野さんとの初戦が過ぎる。

 腕を抉られ、へし折られ。大江戸さんが銃創を負って死にかけたあの戦闘を。

 血まみれの惨状、タバコの煙臭さに交じった錆びた匂い。

 兵器の有無は、すなわち生死だ。


「しかし朗報だ、ある権力組織が協力に確約した。海外での活動も不自由はしないだろう」

「ふゥン……会紡機の買い手が見つかったってとこか?」


 大江戸さんがそう言った瞬間、社長の表情は一変した。


「君は……」


 今までの温和の仮面が剥がれる、なにを考えているかわからない人だったが……首を少し落として覗き込むように大江戸さんを見つめる。

 鋭い眼光には、警戒の色が走っていく。


「……その組織というのはどういう人なんですか?」


 ここまで来たら、多少掘っても問題はないだろう。

 嘘だ、僕も警戒されるくらい頭が良いと思われたいだけだ。


「長内くんにもわかりやすく言うなら、そうだね。所謂、大手財団だ」


 財団、ピーンと来ないな。一体なにしてる組織なんだろう。

 こんなんだから僕は呆けた顔をされるだけで警戒されないんだろう。


 だが話のスケール感はわかる。

 僕たちは一体、なにに巻き込まれているんだろう。


 ──あれよあれよという間に、僕たちは飛行機に詰められて飛ばされた。

 海外に身売りされる人間とはこんな気分なのだろうか、と最初は思ったが。


「いやぁ飛行機楽しかったですね!」

「なにが楽しいンだよ、あんなのよォ……」


 飛行機に乗ったのは人生で二度目であった。

 離陸の瞬間、光り輝く街の光が粒になっていき、次には広大な海。

 悠然と浮かぶ雲の上を静かに走る機体……幻想的とはこれを指す言葉だろう。

 後半は寝ていたが。


 インドネシア到着後、空港を出れば肩に圧し掛かるほど重く、顔にパックをしているかと思うほどの湿気。

 歩道に出れば斜めに首を傾げる木々たち、路上に座り込む人々。なにを運んでいるだかわからないトラック。


 圧倒的な異世界感だ。

 ここで呼吸しているだけで、まるで自分が旅Vlogの動画に入り込んだかのようだ。


 だというのに、大江戸さんはげっそりとした顔をしている。

 ビジョンを見た時もぐったりしているし、結構酔いに弱いタイプなのだろうか?

 軟弱だぜ。


「お腹空きましたね、インドネシアと言えばなにが有名なんです?」

「俺たちァ遊びに来たわけじゃねぇんだよ。会紡機戦の敵を倒してさっさと帰る為に来たんだぞ」

「ちょっとくらい、いーじゃないですか」


 自分でもこの油断する癖が悪いとは思うのだが、初の飛行機に初の海外には抗えないのであった。


「明後日学校(ガッコ)なわけ! 親も口うるせぇの! 万年休みのオメェとはワケが違ぇの! わかるかァ!?」

「……大江戸さんも頭に布なんて巻いちゃって、ノリノリじゃないですか」

「ぶッ飛ばすぞテメェ! 変装に決まってンだろ!」


 言い合いをしていたせいで気づかなかったが、すぐ近くに黒スーツに浅黒い肌を持つ男が手を後ろに組み突っ立っていた。短い髪に上唇には濃い髭がある。

 また反社じゃないだろうな、もう嫌だぞ生身で反社の相手は。


「オオエドとオサナイ?」

「あァ、そうだが?」

「着いてくる、してください」


 カタコトな日本語で不愛想に彼は歩き出す。

 歩調も速く一切振り返らない。

 付いていったほうが、いいのだろうか。


「財団とやらが雇った人間かァ?」

「社長も結構説明不足ですよね」

「財団経由だから、詳細知らねぇんじゃねーの? ヘッ、無責任な大人のやりそうなこったぜ」


 そう言って彼も歩み始めた。

 お腹が減ったが飲食店に寄ってくれるだろうか……それよりも今はパワードスーツの代わりがどうなるかだ。

 すぐに車へと案内される、普通のセダン車で高級感もない乗用車といった見た目だ。

 大江戸さんが自然に乗り込むものだから乗り込んだが、当たり前のように街の中心部から離れていく。


 緑豊かで建物が密集しているところとガラリとなにも建たない更地が極端だ。

 シミュレーションゲームみたいだ、更地はまるでグラウンドのようだが、なにに使われているのだろうか。

 とにかく金の匂いがしない。今運転しているこの男は、金持ち関係に派遣された人材のはずなのに人も物も場所も前提にそぐわない。


「大江戸さん、なんか怪しくないですか? どこに向かってるかもわからないですし」

「現時点ではジャカルタ郊外の工業団地だァ、オメェはジャカルタすら知らねぇだろうがなァ」


 怪しいにフォーカスしろよ。


「大江戸さんそうじゃなくて……」

「今の俺を頼りにすんじゃねぇ、俺ァ兄貴のことで頭一杯だからな。脳はオメェに任せるぜ」


 ほう、頭脳派担当ということだろうか?

 この参謀である策士王雅に任されよ。電気信号がバチバチと迸るのが見えるだろう?


「すみません運転手さん! お腹が空いたんですけど、どこか伝統的料理がある飲食店に」

「やめとけ長内、いきなり異国料理なんて食ったら腹壊すだろオメェ」


 出鼻を挫かれる。


「任せるんじゃなかったんですか!?」


 ここでこちらの指示に従うようであれば信頼のピースになる。

 強行するのならば、逃がすつもりもないということだ。騙されている可能性が高いと判断できる……という僕の作戦が台無しだ。

 しかし彼の言い分はもっともかもしれない、僕はお腹がゆるい。

 戦闘前に腹を壊すのが一番よくないだろう。


 運転手は僕たちをチラチラと見ながら、車を進めていく。

 朝八時にはふさわしくない、清涼感の欠片もない物々しい倉庫に辿り着く。

 そこには三人の男たちが控えており、服装はラフだ。


 運転手さんは無言で車を降り、僕と大江戸さんもすぐに降りる。

 すると運転手と倉庫に居た男の一人がなにかの言語で話し始めた。インドネシア語か?

 忘れるところだったが、社長に渡されたAI翻訳イヤホンを耳へ差すと声が聞こえた。


『あれが例の二人ですか? 突然のことでしたが良い物を用意できましたよ』


 男は媚を売るような態度で運転手さんに語っている。

 良い物、とは一体なんだろうか。


 奥に控えている二人の後ろには長いテーブルがあり、大きいアタッシュケースやギターケースのようなものが大量に置いてあった。


「じゃあ、あなたたち、あっちで選ぶ」


 運転手さんがこちらへ振り返り、テーブルを指差した。


「怪しい奴らだが陥れるつもりはねぇようだな。インドネシア語の時も変なこたァ言ってなかった」


 大江戸さんはイヤホンもつけずにインドネシア語が聞き取れるのだろうか。

 優秀すぎて怖い、ならばどう考えても頭脳担当は君でしょうが。


 僕たちがテーブルへ近づくと、控えていた二人の男が次々にケースを開けていった。

 銃、銃……銃、銃々。

 数々の銃が二十個程並んでいた。


 これではまるで、蛇頭の男との再戦場所だった反社だらけの倉庫だ。

 しかも反社側が僕たち……どうしてこうなったのだろう。

 会紡機戦が終わった後、普通の生活に戻れるのだろうか……? とチクリ、針が胸に刺さる。


「僕、パワードスーツでこう、上手く言えないんですが……表社会とか裏社会とは別に会紡機戦っていうトーナメントに出場しているという感覚だったんですけど。これじゃあまるで……」

「言いたいことはなんとなくわかるぜ……ここまで来りゃ、俺たちャ完全に裏社会に呑まれてる」


 敵がいるなら殺してしまえ、裏社会が協力するからお前らは勝ち続けろ。

 そういう道具の一部にされた気分だ、人の熱なんてどこにも感じない。

 ただただ冷たく、感情を無視した仕事を押し付けられている気分だ。


 社長はどこまで知ってるんだ、戦闘の結果で殺してしまうことくらいは考慮しているだろうが……僕たちをテロリストかなにかだと思ってるのか? 殺す前提じゃないか。

 僕は崩術師だが単なるバイトの一般人だった。大江戸さんはゲノム強化剤とやらを投与されたが、単なる高校生だった。

 そこが、人間の人生がまるで考えられていないように感じる。


 で、でも。


「防具も武器もなく突撃するよりは、あったほうがいい……ですよね」

「あァ……気に食わねぇが、ここで突っ撥ねて死んじまったら元も子もねぇ」


 結局僕たちに選択肢などなかった。

 誰のせいでもない、最初からこうなるしかなかったかのように収束している。

 人の思惑でもない、戦うなら武器が必要だから銃を手に取る。


「だが、殺しは最終手段だ……最悪、肩や足を撃てば死にはしねぇ」

「そうです、よね」


 詐欺師に騙されている気分に陥る。

 安全の為だから、こうするしかないから、そう上手く言いくるめられて悪事に加担させられているといったような。

 しかしここで銃を手にしないという選択をいくら考えても取れなかった。その言い訳が思い浮かばない。


「消去法で拳銃だな。アサルトライフルは狙いが付けられるかわからねぇし、取り回しもよろしくねぇ」


 拳銃に手を取ることを誰も止めはしない、冷たい感触に見た目よりも重みを感じる。

 感情を閉ざしながら、僕たちは拳銃を手に車へ戻った。


 相手を見て使うかどうか決める、使うと決めたら迷わない。

 そう大江戸さんとの会話で取り決めが行われていくが、お互い動揺が漏れていた。


 銃を手に取らない言い訳ではなく、逆の言い訳はいくらでも沸いた。

 会紡機戦の参加者が百、二百人と居たら銃なしで勝ち上れるとは思えない。

 単純にパワードスーツなしでは決定打もない。僕は崩衝(ほうしょう)という必殺技があるが、当てるまでの身体能力がない。大江戸さんは身体能力があるが決定打には欠ける。

 銃なんてただの道具で、使い方次第だ。


 なんて、誤魔化し。


 人間、金があれば安心する。

 安全が脅かされれば、武器があれば安心する。

 自分は安心で安全だと思える根拠があれば安心する。

 それだけなのかもしれない。


 大江戸さんは銃を手に取りながら、運転手さんに場所の指示を出していた。

 こんな迷いをただ口に出して、解決策を提示しないのはどちらにとってもよくない、そう思って僕は黙り続けていた。


 途中で寄った店で買ったカップラーメンがそろそろ出来上がった頃だろうと、僕は銃を脇においた。

 匂いはするのに、美味しそうだと感じない。

 すすってみても味はしない。


 そうこうしているうちに、早いんだか遅いんだか……ビジョンで見えた村の付近に辿り着いた。

 地元の田舎風景とはなにかが違う。

 鬱蒼とした自然に取り囲まれて整備されていない道、まさしく村だがまったく同じ構造をした古風な民家が並んでいる。 

 区切られた池の中は泥水で満たされていて、全体が不気味だ。


 僕たちは村を一望できる少し離れた場所で降りようとした時、運転手さんがこちらを見た。


「私あなたたちここで待ちます。あなたたち死んだ時、置いていきます」


 死体は拾わないと言っているのだろうか、縁起でもない。

 僕は会釈をして車を降り、反対側のドアから大江戸さんも降りた。


 まずは偵察だ。

 村には浅黒い肌を持つ、いかにも村人な人たちが多くいる。

 少ないながらに子供も居て、親の後をついてまわっている。

 あの金髪碧眼の青年は色白だった、見れば一発でわかるはずなのに見当たらない。


「長内、いいかァ? 村人を巻き込まねぇよう、離れた場所に誘導することを考えンぞ」


 視線を切らず僕は頷く。

 ある一軒の家から、あいつは悠然と現れた。

 しかし、その見た目は異質そのもの。

 所々明るい青が入った銀色の甲冑を身にまとい、手には長い西洋剣。


 ファンタジー世界から飛び出してきた、騎士そのものな彼とすぐに……目が合った!?

 冗談だろ、どれだけ離れていると思っているんだ!?


 彼はたった一歩の跳躍で迫りくる、まるで空を飛んでいるかのように。

 こいつもゲノム強化剤を使った超人なのか!?


 あっという間に僕たちの前へ降り立った彼に、僕たちは銃口を突き付ける。

 騎士の表情は冷静だ、闘争心は見て取れない。


「敵意が漏れ過ぎだね、君たちは素人だな?」


 携えた剣も構えずに、そよ風のように問いかけてくる。


「悪いことは言わない、私と戦わないほうがいい」

「俺たちゃたしかに素人だ、だがそれは勝てない理由にはならねぇぜ?」


 僕は素人じゃないとカマを掛けようかと思ったが、大江戸さんが先に牽制した。


「勝つ負けるの話じゃない。一般人の少年たちを叩きのめすほど私の騎士道は落ちぶれていない」

「騎士道だァ?」


 僕も大江戸さんと同じ印象を受けた。

 キャラに成り切っているのだろうか、話が通じないタイプか?


「つまり戦わないということですか? あなたはなんなんです」

「私は君たちで言うところの──異世界の騎士さ」


 異世界の騎士、異世界の。

 異世界、ガチのファンタジーなのか?

 たしかに会紡機そのものが異世界産だと社長は言っていた、なら異世界人が現れてもおかしくはない。

 妖怪を知る見習い崩術師の僕とて、受け入れがたくはある。妖怪は人間社会と密接に関係してきたようだし、伝承もある。

 言うならUFOとアニメの魔法を信じるかは話が違うといった感覚だ。


「俺にとっちゃァ長内と大差ねぇよ」


 あるが?

 崩術は中国古来の神秘パワーだがオカルトじゃないもん!

 東洋医学の気みたいなもんだもん、多分。


「じゃあなぜ異世界人が日本語を喋れているんですか? そんな流暢に」

「会紡機戦の副作用だ」


 その一言で測り知る。

 こいつは会紡機を、僕たちや社長よりも遥かに知っている。

 大江戸さんのゲノム強化剤の謎には繋がらないだろうが、根本的なところで重要な情報を持っている。

 負かせて引き出すか、今提案に乗って引き出すか。


「わかりました、提案に乗りましょう。いいですよね大江戸さん」

「あァ、会紡機戦の情報でリードすれば裏社会の傀儡にならなくても済むかもしれねェ」

「話がわかるようで助かるよ」


 まさか二戦目で異世界人と当たるとは思わなかったが、これは思わぬ収穫かもしれない。


「求めているのは会紡機の情報か? 私たちの世界では言い伝えも事例もある。そっちにはないのか?」

「ええ」

「わかった、説明しよう」


 彼は唐突に歩き出し、大岩に腰を掛けた。

 僕たちは銃を降ろしこそすれ、警戒は解かない。


「まず会紡機というのは、望めばたった一人、どんな者にも会える神の遺産として伝わっている」


 神の遺産。神が作ったものなのか? 一体なんの為にそんなものを。


「そして会紡機そのものによって資格を与えられたものは勝ち残る使命を帯びる」

「ほォ。戦わないって選択肢を取ったら、どうなんだァ?」

「相手に殺されるか、戦意を失い降参すれば、そのまま敗北だ」


 彼の言い分は一件矛盾しているように思えたが、なるほどね。

 騎士は戦意自体はあるが、僕たち相手だと一方的になるから敗北を勧めているわけね。


 そして騎士は続ける。


 会紡機はいつ、どこで、なんのために生まれたかは不明だが、異世界では過去に何度も会紡機戦を巻き起こしてきた。

 しかし今回のように、ルーツと異なる世界においても会紡機戦が出現する場合もあるらしい。


 会紡機戦には予選と本選といったような段階があり、予選は参加資格者を非参加資格者が倒せば資格が移動する。

 あくまで資格者が誰かはわからないから偶発的な戦闘の結果として。


 最大二名まで一枠で参加可能であり、これは分不相応に弱い人たちだとそうなるが……僕たちのケースの場合についてはどうだかわからないらしい。

 会いたい人がいる上で戦闘能力が高い人間が一次選抜される傾向にあるようだ。


 その世界に参加資格に値する人物が少ない場合などに、彼のように異世界から招集されることもあるようだ。その際にその世界の常識や言葉がわかるようになる。

 勝ち抜くか敗北しながらも生存した場合、帰れるのかは謎。


 本選が始まると対戦相手のビジョンが見えた四十日後にどちらかの元へ突如ワープする。ビジョンこそが本選開始の合図となる。

 本選開始後、別の非参加資格者に倒されても資格は移動しない。

 協力行為についての是非はわからない、参加資格者を抱えた一国が参戦したが滅ぼされた、と。


 勝ち抜いた末に会える人物は、存在した者なら誰でも──死者でも可能。

 とはいえ、生き返るのか霊魂なのかまでは不明。


 基本的には相手の顔は見えても、ビジョンの途中経路を正確に覚えていくことも難しいし異世界は交通も発達していないから戦いに行くのに何年もかかってしまうらしい。


 僕たちのこれは無駄骨だったわけか、しかし奇襲可能という意味では有益な情報だろう。

 この人は知らないようだが、ワープ云々は強制戦闘開始のゴングであって、その前に倒していた僕たちはペナルティを受けていない。


「そして勝ち抜いた者の元に会紡機はその姿を現す。こんなところだ」

「なるほどねぇ。で、俺たちに負けを認めさせたいわけかァ」

「私にも会いたい者がいる、君たちでは私に勝てない」


 これ以上知るべき情報はないはずだ、大江戸さんも話を戻している。


 僕は寝ぼけ眼から逃れきることと報酬の為、大江戸さんは兄を探す為に会紡機戦に参加している。

 僕は会紡機戦に関係なく、戦闘自体に僕を見出していて報酬も十分な程は貰った。

 大江戸さんは吸血鬼に依頼しており、別口でお兄さんを探せる手段はある。


 だから、正直会紡機戦を続ける理由はないように思えた。


 しかしこの、手元にある銃がそうは言わない。

 ことが大きくなりすぎている、エクソテックス社と財団。

 果たして、はい逃げました。はい負けました。で済むだろうか?

 無事で済む保証はない、戦うのならばそうした実態の知れない組織よりも個人のほうがマシなのではないだろうか。


 僕たちはもう、逃れられないところまで来てしまった。

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