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第三十四節 不運な二人

 そろそろマスターさんに顔も覚えられ始めたかという喫茶店。

 やはり会議は喫茶店クラブで行うものみたいだ、大和さんにとっては。

 コーニングスさんには内緒で来た。


 初心者マークがよく似合う軽の愛車は、ついに二日前の事故でお釈迦となってしまったから、タクシーで来た。

 まるでセレブの気分だったが、僕には似合わないと感じてしまった。

 車は注文したが、納車はまだ先になるみたいだ。


 お父さんが遺した車を使うという手もあったが、ナンバープレート取れてるんだよな、再取得という手もあるものの……。

 でも、お父さんの遺品の一つを事故直後に使用する勇気はない。


 万が一にでも、擦ったりまた事故を起こしたくない、綺麗なまま取っておきたい。


 僕は口裂け女の話を聞いてからより一層そう思っていた。

 お父さんはもっと綺麗に、穏やかに死ぬべきだった。

 だから、残されたものを傷つけるのが、それに加担しているようで嫌なんだ。


 今日も店員に従事する頼成さんのかわいらしい歩き方を見つめながら、僕はそう考えていた。


「……」


 なんだか気まずいので頼成さんを眺めていたのだが、まだ大和さんは不機嫌そうだった。

 彼は今日、合流してからなぜだかずっと不機嫌そうに口数が少なかった。


「なんかありました?」

「あァ、親と喧嘩になったンだよ。顔に出てたか?」

「まあ、結構付き合いも長くなってきましたからね」


 僕はそう言って、頼成さんが運んでくれたメロンソーダを飲む。

 液体の形をした砂糖を流し込んでいるみたいに甘ったるい味が、炭酸に乗って舌を通る。


「嫌だったら言わなくていいですけど、なんで喧嘩したんですか?」


 外出の理由は表向きだが、エクソテックス社とインターンと受験勉強とか、息抜きの遊びとかで誤魔化していると言ってたけど。

 うまく行かなかったのだろうか。


「吸血鬼共のメッセ見られちまったンだよ……お前にそンなことしてる暇あるのか、だとよ。兄貴が失踪してンだから探して当然なのによ……」

「そうですか……」

「大した進展もねぇしな」


 難しい問題だ。

 たしかに未だ十七歳の受験生にはそんな暇はない。

 ましてや彼は海外の難関大学に行くのだろう、親からすればお兄さんが失踪した心労となにをやっているかわからない大和さん……不安だろう。

 だが、家族を探したい、お兄さんを見つけ出したい、彼の動機も完全に理解できる。


 前も同じようなことを考えたが、やはり答えは湧かない。


「まァ、崩術の練習もやってたの見られたし、狂っちまったって思ってンのかもなァ」

「そうなんですか? ちゃんとやってたんですね」

「オメェがやれつったンだろ!」


 まぁそうだけども……。

 修行講座動画も頑張って作ったけども。

 まさか続けてくれていたとは、ちょっと嬉しいのと、それが発端になってしまった申し訳なさが両方がある。


「ふン、まァいいだろ。兄貴を見つけ出せば済む話だ……今重要なのは、会紡機戦の相手とオメェのダチとコーニングス含めた財団の話だろ」

「そうですね……わかりました」


 僕も真剣に話をするとしよう。

 もう一度メロンソーダを飲んで、糖分をチャージした。


「まず会紡機戦の次は二人組だろォな。今までの話を総合すると、二人組は基本的にそンなに強くないはずだ」


 そうか、失念していたが二人組なのか。

 ビジョンでは男女の二人が見えていたし、思い返せば二人ともと目が合っていた気がする。


「らしいですね、得体の知れない力を持っていないといいですけど」

「コーニングスを通じて、財団から調査が入ってるはずだ。ンな日常的に戦ってねぇだろうから尻尾出すとは思えねぇけどな」


 一応、病院帰りの車で大和さんがビジョンの詳細をコーニングスさんに伝えていた。

 調べろとは言っていなかったが、財団なら調べていても不思議ではない。


「問題はそのケープタウンの二人組じゃねぇ、スーツが間に合わねぇってこった」


 それは僕も問題視していた。

 昨日グループメッセージでパワードスーツ案を送った時に、気づいた。


「どうします? エダーク財団から軍用スーツ借ります?」

「相手をナメてるわけじゃねぇが、やめとこうと思ってる。エクソテックス社のは隅々まで調べりゃ、変な機能ついててもわかるが……財団の技術なんて検討もつかねぇだろ、元々オカルトを管理してる組織なんだからよ」


 ふむ、と僕は顎を撫でる。


「たしかに……想像はつかないですね」

「どっからでも起動できる超小型爆弾を埋め込まれたり、意味のわからんウイルス仕込まれたり、いくらでも考えついちまう」


 なるほど、だから僕たちが設計に関わるパワードスーツは逆に安心なんだ。

 詳細な設計図も渡されてる、変な所があれば参照して発見できる。

 設計図自体に工夫されて、危ない機能が変哲なく盛り込まれていても大和さんなら気づくだろう。


 財団の保有しているスーツは、手を加えられても看破できないというわけだ。


「そんなん言い出しゃ、エクソテックスと財団が手ぇ組んでたら俺たちのスーツも危ねぇけどな……でも民間企業に技術提供する可能性は低い気もする。勝ち残り戦と考えりゃ力は必要だから、そこは妥協するしかねぇ」

「となると、スーツなしでやるしかないですね」

「あァ。二つ目は強制戦闘開始の四十日間を待つか否かだ」


 あ、それはあんまり考えていなかった。


「待つメリットとデメリットは両方同じ所にある、わかるだろォ?」

「全然わかりませんけど?」


 素直に僕は即答する。


「……こっちに来りゃ、罠を仕掛けれる。あっちに行くことになりゃ、罠を仕掛けられてる可能性がある。単純な話だァ」


 彼は少し呆れたように、でもちょっとはみかみながら言った。


「あー……罠ですかぁ。僕結構そういうのには自信ありますけど」


 悪知恵の働く小悪党担当だからな。

 いくらでも罠なんて思い付く、李さんがワープしてきた時の距離感通りなら、もはや相手を一歩も動かさず封じ込められる可能性すらある。

 釣り糸を張り巡らせて、触れたら爆発するぞとブラフを掛けるとか。

 精巧なカカシのような人形を配置して脅すとか。


「運否天賦だが、俺たちゃ最近、どう考えても運がわりぃからなァ……」


 その意見には僕も同意するしかなかった。

 伝送爆弾(メーリング・ボム)事件が大和さんの友達の妹だったり、拷問されたり、恩師と戦わされたり、空さんとの再会が素直に喜べるものではなくなったこと、運転中にビジョンを見せつけられたこと。

 どう考えても運が悪い。

 運が良かった瞬間など、あったのか? とすら思う。


「場所って普段から利用されてそうな場所にいたんですか?」

「居場所くらい財団が突き止めンだろォ?」

「……ほんと、僕の脳みそと交換しません?」

「俺ァ、ダチに敬語使い続けるような脳みそになりたくねぇっつの!」


 そう言って彼は笑った。

 家族と喧嘩しちゃって不機嫌になっていたことを忘れたように。

 よかった。


「じゃあ奇襲しますか」

「どうせパワードスーツが間に合わねぇんだからそれがいいわな。あっちから来なけりゃの話だが」

「じゃあ早めにやりましょう」

「ンじゃ次は、オメェのダチの話だ」


 空さんの話か。

 もはや会って話すしかないと思うのだが……彼らの話を聞くだけ聞いてみないと判断のしようもない。

 普通に幸せに暮らしているのならば、彼の彼女が人間でなくたっていいだろう。


「俺も同席すっからよ、都合つけてくれや」

「え? なんで大和さんが?」


 そしたら空さんも話しづらいだろう。


「会紡機戦の説明は避けて通れねぇと思うんだがな……ま、強制はしねぇけど」

「うーん……」


 とにかく忘れないように、会う約束だけでも取り付けておこう。

 そう思って彼にメッセージを打ちこむ。

 日程が決まってから考えればいい話のはずだ。


「考えておきます」


 そう告げた瞬間に、即座に空さんから返信が返ってきた。

 考えさせる隙も与えないメッセージが。

 都合がなければ、今日でもいいか? といつもながらのクールな短文が。


「なんか今日って言ってるんですけど……」

「ちょうどいいじゃねぇか」


 こうなれば、大和さんも交えるしかないだろう。

 ここで解散して、その後空さんと会うというのも二度手間だしな……。


 そう考え、現在地情報を添付したメッセージを送りやり取りを続けると、今から来ることとなった。


「今から来るみたいです」

「そォか、案外オメェと一緒で崩術師だったのかもしれねぇな」

「そうだと心強いですね……」


 テンスさんが家を去ってから、明らかに崩術の進みも遅い。

 遅いといっても進歩がないわけではないが、空さんが崩術師なら上手くレクチャーしてくれるだろう。


「最後にコーニングスと財団の話だがなァ」

「はい」

「オメェ、彼女作ったほうがいいんじゃねぇの?」

「はい?」


 同じ言葉で僕は聞き返す。

 絶対この後深いこと言うぞ、間違いない。

 さすがの僕だって、学ぶんだ。


「まずオメェは女に対してかなり弱い。あとゾーニングは趣活より私生活に普通の彼女がいたほうがいい……これを解決するには彼女作るしかねぇだろ?」

「作れたら苦労してないですけど!? どうやって作ったらいいんですか!?」

「そりゃあ、恋すンだよ! 打算で付き合うなんぞよくねぇし、意味もねぇ!」


 彼は自分で言ってて恥ずかしくなったのか、腕を組みながらそっぽを向くように顎を持ち上げる。

 照れてる……。


「コーニングスとの距離も近すぎだァ、デレデレしやがって」

「ちゃんと警戒してますよ!?」

「頼成を見る目と同じなんだよォ!」


 そう大和さんが控えめながらも大きな声で言うと、遠くで、はい! と返事が聞こえた。

 頼成さんが自分を呼ばれたと勘違いしてしまったようだ。

 さすがに店内に響き渡るほど大きくはなかったが、聞こえはする声量だった。


 コーニングスさんが悪いんだよ、かわいくてセクシーだからさ。


「呼びましたか?」


 頼成さんがひょっこり顔を出した。

 対応は大和さんに任せよっと。


「あー……いや、呼んでねぇンだけど、ちょっとオメェの話してたんだよ」

「恋がどうとかで私の話を……!?」


 そこも聞こえていたのか。

 彼女は驚いたように目を見開き、口を半開きにしている。

 なにか期待しているような、不安そうなような、よく掴めない表情だ。

 不敵で感情を読ませないあの顔を、社長を彷彿とさせる。


「いや……王雅ン家の池のコイを、喫茶店に持ってきたら頼成が捌けるんじゃねぇかって話を……」

「大江戸くん……!? それは無理ですけど……っ!? しかもペットを……!?」


 二人は互いに引き攣ったような表情で応酬を続ける。

 やはり彼女はかわいい、でも僕は恋しているわけじゃないんだなぁ。

 恋、してみたいな。

 性欲と恋の違いがこの年になってもわからないのだから、望み薄だろうか。


「ああ、そうだよな、料亭じゃねぇもんな」

「そうですよ、びっくりしました……というか、ペットは食べちゃ駄目ですから!」


 その言葉に大和さんはぎこちなく笑う。


「メロンソーダおかわりで」

「かしこまりました!」


 彼女が離れたのを見届けてから、僕は頬杖を突く。


「大和さんも彼女できたことないんですよね……? 恋の経験はどうなんです?」


 なんだか、さっきのを見ていて浮気した彼氏みたいのように感じられた。

 杜撰すぎる言い訳すぎて。


「……どうでもいいだろ、今はコーニングスと財団の話だろうが」

「ほう……」

「……ねぇよ」


 モテそうなのに……。

 僕と同じじゃないか……さすが、ダチだ。

 そうだよな、抜け駆けは駄目だよな。


「話を戻すが、コーニングスは駄目だぞ? むしろあっちからアプローチしてきたら警戒を強めろ」

「自信ないんですけど、駄目なのはわかってますよ」

「ハニトラや情でコントロールされたらお終ぇだからな?」


 なるほど、そう繋がるのか。

 彼女を作れ、でも一般人にしろ。

 コーニングスさんは絶対に駄目だ、アタックしてきたら罠だ、と。

 さらに空さんのように人間じゃない存在にしても、安全な人ないいだろう。


 ちょうど空さんのことを考えていると、客が入ってきた。

 空さん……に、リートさんだ。


「大和さん、隣に」

「おう」


 その言葉に、向かいに座っていた大和さんがこちら側にズレた。

 深呼吸をして、緩まった緊張を再び張る。

 言葉の選び方を考えなければならない、急にあなたの彼女は人間じゃありません、なんてあまりに失礼だ。


「王雅、急に悪いな……そちらは?」

「こないだぶりです、えっと……大和さんです」


 空さんは隣に立ち、大和さんに視線を投げかける。


「大江戸大和だァ、王雅のダチだ」

「……漆真空です、俺も王雅とは高校時代から親しくしている」

「……私はまだ敬語で、リートです、空の彼女で長内さんと会うのは二回目です」


 少し奇妙な挨拶を交わし、対面へ彼らも座る。

 よし……まずファーストコンタクトだ、慎重に。


「王雅、新しい友達が出来たんだな……」

「え? ええ」


 空さんはなんだか感慨深そうに目を細める。そんなに意外か?

 疑問に思っていると、メロンソーダのおかわりが届いた。

 空さんとリートさんも、頼成さんへ注文する。


 不気味な沈黙が続く……僕も切り出す言葉が用意できていない。

 そうしていると、テーブルの下でなにか光が見えた。


 目をやると、大和さんがスマホで、こいつを信用していいンだな? というメッセージをデカデカと表示していた。

 それに僕は頷く。


「……とりあえず、空さんとリートさんの注文が来るのを待ちましょうか」

「ああ」

「さすが空のお友達さん! 気配り上手ですね」


 ……リートさん、人間らしくない彼女は手を合わせて感銘でも受けたように僕を見る。

 頼成さんからも彼女は見えていた、コーニングスさんからもだ。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の二人のように契約をした黄昏世界の存在は誰からでも見えるようになると言う。

 そういうことなのか、それとももっと別なのか。


「ジャブは今のうちに済ませよーぜ。そっちも、本題があるみてぇだしな……」


 大和さんがまずは口を開いた。


「中々大胆だな、嫌いじゃない」

「まず、タメ口なのはオメェらをバカにしてるわけじゃねぇ。嫌なんだったら、俺は黙るぜ」

「言っただろ? 嫌いじゃないって。本心だよ」


 大和さんと空さんが空中戦を繰り広げていた。

 ちょっと絶妙なムードだ、と軽い戦慄を覚えているとリートさんと目があった。

 僕は小さなジェスチャーで、大和さんと空さんと交互に指差し、バッテンを作って首を傾げる。


 リートさんは口パクでなにかを言いながら、オーケーマークを手で作った。

 まだ大丈夫か、まぁ空さんが怒った所なんて見たこともないし大丈夫だろう。


 って、これから糾弾するかもしれない相手となにをやっているんだ僕は。


「にしてもお前ら、ほんとに同じ年かァ?」

「王雅は高校の頃から、あまり顔が変わってないからな」

「苦労が沁みてねぇ顔してやがんだ、こいつは」


 む、苦労が沁みていないだと。

 たしかに高校卒業後は引きニートしていたが、アルバイトの経験だってあるんだい。

 空さんも僕をそう思っていたのか?


 少しばかりのショックを受けていると、空さんたちの飲み物が届いた。


 よし、本題だ。

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